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8.元聖女はエルフの森に着きました。
203.
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リンドールさんの話は続いた。
「魔族討伐部隊は、魔族の隠し里を捜し回っていて……、その場所を見つけたらしい。そして、襲撃を実行したが……誰も戻ってこなかった」
私を見つめる。
「しばらく前にマイグリンだけが戻ってくるまで――」
「――魔族討伐部隊、というものの話を私は聞いたことがなかったが……」
エドラさんが訝し気な顔で呟く。
「お前のような若者には知らされていない。部隊について知っていたのはごく一部だ。――それにマイグリンが里に戻って来たのは、お前が出て行った後だからな」
一息吐いて、リンドールさんはまた私を見つめる。
「作戦は失敗、部隊全員が魔族の手で殺されたと考えられていた。――アイグノール様のご子息たちのの血まみれの遺品も見つかっていた。――遺体はなかったが、魔族に喰われたと考えられていた。だが、マイグリンだけが、しばらく前に急に戻って来た」
「しばらく前」というのは私をミアラっていう村の宿屋に置いて、お父さんがいなくなったその時のことでしょうか……。13年前のはずなんですけど……、エルフにとっては「しばらく前」になるんですかね。
でも……、
「それがどうして『裏切った』ということになるんでしょうか」
私はリンドールさんを見返した。
里に戻って来ただけで、どうしてそんなことを言われてしまうのか、わからないです。
「――マイグリンはこう言った。『隠れ里に逃げた魔族はもう他種族と争う気がない。これ以上の追及は止めて欲しい』と」
私たちは黙って顔を見合わせた。
魔族討伐で行って……、仲間は殺されたのに……、1人だけ帰って来た人がそう言ったら……、エルフの里の人たちはどう思うでしょうか……。
「アイグノール様はマイグリンはエルフを裏切り、魔族に与したと激怒された。そして、マイグリンを大樹の森へ幽閉した」
「……本当に、エルフを裏切ったんですか……?」
リンドールさんは、頭を横に振った。
「一人だけ、無事に、生きて帰ってきたら、そう思うだろう! しかも、囚われていたとかではなく――、あいつは、『魔族の里で暮らしていた』とまで言ったんだ」
言葉に熱が籠る。
『あいつ』……ですか……。
私はリンドールさんの青い瞳をじっと見つめた。
「リンドールさんは……、お父さん……マイグリンと親しかったんですか…?」
「マイグリン、それからアイグノール様のご子息のエレクシス様とは幼馴染だった……」
視線を落として、リンドールさんはそう呟いた。
「そして、私の父親も魔族に喰われている」
ぽつり、ぽつりと言葉が続く。
「私も魔族討伐部隊に志願していたが、力が足りなかった。部隊は特に魔力が強く、戦いに強い者が選ばれていたから。――私は……あいつに、マイグリンに助けを求められた。『魔族に追われているから、しばらく匿って欲しい。族長には言わないで欲しい』と……。死んだと思っていた者が急に現れて驚いた。――しかし、私はアイグノール様に報告した」
リンドールさんは感情のこもった目で私を見つめた。
「魔族討伐は私の目指すところでもあったから……マイグリンが魔族の側に立つようなことを言うのが理解できなかった。だから……」
私はそれを見つめ返す。
「魔族に、追われていたんですか?」
魔族の里で暮らしていたのに、魔族に追われて逃げて、リンドールさんに助けを求めたってこと……ですよね。
「詳しくはあいつは話さなかった。私がアイグノール様に報告したことを知って、ただ魔族の里から逃げてきたので追われている、と」
リンドールさんは金髪の綺麗な長髪をくしゃっとさせて、苦いものを食べたような顔で言った。
「……捕まっていたとでも、言えばよかったんだ。そうすれば……、なのに、マイグリンは、魔族をこれ以上追わないように、などと言うから……」
深いため息。
「私がマイグリンについて話せることは……これで終わりだ」
私はリンドールさんに問いかけた。
「ありがとうございます。――お父さんは大樹の森、というところにいるんですね」
「……そうだ。アイグノール様と謁見した悠久の大樹――その後ろに広がるのが大樹の森だ。我々エルフは、年を取ると大樹の森へ行き、木の一部となる。大樹は悠久の森に魔力を巡らせる」
ライガが「墓場みてぇだな」と後ろで呟いた。
背筋が冷たくなる。
「……それって……生きてる……んですか?」
『幽閉』っていうか……、お墓に埋める……みたいな感じじゃないですか。
「一部となっているだけで――死んでいるわけではない」
リンドールさんは首を振った。
「――そこに行けば、お父さんに会えるということでいいんでしょうか……」
「大樹の森は深い。どの木にマイグリンがいるのかはわからないが……、大樹の一部になっても意思は残る。――娘が行けば、何かしらかの反応はあるだろう」
「どうして、色々話してくれたんですか?」
リンドールさんは私を会わせたくない、という感じではないんですよね……。
最初会った時より、雰囲気が和らいでいる気がしますし、何でこんなにいろいろ教えてくれたんでしょうか。
「……お前がそこの人間たちや……悪食――里から出て行ったはぐれエルフにずいぶんと大事にされているからだ」
リンドールさんは視線を落として言葉を続けた。
「お前を見ているとどう接するべきかわからなくなる。魔族は憎むべき相手だが、エルフは仲間だ。それが混じっているとなると……。……マイグリンと魔族の間に何があったのか……お前を見ていると……知るべきじゃないかと、思い始めた」
