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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
132.(ステファン視点)
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キアーラに入った僕らは、そのまま兵士の案内のもとキアーラ王都に向かって道を進んだ。
「――お前たち、大司教様に逆らって、後からどうなっても知りませんよ――」
後ろ手に縛られぼやく神官と一緒に口を縛られた雷竜もどしどしと後をついて来る。
眠らせている間に口に刺さった刃を抜いて、治療をした。
目を覚ましてからは大人しくしている。――神官の指示がなければ、襲い掛かってきたりはしないようだ。こんな飼いならされた竜は初めて見た。
「――よくここまで飼い慣らしているな」
サミュエルさんも同感らしく、しきりに感心している。
「――竜を育てて使うこともあると聞きますが、その場合はどうやって育てるんですか?」
「魔法で精霊のバランスを整えた環境で育てる。そうすると性格が穏やかになるから躾けられる。しかし、こんなに大人しいのは初めて見る」
そうやって歩いてるうちに、大きな村らしいところへに着いた。
「――エイダン様、本日はこちらにご滞在ください」
グレッグがそうエイダンに声をかけると、あいつは「うむ」とそれらしく頷いた。
兵士たちは僕らを村長宅へと案内した。ひときわ大きなその家に向かって歩いて行くと、家の中から髭をたくわえた男が勢いよく走り出てきて、僕らの前に膝をついた。
「神官様、申し訳ございません。――あの、雷竜様の食糧はまだ準備ができて――」
それから縛られた神官と僕らを見比べて、目をぱちぱちさせた。
『神官様』『雷竜様』
なんとなく、ここでの神官の振舞いが想像できる。
「顔を上げろ。我々は王都に向かう途中なだけだ。食糧がないならもてなしは結構。数日分の食料なら持ってきている」
前に進み出たエイダンはそう言って村長を立たせた。
村長はまた何度も瞬きをする。
「――エイダン様でいらっしゃいますか――?」
「以前は世話になったな。泊まる場所なら教会でも構わぬ。あそこの方が広いだろう」
「エイダン様、よろしいのですか? エイダン様だけでも村長の家にご滞在ください」
「いや、僕だけというわけにもいかないだろう。皆と一緒に教会で構わん」
エイダンは首を振って、教会の方へと歩き出した。
教会の周りには広場のようなものがあって、確かに広かった。
「――ここは南端の村だ。以前魔物討伐に訪れた時よりも――今は落ち着いて見えるな」
エイダンは周りを見回しながら感慨深そうに呟いた。
「まずはこの教会の神官に挨拶せねばな」
そう言いながら、扉を叩くエイダンについて行き、中に入る。
祭壇では、白く薄くぼんやりと輝く女神像の足元で白い服の痩せた神官が膝をついて祈っていた。その周囲には農民と思われる複数人が同じように祈っている。
「――ジェイコブ、しばらくぶりだな」
エイダンはその痩せた男に声をかけた。
「――エイダン様? お戻りになったのですか? それにその黒いローブの方々は……! 魔法使い……!?」
ジェイコブと呼ばれた神官は、驚いたように振り返った。
「申し訳ないが、人をここから出してくれないか? 明日まで宿を借りたい」
エイダンに促されて、神官は祈っていた農民たちを外に出した。
「――――不思議だな。祈っていないのに光っている――」
サミュエルさんたちはしげしげと女神像を眺めている。
ぼくもじっと薄く光る白水晶の女神を見つめた。
今は誰も祈っていないのに――。
「――聖女様が大神殿にお戻りになって祈っていらっしゃるからです。大神殿の祈りは、国中の教会に拡散されるように設計されていますから」
「なるほど。キアーラは国中が聖魔法の力で満ちているわけか。そこで育った竜が大人しいのはそのせいか? 聖魔法の中で竜が孵化された例は聞いたことがないからな、珍しい」
サミュエルさんは「興味深い」とずっと呟いている。
「聖女様が戻った」――それは、レイラのことだろう。
僕はじっと光る像を見つめた。
――また1人で狭い部屋で祈ってるんだろうか。きちんと食事はさせてもらえてるだろうか。最近肉もまたよく食べるようになってきたから、たくさん食べさせてもらえてると良いけど。
エイダンとジェイコブは何やら話し込んでいた。
「――しかし、我々は――、エイダン様が魔物討伐にいらっしゃってから以降、村人全員、交代で日々祈るようにしております。祈りの力を大神殿のみに任せていたのが良くなかったのです。皆で祈れば、その力は小さくとも――、この村くらいは守ることはできると、わかりました」
エイダンは何か感極まったように「そうか」と重々しい声で頷いた。
あいつ……キアーラに入国してから、ずっと表情が真剣だなぁ。
「――貴方は国外追放されたと聞きましたが、今回戻っていらしたのは――」
ジェイコブの言葉に、エイダンは頷く。
「――――ああ、大司教の身柄の魔術師ギルドへの引き渡しを求めて、父上に話に来た」
「――――大司教様の身柄の引き渡し?」
「ああ。密売人から魔物や魔力の高い子どもを買っていた件だ」
ジェイコブはショックを受けたような顔で黙り込んでから、呟いた。
「――――そうですか。――責任の所在は、きっと我々神官全員にあるのでしょう。――日々の祈りの負荷がなくなるからと、大司教様に従い、考えずに聖女様に全てを投げ自身の欲に従ってしまった……」
