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第1章
17混乱③
しおりを挟むカシュエル殿下はレオラムの目元を何度か撫でていたが、今度は何を思ったのか、動揺しまくるレオラムの鼻をかぷりと噛んできた。
「なっ!? かっ、噛ん、えっ?」
「ああ。つい。それで勇者にも話したが、レオラムは私の庇護下に入ったため今日から一緒にここに住むよ。この部屋は私の魔術が施されているため危なくないし、必要最低限の出入りしか許していないからここに入れる者は限られている。ゆっくりできると思うよ」
「いやいやいや」
驚きすぎて素で突っ込んでしまう。
マイペースにも程がある。噛まれた衝撃が収まらない中、普通に説明が始まったが本気で意味がわからない。
ほぼ初対面のはずだが、なぜ王子と暮らすことになるのか?
あとやっぱり、ついでに噛むとかどういうこと??
「……可愛い」
あわあわと落ち着きなく視線を動かしていると、とうとう王子の口からレオラムにかけられるものとして理解不能な言葉が出た。さっきも聞いた気もするが、それもこれも気のせいだ。
そして、また顔が近づいてきたと思ったら、親指で撫でていたところに吸い付くようなキスをする。
「でで、殿下っ」
「ああ。これもつい」
慌てて手で押し退けようとするが、軽く首を傾げ悪気もなく微笑む。
「ついって……」
「それで今日からここで暮らすよね?」
「暮らしませんが」
「なぜ? レオラムはパーティーを脱退したでしょう? ならもう自由だよね」
「そうですけど……。ああぁ~、殿下はマイペースって言われないですか?」
「言われないな」
王族だからかな。従えて当たり前なのかもしれないが、なかなかのマイペースさだと思う。
「何度も確認するようなことになって申し訳ないのですが、もう一度言っていただけますか? 殿下の庇護下に入り、王宮にあるこの一室に一緒に住むようにお話されているように聞こえたのですが」
「そう言った。レオラムはこれからずっとここに住む」
「ずっと!?」
聞き返したら、もっとハードルが上がった。
それと王宮のセキュリティー大丈夫? ……ああ、カシュエル殿下こそがセキュリティのようなものだから、その王子が良しとしたら良いのか?
いや、それでも勇者パーティーに所属していたからといって、貴族の端くれといえど王子からしたら末端の末端。身分もないに等しい自分が、王族と一緒に過ごすとかいろいろ問題がありすぎる。
幻聴ではなかったと目を白黒させていると、王子がくすりと笑う。
うーん。可笑しいな。こんなに表情が豊かな人だったっけ?
普段は無表情。召喚儀式の時に聖女に向けたように、必要に応じてにこっと笑うことがあるのは知っているが、それらはいつも戦略的というかそんなタイミングだったし、こんなに笑顔を見せる人ではなかったはずだ。
これでもかってほど不躾に見ながら考え込んでいると、また楽しげに笑われる。
「驚きすぎ」
「驚きますよ。そもそも俺、えっと私は田舎に引きこもる予定でしたし。明日の馬車も予約してあるのですが」
驚きのオンパレードだ。
カシュエル殿下と二人きりでいること自体が信じられないことなのに、その話の内容はもっと変で到底理解できるものではない。
なのに、さらなる問題発言。
「それは断りをいれておいたよ」
「はっ?」
こともなげに告げられ、当たり前でしょとばかりににこっと微笑む王子様。
断り?
勝手に?
そもそもどうして予定を知っているのか?
いや、それ以前の問題で、どうしてカシュエル殿下はレオラムを構ってくるのか?
「えぇぇぇっ~!?!?」
混乱の極みだ。
どこから突っ込んでいいのか、すでに地が出てしまったが相手は格上なのであまりいろいろ言えるような立場でもない。
ないけど、取り繕っている余裕もなく、ううぅーっ、どうすればと口を開いたり閉じたりしていると、ずいっと顔を寄せられそれはもう見事としか言いようのない微笑を王子は浮かべた。
「褒美が欲しいと告げた時、レオラムもそうすべきだと頷いてくれたから問題ないよね」
──問題大ありですけど?
レオラムは、さも当たり前のように無理難題を突き付けてくる王子を困惑を露わに思わず凝視した。
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