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3.元聖女は冒険者として仕事をします。
56.(ステファン視点)
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ライガに前で抱えられたレイラが手を組んで祈ると、ぼわっと僕たちを包むように白い薄い光の壁のようなものが生まれた。
僕たちのほうに長い尖った2本の前歯を光らせて向かってくる一角兎は、その光に押し返された。
……行ける!
「ライガ!」
僕の声を合図に、僕らはソーニャの方へ走り出した。
「ステファンっ、ライガ!」
ソーニャは突然出てきた僕らの姿見つけて、驚いたように叫んだ。
そのまま兎を光の壁で蹴散らして、彼女のところに向かう。
彼女の放っている炎も、レイラの祈りの壁で超えた。
「その子……! それに、ジャンも……」
ライガの背中くくりつけられている仲間の剣士を見て、ソーニャは息をつまらせた。
呪文の詠唱を止め、杖を下げて炎を消す。
レイラは引き続き祈りの言葉を呟きながら手を組んでいる。薄い光の壁に角の生えた兎の頭が牙を突き立て跳ね返された。
一角兎はとても凶暴な魔物だ。テリトリーに近づくと、鋭い牙と素早い動きで襲い掛かってくる。
とはいっても、別に4・5匹くらいなら別に手間取る魔物ではない。
だけど、今目の前にはぜんぶで100匹以上はいそうだった。しかも、真っ赤な目は怒りに満ち満ちていて、普通の状態じゃなかった。
……このまま撒いて逃げれないこともないけど、放置はまずいよな。
他の山に入った冒険者なんかが出くわしても大変だし、下手するとこのまま山を下って村や街の方へ行ってしまうかもしれない。
……一気に燃やすか。
僕は背負った荷物から瓶を出すと、ソーニャに言った。
「ソーニャ、これが落ちて割れそうなところで爆発魔法を頼むよ」
「えっ、それ、何?」
「よく燃える燃料」
答えると、僕はずっと祈りの言葉を呟き続けているレイラに囁いた。
「レイラ、大きい音がするけど、僕が肩を叩くまでそのまま祈りを続けてくれ」
大きく振りかぶってそれを兎の群れの中心に放り投げた。
ソーニャがさっと杖を構えて、振る。
ドンッ
爆発音とともに、視界が炎に包まれる。炎は兎を巻き込んで、渦になった。
僕らはレイラの祈りの壁に守られたまま、渦巻く炎を避けながら移動した。
黒い煙があたりに立ち込めて、思わず咳き込む。
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
僕はとんっとレイラの肩を叩いた。
祈りを止めて、ぱちりと目を開いたレイラは目の前の光景にぽかんとした表情をした。
「燃えてます!」
「燃えてるね」
「消しましょうか!」
「お願いします」
彼女がまた祈ると、シューっと音を立てて煙だけを残して火が消えた。あとに残ったのは大量の一角兎の骨だけだった。
「――すごい」
その様子に、ソーニャが信じられないという声を漏らした。
自分の魔法が強いのもあって、ふだん人を見下しがちな彼女が、こんな風に感嘆して驚くなんて珍しいと思いながら僕も頷く。
――最初、レイラが兎を鎮められなかったときは彼女の祈りに何かあったかなと思ったけど――あの守りの壁と炎を鎮めたのは、さすがだ。
「あの炎で兎を全部やっつけたんですね……。あれはどうやって」
「ソーニャの魔法だよ」
僕が答えると、レイラは目を輝かせた。
「魔法……ソーニャさんの魔法すごいんですね……」
「……まぁね……」
ソーニャはローブのフードを被るとぼそりと呟いた。
「こいつの治療してやってくれ」
ライガが背中に背負ったジャンを下ろす。怪我はひどいけど、命に別状はなさそうだ。
僕は荷物から布を取り出して噛まれた箇所を縛ると、ひどい傷を塞ぐ程度の回復魔法をかけた。
「――ありがとう――」
痛みが減って意識がはっきりしてきたのか、ジャンがたどたどしく話す。
「ソーニャは……無事……?」
「無事よ、無事。ステファンたちに助けてもらったから! まぁ、あなたを逃がしたりしないで、初めから1人だったらあんなに追い詰められたりしなかったんだけどね!」
彼女の相変わらずな様子に僕は苦笑した。何でこう素直じゃないんだろう。
「何があったの?」
二人に問いかけると、顔を見合わせ答えてくれる。
「……ジャンが魔法草を落とすための穴を掘ろうとしてたの……。そしたら、土の中から、一角兎が飛び出してきて、ジャンが穴の中に引きずり込まれてしまったの」
「ソーニャが魔法で攻撃してくれて……、それで土の中からどんどん出てきたあいつらはみんなソーニャの方に向かって行って……、ソーニャが逃げろって言うから、俺はそのまま逃げて、そしたら運よくあなたたちに会えたんだ」
「土の中……、足のないたくさんの一角兎……」
僕は彼らの言葉を反復する。
一角兎は確かに土の中に巣を作る。だけど、一つの巣に暮らすのは一家族多くて5・6匹だ。あんなにたくさんが穴の中にいることなんてない。しかも足がないなんて……。
新種? ――いや。
「また、魔物の違法取引だ」
竜の卵に続いて……最近一体何なんだ。
「違法取引?」
レイラが首を傾げる。
「一角兎の足は高額取引されるんだよ。幸運のお守りとか、安産のお守りとか、そういう魔法用に。――誰かが大量に兎の足を切って、死にかけの一角兎を穴に埋めたんだ。だけどこの辺りは魔法草が多くて、地中に魔力が多いから……、地中で復活して、そこをジャンが掘り当てちゃったんじゃないかな」
僕はため息をついた。
「とりあえず、山を降りようか」
僕たちのほうに長い尖った2本の前歯を光らせて向かってくる一角兎は、その光に押し返された。
……行ける!