「魔族討伐部隊は、魔族の隠し里を捜し回っていて……、その場所を見つけたらしい。そして、襲撃を実行したが……誰も戻ってこなかった」
私を見つめる。
「しばらく前にマイグリンだけが戻ってくるまで――」
「――魔族討伐部隊、というものの話を私は聞いたことがなかったが……」
エドラさんが訝し気な顔で呟く。
「お前のような若者には知らされていない。部隊について知っていたのはごく一部だ。――それにマイグリンが里に戻って来たのは、お前が出て行った後だからな」
一息吐いて、リンドールさんはまた私を見つめる。
「作戦は失敗、部隊全員が魔族の手で殺されたと考えられていた。――アイグノール様のご子息たちのの血まみれの遺品も見つかっていた。――遺体はなかったが、魔族に喰われたと考えられていた。だが、マイグリンだけが、しばらく前に急に戻って来た」
「しばらく前」というのは私をミアラっていう村の宿屋に置いて、お父さんがいなくなったその時のことでしょうか……。13年前のはずなんですけど……、エルフにとっては「しばらく前」になるんですかね。
でも……、
「それがどうして『裏切った』ということになるんでしょうか」
私はリンドールさんを見返した。
里に戻って来ただけで、どうしてそんなことを言われてしまうのか、わからないです。
「――マイグリンはこう言った。『隠れ里に逃げた魔族はもう他種族と争う気がない。これ以上の追及は止めて欲しい』と」
私たちは黙って顔を見合わせた。
魔族討伐で行って……、仲間は殺されたのに……、1人だけ帰って来た人がそう言ったら……、エルフの里の人たちはどう思うでしょうか……。
「アイグノール様はマイグリンはエルフを裏切り、魔族に与したと激怒された。そして、マイグリンを大樹の森へ幽閉した」
「……本当に、エルフを裏切ったんですか……?」
リンドールさんは、頭を横に振った。
「一人だけ、無事に、生きて帰ってきたら、そう思うだろう! しかも、囚われていたとかではなく――、あいつは、『魔族の里で暮らしていた』とまで言ったんだ」
言葉に熱が籠る。
『あいつ』……ですか……。
私はリンドールさんの青い瞳をじっと見つめた。
「リンドールさんは……、お父さん……マイグリンと親しかったんですか…?」
「マイグリン、それからアイグノール様のご子息のエレクシス様とは幼馴染だった……」
視線を落として、リンドールさんはそう呟いた。
「そして、私の父親も魔族に喰われている」
ぽつり、ぽつりと言葉が続く。
「私も魔族討伐部隊に志願していたが、力が足りなかった。部隊は特に魔力が強く、戦いに強い者が選ばれていたから。――私は……あいつに、マイグリンに助けを求められた。『魔族に追われているから、しばらく匿って欲しい。族長には言わないで欲しい』と……。死んだと思っていた者が急に現れて驚いた。――しかし、私はアイグノール様に報告した」
リンドールさんは感情のこもった目で私を見つめた。
「魔族討伐は私の目指すところでもあったから……マイグリンが魔族の側に立つようなことを言うのが理解できなかった。だから……」
私はそれを見つめ返す。
「魔族に、追われていたんですか?」
魔族の里で暮らしていたのに、魔族に追われて逃げて、リンドールさんに助けを求めたってこと……ですよね。
「詳しくはあいつは話さなかった。私がアイグノール様に報告したことを知って、ただ魔族の里から逃げてきたので追われている、と」
リンドールさんは金髪の綺麗な長髪をくしゃっとさせて、苦いものを食べたような顔で言った。
「……捕まっていたとでも、言えばよかったんだ。そうすれば……、なのに、マイグリンは、魔族をこれ以上追わないように、などと言うから……」
深いため息。
「私がマイグリンについて話せることは……これで終わりだ」
私はリンドールさんに問いかけた。
「ありがとうございます。――お父さんは大樹の森、というところにいるんですね」
「……そうだ。アイグノール様と謁見した悠久の大樹――その後ろに広がるのが大樹の森だ。我々エルフは、年を取ると大樹の森へ行き、木の一部となる。大樹は悠久の森に魔力を巡らせる」
ライガが「墓場みてぇだな」と後ろで呟いた。
背筋が冷たくなる。
「……それって……生きてる……んですか?」
『幽閉』っていうか……、お墓に埋める……みたいな感じじゃないですか。
「一部となっているだけで――死んでいるわけではない」
リンドールさんは首を振った。
「――そこに行けば、お父さんに会えるということでいいんでしょうか……」
「大樹の森は深い。どの木にマイグリンがいるのかはわからないが……、大樹の一部になっても意思は残る。――娘が行けば、何かしらかの反応はあるだろう」
「どうして、色々話してくれたんですか?」
リンドールさんは私を会わせたくない、という感じではないんですよね……。
最初会った時より、雰囲気が和らいでいる気がしますし、何でこんなにいろいろ教えてくれたんでしょうか。
「……お前がそこの人間たちや……悪食――里から出て行ったはぐれエルフにずいぶんと大事にされているからだ」
リンドールさんは視線を落として言葉を続けた。
「お前を見ているとどう接するべきかわからなくなる。魔族は憎むべき相手だが、エルフは仲間だ。それが混じっているとなると……。……マイグリンと魔族の間に何があったのか……お前を見ていると……知るべきじゃないかと、思い始めた」
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