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4.元聖女を追い出した元王子が謝罪に来ました。
94.(そのころキアーラ王国王都にて)
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入口の近くに繋がれた赤い鱗の火竜が一頭、擦り寄るようにミハイルの傍に近づいて来る。じゃらりと竜の首に巻かれた鎖が鳴った。
国王は「ひっ」と息を吸い込んで後ずさりした。
「ミハイル――、これはどういうことだ――? この竜たちはどこから?」
「各地から卵を取り寄せました。――以前から、私はこの国には防衛力が足りないと思っておりましてな」
「よしよし」と牙を剝いた竜の顎下を撫でながらミハイルは語り出した。
「――今、世界は魔法使い共の支配下にあります。奴らは、神の存在を否定し、魔術師ギルドなる組織で各国に入り込み、自分たちの意のままに世界を操っております。このままでは我が国も同様に、魔法使い共に乗っ取られてしまうでしょう。自分たちの身は自分で守る必要がございます」
「そのために竜を?」
「はい。兵士だけでは心許ないですからな。この子たちは優秀ですよ」
ミハイルは火竜の上に跨ると、首につけた鎖を外した。
驚きと恐怖で硬直したままの国王の横をミハイルを乗せてのしのしと通り過ぎ、そのまま旧神殿の外へ駆け出した。屋外に出れたことが嬉しいのか、赤竜は吠え声を上げて首を左右に振る。その頭を撫でながらミハイルは命じた。
「火息!」
火竜は吠え声と共に口を大きく広げた。炎の渦が吐き出され、周囲の草を燃やす。
「大司教様、火事になります!!」
慌てた別の神官が奥にいた青緑の鱗の蛇のような龍――水龍の鎖を引っ張って神殿から駆け出してきた。神官が水龍の首を燃えあがる原っぱに向けると、周囲の空中に大きな水の塊が浮き上がり、炎に向かって勢いよくぶつかった。燃え広がっていた炎は消え、ぶつかった水球の勢いで土がえぐれて大きな穴があく。
「……」
後ろからその様子を見ていた国王は、目の前で起こったことが信じられない――というように瞬きを繰り返した。
「――全く、あの我儘娘より聞き分けが良く――余程可愛い」
ミハイルは「はぁ」と大げさなため息をつくと国王に向き直った。
「魔物には魔物を――。国王様に許可を頂ければ、私めがこの子たちで地方の魔物討伐をしてみましょう。――よろしいですね?」
国王はごくりと喉を鳴らした。
――竜を使う? それで大丈夫なのか? いや、もしそれで何かあっても、やるのは私ではない、ミハイルだ。責任はミハイルにある。
「――それで問題が片付くなら何でも良い!」
首を縦に振ると――ミハイルは笑みを浮かべて、言葉を足した。
「では、兵士とともに魔物討伐に赴きます。兵士たちの指揮全権を――私にください」
***
キアーラ王国南端の村では、家から飛び出した農民たちが空中を飛ぶ巨大な鳥のような影を目を細めて見つめた。
「――何だ、あれぇ?」
「鳥――? いや、竜! 竜だ!! こんどは魔物が空から来たのか!?」
村に向かって降下してくる複数の竜の姿を認識した混乱した村人たちは、鍬や斧を手に取り乱した。
赤い鱗の火竜がどすん、と土埃を立てて教会前の広場に着陸する。
「ははははは、飛ぶのは初めてだがなかなか楽しい。馬よりだいぶ早く着いてしまったな」
竜の首に巻いた鎖の手綱を離して、ミハイルは笑いながらその背から降りる。
「――大司教様――!?」
教会の中から痩せ細ったこの村の教会の神官――ジェイコブが飛び出してきて、竜とミハイルを驚いた顔で見比べた。
続けて、白い服の神官が乗った青や黄色の鱗の竜が着陸し、周囲は砂埃に包まれた。
