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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
99.
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ナターシャさんたちの部屋を出た私は、自分の部屋に戻るとベッドに座って、壁を見つめた。――ノアくんのことを心配する気持ちと同時に、もう1つの気持ちが沸き上がってくる。
……お母さんとお父さんが心配して迎えに来てくれるの……羨ましいな……。
ぶんぶんと首を振っても、その考えは頭に張り付いて離れない。
今まで両親のことについて、あまり深く考えを巡らせたことはなかった。
大司教様に『お前の親はお前を育てられないからと神殿に置いて行った』と何回も聞かされて、寂しいな――と思うことはあったけど、親子っていうのは、文字を教えてもらうときに大司教様に読んでもらった光の女神様のお話の中でしか読んだことがなかった。
国王様の息子が王太子のエイダン様だとか――そういう血のつながりとしての親子っていうのはわかるけど――そうじゃなくて、関係性としての親子っていうか――、親が子どもをどう思って、子どもが親をどう思ってるとか、そういうイメージっていうのは今まで全然なかった。
だけど――、ノアくんを心配する様子のナターシャさんとテオドールさんを見て、私は――、ノアくんが羨ましいなと思ってしまった。
前に、ナターシャさんは私が『売られて』、大司教様が私を『買った』んじゃないかって言ってたけど――、置いて行ったにしろどっちにしろ、私のお父さんとお母さんは――どういう気持ちで私を手放したんだろうか。
私は「うーん」と唸って立ち上がった。何だかもやもやして眠れそうになかったので、壁にかけたローブを羽織ると、部屋を出て宿屋の食堂に向かった。
宿屋の一階の食堂は夜だけど結構賑わっていて、近くの農家さんっぽい人や、行商さんっぽい人たちがそれぞれテーブルを囲んでわいわい酒盛りをしていた。
――食堂って夜はこんな感じの酒場になるなんですね。
西端の街でも神殿と同じように夕食を食べたら寝て、日が昇る前に起きる生活をしていたので、実は酒場になった食堂に来るのは初めてだった。
宿屋は同じ宿屋だから、住んでる宿屋の食堂も夜は同じような感じのはずだけど。
私は少しドキドキしながら、店に足を踏み入れようとした。
その時、近くを通った店員のお姉さんが私に気付いて足を止めた。
「――お嬢ちゃん? ――1人?」
あぁ……また子ども扱い……。
私はため息交じりに頷いた。
「お父さんか――、お母さんか、誰かいないの?」
今のタイミングで聞かれると嫌な質問だった。私は首を横に振った。
「いません」
「そう――困ったわね。一人じゃお店に入れられないわ。夜だし――お部屋に帰りなさい?」
私はため息をつくと、首にかけた冒険者証を外して見せた。
それを見て、店員さんは目を丸くする。
「あら、ごめんなさい。16歳なのね」
「いいえ。どこか席空いてます?」
店員さんはカウンターの方を指差した。私はそっちへ歩いて行くと椅子に腰かけようとして、動きを止めた。
……椅子が……高いんですが……。
カウンター自体が首の高さなので、それに合わせた高さの椅子はすごく高く感じる。
背もたれがない椅子を引いて、カウンターと隣の椅子に手をかけて、よいしょと身体を持ち上げて座ろうとしたところ、ぐらっと身体が傾いた。
「わっ」
ガタンと椅子のひっくり返る音がして、天井が見えて思わず声を上げる。
このまま落ちる――と思ったところで身体が上に浮いた。
「――何してるんだ?」
上から声がして顔を上げると、人間姿のライガが私の両腕を持っていた。
ぶらりと身体が宙に浮いている。
すとんと床に下ろされて、私はため息をついてから、ライガに「ありがとう」とお礼を言った。
本当に恰好悪い。
……お母さんとお父さんが心配して迎えに来てくれるの……羨ましいな……。
ぶんぶんと首を振っても、その考えは頭に張り付いて離れない。
今まで両親のことについて、あまり深く考えを巡らせたことはなかった。
大司教様に『お前の親はお前を育てられないからと神殿に置いて行った』と何回も聞かされて、寂しいな――と思うことはあったけど、親子っていうのは、文字を教えてもらうときに大司教様に読んでもらった光の女神様のお話の中でしか読んだことがなかった。
国王様の息子が王太子のエイダン様だとか――そういう血のつながりとしての親子っていうのはわかるけど――そうじゃなくて、関係性としての親子っていうか――、親が子どもをどう思って、子どもが親をどう思ってるとか、そういうイメージっていうのは今まで全然なかった。
だけど――、ノアくんを心配する様子のナターシャさんとテオドールさんを見て、私は――、ノアくんが羨ましいなと思ってしまった。
前に、ナターシャさんは私が『売られて』、大司教様が私を『買った』んじゃないかって言ってたけど――、置いて行ったにしろどっちにしろ、私のお父さんとお母さんは――どういう気持ちで私を手放したんだろうか。
私は「うーん」と唸って立ち上がった。何だかもやもやして眠れそうになかったので、壁にかけたローブを羽織ると、部屋を出て宿屋の食堂に向かった。
宿屋の一階の食堂は夜だけど結構賑わっていて、近くの農家さんっぽい人や、行商さんっぽい人たちがそれぞれテーブルを囲んでわいわい酒盛りをしていた。
――食堂って夜はこんな感じの酒場になるなんですね。
西端の街でも神殿と同じように夕食を食べたら寝て、日が昇る前に起きる生活をしていたので、実は酒場になった食堂に来るのは初めてだった。
宿屋は同じ宿屋だから、住んでる宿屋の食堂も夜は同じような感じのはずだけど。
私は少しドキドキしながら、店に足を踏み入れようとした。
その時、近くを通った店員のお姉さんが私に気付いて足を止めた。
「――お嬢ちゃん? ――1人?」
あぁ……また子ども扱い……。
私はため息交じりに頷いた。
「お父さんか――、お母さんか、誰かいないの?」
今のタイミングで聞かれると嫌な質問だった。私は首を横に振った。
「いません」
「そう――困ったわね。一人じゃお店に入れられないわ。夜だし――お部屋に帰りなさい?」
私はため息をつくと、首にかけた冒険者証を外して見せた。
それを見て、店員さんは目を丸くする。
「あら、ごめんなさい。16歳なのね」
「いいえ。どこか席空いてます?」
店員さんはカウンターの方を指差した。私はそっちへ歩いて行くと椅子に腰かけようとして、動きを止めた。
……椅子が……高いんですが……。
カウンター自体が首の高さなので、それに合わせた高さの椅子はすごく高く感じる。
背もたれがない椅子を引いて、カウンターと隣の椅子に手をかけて、よいしょと身体を持ち上げて座ろうとしたところ、ぐらっと身体が傾いた。
「わっ」
ガタンと椅子のひっくり返る音がして、天井が見えて思わず声を上げる。
このまま落ちる――と思ったところで身体が上に浮いた。
「――何してるんだ?」
上から声がして顔を上げると、人間姿のライガが私の両腕を持っていた。
ぶらりと身体が宙に浮いている。
すとんと床に下ろされて、私はため息をついてから、ライガに「ありがとう」とお礼を言った。
本当に恰好悪い。
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