そして、膝をつくとまた女神像に向かって祈り始める。
「私にできることは祈ることだけです……。エイダン様、本日はよくお休みください……」
女神像はひと際明るく白く輝きだした。
「――お前たち、大司教様に逆らって、後からどうなっても知りませんよ――」
後ろ手に縛られぼやく神官と一緒に口を縛られた雷竜もどしどしと後をついて来る。
眠らせている間に口に刺さった刃を抜いて、治療をした。
目を覚ましてからは大人しくしている。――神官の指示がなければ、襲い掛かってきたりはしないようだ。こんな飼いならされた竜は初めて見た。
「――よくここまで飼い慣らしているな」
サミュエルさんも同感らしく、しきりに感心している。
「――竜を育てて使うこともあると聞きますが、その場合はどうやって育てるんですか?」
「魔法で精霊のバランスを整えた環境で育てる。そうすると性格が穏やかになるから躾けられる。しかし、こんなに大人しいのは初めて見る」
そうやって歩いてるうちに、大きな村らしいところへに着いた。
「――エイダン様、本日はこちらにご滞在ください」
グレッグがそうエイダンに声をかけると、あいつは「うむ」とそれらしく頷いた。
兵士たちは僕らを村長宅へと案内した。ひときわ大きなその家に向かって歩いて行くと、家の中から髭をたくわえた男が勢いよく走り出てきて、僕らの前に膝をついた。
「神官様、申し訳ございません。――あの、雷竜様の食糧はまだ準備ができて――」
それから縛られた神官と僕らを見比べて、目をぱちぱちさせた。
『神官様』『雷竜様』
なんとなく、ここでの神官の振舞いが想像できる。
「顔を上げろ。我々は王都に向かう途中なだけだ。食糧がないならもてなしは結構。数日分の食料なら持ってきている」
前に進み出たエイダンはそう言って村長を立たせた。
村長はまた何度も瞬きをする。
「――エイダン様でいらっしゃいますか――?」
「以前は世話になったな。泊まる場所なら教会でも構わぬ。あそこの方が広いだろう」
「エイダン様、よろしいのですか? エイダン様だけでも村長の家にご滞在ください」
「いや、僕だけというわけにもいかないだろう。皆と一緒に教会で構わん」
エイダンは首を振って、教会の方へと歩き出した。
教会の周りには広場のようなものがあって、確かに広かった。
「――ここは南端の村だ。以前魔物討伐に訪れた時よりも――今は落ち着いて見えるな」
エイダンは周りを見回しながら感慨深そうに呟いた。
「まずはこの教会の神官に挨拶せねばな」
そう言いながら、扉を叩くエイダンについて行き、中に入る。
祭壇では、白く薄くぼんやりと輝く女神像の足元で白い服の痩せた神官が膝をついて祈っていた。その周囲には農民と思われる複数人が同じように祈っている。
「――ジェイコブ、しばらくぶりだな」
エイダンはその痩せた男に声をかけた。
「――エイダン様? お戻りになったのですか? それにその黒いローブの方々は……! 魔法使い……!?」
ジェイコブと呼ばれた神官は、驚いたように振り返った。
「申し訳ないが、人をここから出してくれないか? 明日まで宿を借りたい」
エイダンに促されて、神官は祈っていた農民たちを外に出した。
「――――不思議だな。祈っていないのに光っている――」
サミュエルさんたちはしげしげと女神像を眺めている。
ぼくもじっと薄く光る白水晶の女神を見つめた。
今は誰も祈っていないのに――。
「――聖女様が大神殿にお戻りになって祈っていらっしゃるからです。大神殿の祈りは、国中の教会に拡散されるように設計されていますから」
「なるほど。キアーラは国中が聖魔法の力で満ちているわけか。そこで育った竜が大人しいのはそのせいか? 聖魔法の中で竜が孵化された例は聞いたことがないからな、珍しい」
サミュエルさんは「興味深い」とずっと呟いている。
「聖女様が戻った」――それは、レイラのことだろう。
僕はじっと光る像を見つめた。
――また1人で狭い部屋で祈ってるんだろうか。きちんと食事はさせてもらえてるだろうか。最近肉もまたよく食べるようになってきたから、たくさん食べさせてもらえてると良いけど。
エイダンとジェイコブは何やら話し込んでいた。
「――しかし、我々は――、エイダン様が魔物討伐にいらっしゃってから以降、村人全員、交代で日々祈るようにしております。祈りの力を大神殿のみに任せていたのが良くなかったのです。皆で祈れば、その力は小さくとも――、この村くらいは守ることはできると、わかりました」
エイダンは何か感極まったように「そうか」と重々しい声で頷いた。
あいつ……キアーラに入国してから、ずっと表情が真剣だなぁ。
「――貴方は国外追放されたと聞きましたが、今回戻っていらしたのは――」
ジェイコブの言葉に、エイダンは頷く。
「――――ああ、大司教の身柄の魔術師ギルドへの引き渡しを求めて、父上に話に来た」
「――――大司教様の身柄の引き渡し?」
「ああ。密売人から魔物や魔力の高い子どもを買っていた件だ」
ジェイコブはショックを受けたような顔で黙り込んでから、呟いた。
「――――そうですか。――責任の所在は、きっと我々神官全員にあるのでしょう。――日々の祈りの負荷がなくなるからと、大司教様に従い、考えずに聖女様に全てを投げ自身の欲に従ってしまった……」
そして、膝をつくとまた女神像に向かって祈り始める。
「私にできることは祈ることだけです……。エイダン様、本日はよくお休みください……」
女神像はひと際明るく白く輝きだした。
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