ミハイルは手で埃を払うとジェイコブを見つめる。
「お前は――ジェイコブだな。お前は確か、私の招集命令に応えずに村に残ったんだったか。――まあ良い。お陰でこの村は被害が少ないようだから――、拠点に使わせてもらうぞ」
「な、何を勝手な――! 拠点とは一体何のことですか!?」
「魔物退治の拠点だよ」
ミハイルは何をわかりきったことを、と苦笑しながら答えた。
ジェイコブは噛みつくように詰め寄るとミハイルの肩を掴んだ。
「――どういうことです。その竜は一体? それに、大司教様、どうして周辺の村々の神官を中央に召集してしまったのですか? そのせいで――家族を、田畑を、家畜を魔物に奪われた者が大勢おります!」
「――王都を優先して護るのは、当然だろう? それに、これで我々の祈りの力がなければどうなるのか、能天気なキアーラの民どもも理解したはずだ。――それより、手を離しなさい」
ミハイルは小声で囁くとジェイコブの手を払いのけ、ため息をついた。
いつの間にか周囲には村人の人だかりができていた。
彼らは顔を輝かせる。
「大司教様!?」
「大司教様がいらっしゃってくれたぞ!!」
「皆さん――、無能な王子が聖女を追い出したことで、魔物に苦しめられ、さぞや大変だったでしょう――」
ミハイルは服を正すと、周りを取り囲む村人一人一人の顔をじっと見つめながら、優し気な口調で語りかけた。
「国王様も貴族達も――あなた方より自分たちの身を案じ、我々神官を王都へ集めさせましたが――、私たちはそれを振り切り、兵士たちより――誰よりも早く、一番困っていらっしゃる皆様の元へ駆けつけました。この竜たちはあなた方の味方です。恐れることはありません」
ミハイルは竜の頭を撫でながら言葉を続けた。
村人たちからは感嘆の声が漏れた。
「私たちは、光の女神様の力の元、竜を善き存在に変えました。この子たちはあなた方を魔物の脅威から守ってくれます。私たちがあなた方を救います」
自然と拍手が起こって、ミハイルは満足そうに頷いた。
国王は「ひっ」と息を吸い込んで後ずさりした。
「ミハイル――、これはどういうことだ――? この竜たちはどこから?」
「各地から卵を取り寄せました。――以前から、私はこの国には防衛力が足りないと思っておりましてな」
「よしよし」と牙を剝いた竜の顎下を撫でながらミハイルは語り出した。
「――今、世界は魔法使い共の支配下にあります。奴らは、神の存在を否定し、魔術師ギルドなる組織で各国に入り込み、自分たちの意のままに世界を操っております。このままでは我が国も同様に、魔法使い共に乗っ取られてしまうでしょう。自分たちの身は自分で守る必要がございます」
「そのために竜を?」
「はい。兵士だけでは心許ないですからな。この子たちは優秀ですよ」
ミハイルは火竜の上に跨ると、首につけた鎖を外した。
驚きと恐怖で硬直したままの国王の横をミハイルを乗せてのしのしと通り過ぎ、そのまま旧神殿の外へ駆け出した。屋外に出れたことが嬉しいのか、赤竜は吠え声を上げて首を左右に振る。その頭を撫でながらミハイルは命じた。
「火息!」
火竜は吠え声と共に口を大きく広げた。炎の渦が吐き出され、周囲の草を燃やす。
「大司教様、火事になります!!」
慌てた別の神官が奥にいた青緑の鱗の蛇のような龍――水龍の鎖を引っ張って神殿から駆け出してきた。神官が水龍の首を燃えあがる原っぱに向けると、周囲の空中に大きな水の塊が浮き上がり、炎に向かって勢いよくぶつかった。燃え広がっていた炎は消え、ぶつかった水球の勢いで土がえぐれて大きな穴があく。
「……」
後ろからその様子を見ていた国王は、目の前で起こったことが信じられない――というように瞬きを繰り返した。