「ライガ!」
僕の声を合図に、僕らはソーニャの方へ走り出した。
「ステファンっ、ライガ!」
ソーニャは突然出てきた僕らの姿見つけて、驚いたように叫んだ。
そのまま兎を光の壁で蹴散らして、彼女のところに向かう。
彼女の放っている炎も、レイラの祈りの壁で超えた。
「その子……! それに、ジャンも……」
ライガの背中くくりつけられている仲間の剣士を見て、ソーニャは息をつまらせた。
呪文の詠唱を止め、杖を下げて炎を消す。
レイラは引き続き祈りの言葉を呟きながら手を組んでいる。薄い光の壁に角の生えた兎の頭が牙を突き立て跳ね返された。
一角兎はとても凶暴な魔物だ。テリトリーに近づくと、鋭い牙と素早い動きで襲い掛かってくる。
とはいっても、別に4・5匹くらいなら別に手間取る魔物ではない。
だけど、今目の前にはぜんぶで100匹以上はいそうだった。しかも、真っ赤な目は怒りに満ち満ちていて、普通の状態じゃなかった。
……このまま撒いて逃げれないこともないけど、放置はまずいよな。
他の山に入った冒険者なんかが出くわしても大変だし、下手するとこのまま山を下って村や街の方へ行ってしまうかもしれない。
……一気に燃やすか。
僕は背負った荷物から瓶を出すと、ソーニャに言った。
「ソーニャ、これが落ちて割れそうなところで爆発魔法を頼むよ」
「えっ、それ、何?」
「よく燃える燃料」
答えると、僕はずっと祈りの言葉を呟き続けているレイラに囁いた。
「レイラ、大きい音がするけど、僕が肩を叩くまでそのまま祈りを続けてくれ」
大きく振りかぶってそれを兎の群れの中心に放り投げた。
ソーニャがさっと杖を構えて、振る。
ドンッ
爆発音とともに、視界が炎に包まれる。炎は兎を巻き込んで、渦になった。
僕らはレイラの祈りの壁に守られたまま、渦巻く炎を避けながら移動した。
黒い煙があたりに立ち込めて、思わず咳き込む。
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
僕はとんっとレイラの肩を叩いた。
祈りを止めて、ぱちりと目を開いたレイラは目の前の光景にぽかんとした表情をした。
「燃えてます!」
「燃えてるね」
「消しましょうか!」
「お願いします」
彼女がまた祈ると、シューっと音を立てて煙だけを残して火が消えた。あとに残ったのは大量の一角兎の骨だけだった。
「――すごい」
その様子に、ソーニャが信じられないという声を漏らした。
自分の魔法が強いのもあって、ふだん人を見下しがちな彼女が、こんな風に感嘆して驚くなんて珍しいと思いながら僕も頷く。
――最初、レイラが兎を鎮められなかったときは彼女の祈りに何かあったかなと思ったけど――あの守りの壁と炎を鎮めたのは、さすがだ。
「あの炎で兎を全部やっつけたんですね……。あれはどうやって」
「ソーニャの魔法だよ」
僕が答えると、レイラは目を輝かせた。
「魔法……ソーニャさんの魔法すごいんですね……」
「……まぁね……」
ソーニャはローブのフードを被るとぼそりと呟いた。
「こいつの治療してやってくれ」
ライガが背中に背負ったジャンを下ろす。怪我はひどいけど、命に別状はなさそうだ。
僕は荷物から布を取り出して噛まれた箇所を縛ると、ひどい傷を塞ぐ程度の回復魔法をかけた。
「――ありがとう――」
痛みが減って意識がはっきりしてきたのか、ジャンがたどたどしく話す。
「ソーニャは……無事……?」
「無事よ、無事。ステファンたちに助けてもらったから! まぁ、あなたを逃がしたりしないで、初めから1人だったらあんなに追い詰められたりしなかったんだけどね!」
彼女の相変わらずな様子に僕は苦笑した。何でこう素直じゃないんだろう。
「何があったの?」
二人に問いかけると、顔を見合わせ答えてくれる。
「……ジャンが魔法草を落とすための穴を掘ろうとしてたの……。そしたら、土の中から、一角兎が飛び出してきて、ジャンが穴の中に引きずり込まれてしまったの」
「ソーニャが魔法で攻撃してくれて……、それで土の中からどんどん出てきたあいつらはみんなソーニャの方に向かって行って……、ソーニャが逃げろって言うから、俺はそのまま逃げて、そしたら運よくあなたたちに会えたんだ」
「土の中……、足のないたくさんの一角兎……」
僕は彼らの言葉を反復する。
一角兎は確かに土の中に巣を作る。だけど、一つの巣に暮らすのは一家族多くて5・6匹だ。あんなにたくさんが穴の中にいることなんてない。しかも足がないなんて……。
新種? ――いや。
「また、魔物の違法取引だ」
竜の卵に続いて……最近一体何なんだ。
「違法取引?」
レイラが首を傾げる。
「一角兎の足は高額取引されるんだよ。幸運のお守りとか、安産のお守りとか、そういう魔法用に。――誰かが大量に兎の足を切って、死にかけの一角兎を穴に埋めたんだ。だけどこの辺りは魔法草が多くて、地中に魔力が多いから……、地中で復活して、そこをジャンが掘り当てちゃったんじゃないかな」
僕はため息をついた。
「とりあえず、山を降りようか」
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