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14.魔法が使えるようになりました。
しおりを挟む私はしばらくの間ライアンとテント暮らしをすることになった。
猪の魔物が突っ込んできて、テントが半壊してしまったので、ライアンが夜までに壊れてしまった後ろ半分を部屋を分けるような感じで分離してくれて、「こっちを使ってくれ」と言った。
彼が「ローブを被って寝るから良い」と言ったので、藁みたいなのを敷いたベッドと毛布をもらって、そこで寝起きさせてもらうことにする。
服も汚れてしまったので、ライアンのズボンとシャツを借りることになった。
サイズはけっこう大きいけれど、裾をまくったり調節して何とか着る。
初めて履くズボンは驚くほど動きやすかった。
藁っぽいベッドはふかふかしていて意外と快適だし……。
私、屋敷の外でも普通に生きてるわ。
ふとそのことに気づいてはっとした。
社交場に行くのも嫌で屋敷の中にいるばかりだったけれど、こんな山中のテントの中で意外と普通に生きている。
その事実を改めて認識して、自分でも驚いた。
……まぁ、ライアンがいろいろとしてくれるからだけど……、でも、私も魔物が食べられるようにいろいろ彼に協力しているから、お互い様だ。
魔物をできる限り美味しく食べる試行錯誤は日々続いていた。ライアンの言った通り、一つ目猪は一角兎よりお肉のえぐみが強くて、塩をつけて乾かして燻製にしただけだと、まだ飲み込むのが辛かった。
でも、ピリピリの実を乾かして潰してつけて燻してみると、不思議なことにそのえぐみが辛さと混ざって悪くない意味での癖のある味に変わった。それこそカビさせたチーズみたいな。
山の茂みの中にはピリピリの実以外にも、グレゴリーが庭で育てていた調味料になる食材がたくさんあった。甘みを増やす甘樹の皮に、生臭い臭みを消す薬草に、いろいろ。
私たちはだんだんと魔力量の大きい魔物にチャレンジすることにした。
猪の次は、鹿っぽい魔物、熊っぽい魔物……。
基本は乾かして燻製にすることで、食べやすくなった。
それを野菜と一緒に鍋で煮込むと、生のまま煮た時のような泥みたいなのじゃなくて、旨味が感じられるスープになった。
ライアンはほぼほぼ山の中に魔物を狩りに行っていて、私はテントでお肉を燻す、そんな生活を続けること一月くらいした頃……、
「あれ……?」
私はライアンが食材の乾燥のための送風の魔法陣を描き直すのを見ながら目をごしごしこすった。――今、何か、見えたわ。
「どうした?」
「今、見えたのよ。こう緑色のぐるぐるした何か……、その魔法陣の上にぐるぐる……」
説明するのが難しい。
ライアンは、驚いたように口を開けた。
「それ、風の魔力じゃないか」
「風の魔力?」
首を傾げていると、ライアンは杖で魔法陣の隣に、何かぐるっとした模様を描いた。
その上をさっきの緑色のぐるぐるしたものが渦巻いている。
今度は消えないでずっと回転している。
「あ、また見えた」
「やっぱり、ソフィア、魔力が見えてるな」
ライアンは感嘆した声で言う。私は首を振った。
「私、魔法は使えないし……、魔力っていうのもわからないわ」
「魔力は生命の力だから、生き物ならみんな魔力は持っている。ただ、魔力を感じられるかどうか――魔法が使えるか使えないかは、魔力量が魔法があるかないかで決まるから……、俺と同じく、魔物を食べていたから魔力限界が上がって、魔力が見えるようになったんじゃないか?」
興奮したような口ぶりに私は「ちょっと待って」と首を振った。
「魔力が見えると魔法が使えるの? 一月、食べてるだけでそんなことってある?」
「魔力が見えれば、魔法を多分使える。一月だけでそこまで変化があるかはわからないけど――あんたはもともと、あと少し魔力量があれば、魔法が使える体質だったんじゃないか」
ライアンは自分が描いた緑色の風の魔力だというのが滞留している円の模様を揖斐差しながら「これと同じ図を描いてみろ」と私に杖を渡した。見様見真似で描いてみると……、
「あ、出てきた」
私が床に描いた図の上にも風の魔力がぐるぐるし出した。
「これは、風の魔力を呼び出す魔法陣の模様だ」
ライアンはそう言って、私を見つめた。
「ソフィア、あんた、魔法が使えるよ」
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