「――全く、あの我儘娘より聞き分けが良く――余程可愛い」
ミハイルは「はぁ」と大げさなため息をつくと国王に向き直った。
「魔物には魔物を――。国王様に許可を頂ければ、私めがこの子たちで地方の魔物討伐をしてみましょう。――よろしいですね?」
国王はごくりと喉を鳴らした。
――竜を使う? それで大丈夫なのか? いや、もしそれで何かあっても、やるのは私ではない、ミハイルだ。責任はミハイルにある。
「――それで問題が片付くなら何でも良い!」
首を縦に振ると――ミハイルは笑みを浮かべて、言葉を足した。
「では、兵士とともに魔物討伐に赴きます。兵士たちの指揮全権を――私にください」
***
キアーラ王国南端の村では、家から飛び出した農民たちが空中を飛ぶ巨大な鳥のような影を目を細めて見つめた。
「――何だ、あれぇ?」
「鳥――? いや、竜! 竜だ!! こんどは魔物が空から来たのか!?」
村に向かって降下してくる複数の竜の姿を認識した混乱した村人たちは、鍬や斧を手に取り乱した。
赤い鱗の火竜がどすん、と土埃を立てて教会前の広場に着陸する。
「ははははは、飛ぶのは初めてだがなかなか楽しい。馬よりだいぶ早く着いてしまったな」
竜の首に巻いた鎖の手綱を離して、ミハイルは笑いながらその背から降りる。
「――大司教様――!?」
教会の中から痩せ細ったこの村の教会の神官――ジェイコブが飛び出してきて、竜とミハイルを驚いた顔で見比べた。
続けて、白い服の神官が乗った青や黄色の鱗の竜が着陸し、周囲は砂埃に包まれた。
ミハイルは手で埃を払うとジェイコブを見つめる。
「お前は――ジェイコブだな。お前は確か、私の招集命令に応えずに村に残ったんだったか。――まあ良い。お陰でこの村は被害が少ないようだから――、拠点に使わせてもらうぞ」
「な、何を勝手な――! 拠点とは一体何のことですか!?」
「魔物退治の拠点だよ」
ミハイルは何をわかりきったことを、と苦笑しながら答えた。
ジェイコブは噛みつくように詰め寄るとミハイルの肩を掴んだ。
「――どういうことです。その竜は一体? それに、大司教様、どうして周辺の村々の神官を中央に召集してしまったのですか? そのせいで――家族を、田畑を、家畜を魔物に奪われた者が大勢おります!」
「――王都を優先して護るのは、当然だろう? それに、これで我々の祈りの力がなければどうなるのか、能天気なキアーラの民どもも理解したはずだ。――それより、手を離しなさい」
ミハイルは小声で囁くとジェイコブの手を払いのけ、ため息をついた。
いつの間にか周囲には村人の人だかりができていた。
彼らは顔を輝かせる。
「大司教様!?」
「大司教様がいらっしゃってくれたぞ!!」
「皆さん――、無能な王子が聖女を追い出したことで、魔物に苦しめられ、さぞや大変だったでしょう――」
ミハイルは服を正すと、周りを取り囲む村人一人一人の顔をじっと見つめながら、優し気な口調で語りかけた。
「国王様も貴族達も――あなた方より自分たちの身を案じ、我々神官を王都へ集めさせましたが――、私たちはそれを振り切り、兵士たちより――誰よりも早く、一番困っていらっしゃる皆様の元へ駆けつけました。この竜たちはあなた方の味方です。恐れることはありません」
ミハイルは竜の頭を撫でながら言葉を続けた。
村人たちからは感嘆の声が漏れた。
「私たちは、光の女神様の力の元、竜を善き存在に変えました。この子たちはあなた方を魔物の脅威から守ってくれます。私たちがあなた方を救います」
自然と拍手が起こって、ミハイルは満足そうに頷いた。
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