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7.元聖女は辺境の地を訪れました。

171.

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 私たちは目に入らないかのように、鬼は手に持った、その大きな体には少し小さく感じられる剣を、ステファンに向かって振り下ろし続けていた。金属がぶつかる音が何度か響き渡る。ステファンは刃を受けたままじりじりと押されていた。

「くそ!」

 ライガが舌打ちをして、駆けて出そうと足を踏み出したその時――火の玉が背後からこちらに向かって飛んでくるのが見えた。エドラさんが杖を掲げ、水の塊が飛んでくる火の玉を包み込んで消し去る。

「――もう一匹、来たか」

 振り返ると、さらに一体の鬼が私たちを睨みつけていた。

「爆発、爆発……」

 私もエドラさんにもらった、黒くしちゃった杖を掲げて意識を集中した。
 やっぱり、杖に意識を向けると、魔法に集中しやすいですね。
 鬼の周りに火の精霊を集め、爆発させる。

 ボンっという爆発音と共に赤い火の塊が暗闇に弾ける。
 ――だけど、その鬼は炎が弾けるより早く、私たちの方に向かって動いていた。
 慌てて手を組み、目を閉じると守りの祈りの言葉を早口で呟く。振り下ろされた剣の刃を、光の壁が弾くのを感じた。

「こっちに来るんじゃねぇ!」

 目を開けると、ライガが鬼の足を払って、その大きい身体を地面に転がしていた。

「そのまま足を押さえていろ」
 
 エドラさんが叫んで杖を掲げる。
 土が盛り上がって、地面に転んだ鬼の顔に覆いかぶさり、伸びた草の根がぐるぐるとその上に絡まる。顔を覆われた鬼は頭を押さえて地面をごろごろと左右に転げた。逃がさないようにライガが足を押さえつける。

「頭を狙え! 狼を巻き込むなよ」

 エドラさんの言葉に私は杖を掴んで集中した。

 ――頭を吹き飛ばす。

 炎が弾けて、鬼の首から上を包み込んだ。ライガが後ろに飛びのく。
 黒煙を首から上にまといながら、頭を失ったことに気付かないように鬼の身体はゆっくりと立ち上がって、数歩歩いてそのまま地面に倒れた。

「ステファン!」

 ライガの声で我に返って、振り返る。――そして、私も思わず叫んだ。
 そこには、ぐったりとしたまま鬼に担がれたステファンがいた。地面には剣が二つ落ちている。ステファンの腕は変な方向に曲がっていた。

 鬼は私たちを一瞥すると、ステファンを持ったまま、背を向けて走り出した。

 ――ステファンをどこかに連れて行く気ですか?
 
 速く、何とかしないと! 私は杖を振り上げた。横でエドラさんも同じように杖を掲げる。ライガが全速力で走り出す。
 
 ――私たちが動きを制止するように、その瞬間、馬のいななききが響き渡った。暗闇を文字通り切り裂くような炎の刃がステファンを抱えた鬼の胴体を上と下に真ん中で一刀両断した。

 瞬きをしている間に、鬼の身体はずるっと上下にずれて、半分になって地面に転がっていた。

「大丈夫ですか!」

 男の人の声が私たちに呼びかけた。そこにいたのは、赤く燃える剣を大剣を持った甲冑の兵士さんだった。いくつもの蹄の音が、周りに集まってくる。

「団長! 小鬼は全て退治されておりました。旅のエルフたちが退治したとか……」

 鬼を切った、団長と呼ばれた男の人と同じく、馬に乗った甲冑姿の兵士さんたちが私たちの周りを囲んでいた。

「旅のエルフたち……? あなたたちが……」

 団長さんは私とエドラさんを見て、それからライガを見て、目の色を変えた。
 
「狼男――、お前――、まさか、ライガ……?

 その驚いたように大きくなった青い瞳の目元に、見覚えがあった。
 
 ――ステファン、そうだ、ステファンが!

 私とライガは半分になった鬼の上半身と一緒に草むらに倒れ込んでいるステファンに駆け寄った。

「うわぁぁぁ、ステファン、大丈夫ですか!!!」

 ステファンはぐるりと仰向けになると、左手で後ろに曲がった右腕を押さえて、笑った。

「……大丈夫……生きてるよ……何とか……」

「よ、良かったぁぁ」

「――ステファン?」

 訝し気な声色と、こちらにゆっくりと近づいて来る馬の足音が聞こえて、振り返るとさっきの団長さんが馬の上から私たちをじぃっと見つめていた。

 さっきはよく見なかったけど、よく見たら、この人、鼻から上がステファンと同じ……!

「兄上……?」

 その人は馬から降りると、眉間に深く皺を寄せたまま、私たちの上からステファンを覗き込んだ。
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