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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。

104.

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 この街の教会の神官のマットさんから、ノアくんが連れて行かれたかもしれない『闘技会』というのが開催される場所を聞き出した私たちは、宿屋でナターシャさんたちとステファンの戻りを待っていた。

 しばらく待っていたら、二人が帰って来た。
 テオドールさんが一番にナターシャさんのところに駆けつけて、場所がわかったことを報告する。

「どこっ?」
「――王都と、西の辺境領の間ですね。森深いところがあるじゃないですか、そこの遺跡跡だそうです。期日は3日後、馬車は途中から使えませんけど……2日あれば移動できますから、またすぐ出発ですね。――そちらは?」

「――こっちの冒険者ギルドはだめだった。ただ、サミュエルが魔術師ギルドから何人か魔法使い連れてきてくれるって」

 ナターシャさんは私たちを見回すと、申し訳なさそうに言った。

「本当に悪いんだけど、少し休んだら、また出発する。泊まってる時間はなさそうだから」

「いいんです、早く出ましょう」

 私は首をぶんぶん振った。ノアくんのいそうな居場所がわかって良かった。
 はやく行ってあげないと、怖い思いをしているかもですもんね……!

 ***

 とってもらった宿屋の部屋で、ベッドにごろんと横になって一休みしていると、コンコンっとノックがした。ドアを開けるとテオドールさんがいた。

「レイラ、これ、サイズ合いますかね」

 テオドールさんが持っているのは、黒い神官服――テオドールさんたちの教会の神官服だった。

「こちらの教会で、一番小さいものを借りてきたんですが」

 私はテオドールさんと一緒に、マットさんの代わりの神官として、その闘技会というのに交ざる予定だから、一応、神官服を着ておいたほうが良いってことになったんだけど……。

「着てみますね」

 私は受け取った服――上から被るタイプのものを、今着ている服の上から被ってみた。
 少しぶかっとしてるけど――、裾を引きずるほどじゃない。

「――少し大きいけど、大丈夫そうです」

 私が頷くと「良かった」と言って、テオドールさんは去って行った。
 それを見送って鏡の中に映った黒い神官服姿の自分を見てみる。

 キアーラの神殿の神官服は白かったけど、テオドールさんたちが着ているのは黒なんですよね……。黒の方が汚れも目立たなさそうだし、何だか格好良く見えて良いですね。
 
 私はくるりと回ってみてから、首を傾げた。

 この黒い神官服で祈っても女神様は祈りを聞いてくれるものなんでしょうかね。
 まぁ、普段普通の服で祈ってても効果はあるわけですが。

 ――だいたい、そもそも、女神様っているんですかね。
 ――何で、祈ると効果が出るんでしょう?

 その闘技会というのに乗り込んで行って、首謀者っぽい悪い人が出てきたら、祈って会場全体を鎮める、というのがナターシャさんの提案した私の役割だけど……、正直、それができる自信がなくなっていた。

 前にソーニャがたくさんの一角兎に襲われてたときに、兎を鎮められなかったのもそうだけど、何だか最近、自分の祈りに――っていうと言い方が正しいのかわかりませんが、自信がない。

 ――だって、今まで祈ってきた女神様のことを――私、正直なところ、信じられなくなってきてる。

 だって、だってですよ。あの大司教様が女神様を祀っている大聖堂の一番偉い人なわけですよ。

 私は大司教様が街を去るときに私に言った色々な言葉を思い出した。

 あの人――、育ててもらってこんなこと言うのも良いかわかりませんが、欲まみれじゃないですか。

 女神様は、それでいいんですかね?

 ――この世に食べ物に困ったり、親がいなかったり、そういう大変な境遇の人がいるのは、女神様が作ろうとした楽園を悪魔が壊したからって神殿の人たちはは言ってましたけど――、世の中って、もともとそういう不公平なものなんじゃないだろうか。

 結局、他の人のために祈ったところで、私のお父さんやお母さんがナターシャさんやテオドールさんがノアくんを心配するみたいに、私のことを思ってくれるわけじゃないし、――祈ったところで、どうにもならないことだらけじゃないですか。

 それでも――、祈るとするならば。

私は、キアーラの人たちみたいに、顔も知らない人の知らない幸せを祈る気持ちには、もうなれなかった。

 祈ってもどうしようもないことが多いなら、その中でも、せめて祈りたいと思うのは、身近な人の幸せだけだ。そうはっきりと確信した。

  手を組むと目を瞑り、ノアくんが怖い思いをしていませんように、と祈った。
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