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6.元聖女は魔法都市でエルフに会いました。

159.

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 エドラさんの「私もついて行こう」という言葉に、私は思わず胸の前で手を組んだ。

「エドラさん、ついてきてくれるんですか! ありがとうございます!」

 エルフである彼がついてきてくれるっていうのは、とっても心強く感じる。

「――どういう風の吹き回しだ、エドラヒル」

 オリヴァーさんは驚いたように聞いた。
 最初話したときは、ついてきてくれるなんて感じじゃなかったですもんね。

「いずれ、里には戻ろうと思っていた」

 エドラさんはぶっきらぼうに答える。

「行くのを止めろと言っても、そいつは行くと言うしな。エルフと魔族の血が入った子どもが現れて、里の連中がどんな反応をするのか見てみたい」

 それに、とステファンを見て頷く。

「イザベラの息子が私のところに来たのも何かの縁だろう」

***

 食事を終えて屋敷に戻ると、オリヴァーさんが客間で食後のお茶を淹れてくれた。

「僕の母と、エドラヒルさんは親しかったんですか?」

「イザベラとエドラヒルは一緒に魔法植物の研究をしててな。親しかったというより――何というか、まぁ」
 
 オリヴァーさんは言い辛そうに白髪頭をぽりぽり掻いた。

「恋人同士じゃった」

 ぶっとステファンが音を立ててお茶を噴きだした。
 
「――は?」

「長いこと交際しておったがの、エドラヒルは年をとらんし……、色々あって、イザベラはマーゼンス殿との見合い話を受けたんじゃ」

「……」

 何とも言えない顔で黙り込むのステファンの横で、ライガが「へぇ」と驚いたように呟いた。

「ステファンのお袋さんがあのエルフと……、何か変な感じだなぁ。あいつ、俺たちとそんなに年変わらなく見えるのになぁ」

 ライガは「なぁ」とステファンを見るけど、ステファンは無言でお茶を一気に飲んだ。
 気まずい沈黙が流れる。
 オリヴァーさんが、「まぁ」と話題を変えた。

「レイラ、エドラヒルを庭から連れ出してくれて感謝するよ。あいつが自分から何かにやる気になるのは久しぶりだ。最近塞ぎこんでおったからの」

「いえ、私は特に何も……。こちらこそ、エドラさんには耳も治してもらってますし……」

 私は耳のことを思い出して、身を乗り出した。

「そうなんです! 耳、耳っぽく戻ってました。エドラヒルさん凄いんですね」

「そうじゃ、もう大方戻ったという話でな。レイラ、明後日、治療院の予約をとったから、入院の準備をしておきなさい」

 入院……。そうでした。耳をつけるのに、手術がいるんでしたっけね……。
 私は血の気が引いて行くのを感じた。

「そんな青い顔せんでも大丈夫じゃよ。数日入院すれば、長い耳に戻れるぞ」

 オリヴァーさんの励ましに、私は「頑張ります……」と答えた。

 2日後、私は寝間着とかをまとめた荷物を持って、ステファンとライガに送ってもらって、
街の治療院を訪れた。

「……来たか」

 緊張しながら建物の中に入ると、エドラさんが立っていた。
 何だか顔が青白くて元気がなさそうだ。
 エドラさんのが病人みたい。

「どうしましたか?」

 聞くと、エドラさんは苦笑した。

「一昨日、肉を食い過ぎてな。昨日は寝込んでいた」

 ……お肉食べ過ぎると体調悪くなっちゃうんですかね。
 そういえば、ぱくぱく食べてましたもんね……。

 青い顔のエドラさんを見て、逆に緊張が解けた。
 奥の部屋で白衣を着たお医者さんに会う。
 治療師さんとは別に、手術をしてくれるのはこのお医者さんって人みたい。
 エドラさんが白衣の先生に、瓶に入った私の耳を渡した。
 その人は物珍し気にそれを見ながら呟いた。
 
「――エルフの耳をくっつけるのは初めてだな」

 初めてって……。
 また緊張してきた私に、白衣の先生はにっと笑って言った。

「まぁ、大丈夫。すぐ終わるよ。とりあえず着替えてきて、薬飲んでね」

 言われるがまま、案内された部屋で着替えて、もらった薬を飲む。
 だんだん眠くなってきて……、治療師さんたちに案内されるがまま、ベッドに横になった。

 ……そして、目が覚めると。

「レイラ! お疲れ様!」

 ステファンの声がぐわんぐわん頭に響く。なにこれ!
 思わず私は耳を押さえた。――と同時に、ぱたぱたっと耳が動いた。

「おぉ、それ動くのか、すげぇな」

 ライガの感心したような声がまた頭に響いた。

「レイラ、ほら、きちんとくっついてるよ」

 ステファンが差し出してくれた鏡を見ると、私の髪の間から、エドラさんみたいな長い耳が生えていた。
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