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2.元聖女は冒険者としての生活を始めました。

42.(ステファン視点)

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 ライガと共に実家を離れて数年、いろいろな場所に行き、冒険者ギルドにも数か所お世話になって、冒険者にも何人も会った。そんな中でも、所長――ナターシャさんは、すごく意識が高くて、尊敬できる人だ。
 
 冒険者ギルドはもともとは冒険者自身が各地で魔物退治なんかの依頼を受けやすいように作った組合を、魔術師ギルドが魔法使いたちの決めた法律(魔物取引法とかね)を守らせたり、彼らが使う魔術用の素材を集めさせたりするために再編成した組織だ。

 この世界は魔法使いが実権を握っているといってもいい。魔術師ギルドがある国は、彼らの決め事に従わないといけない。冒険者はその決め事の違反者を捕まえて、罰することができる警察権を持っている。
 
 だから僕は竜の卵の売買をしようとしたテムズさんを捕まえられるし、捕まえればこの街の冒険者ギルドには魔術師ギルドから報酬が支払われる。

 だけど、魔術師ギルドは彼らに関係がないことには、あまり関心がない。

 例えば、獣人の売買。

 珍しい見た目や能力や習性のために、ちょっと前まで獣人は人間に売り買いされることが多かったそうだ。
 だけど魔術師ギルドはそれにはあまり関心がなかったので、冒険者による取り締まりの対象にはしていなかった。
 一部の冒険者にいたっては、獣人を狩る依頼を受けて仕事をする人までいた。

 だけど、そんな時に声を上げたのが、ナターシャさんたち獣人の冒険者で――彼らは魔術師ギルドに訴えて獣人の売買を冒険者ギルドの取り締まり対象に加えさせた。

 かといって、魔術師ギルドにとってはもともと関心ごとではないから、取り締まりをしたところでそんなにたくさん報酬をもらえるわけでもない。

 実際のところ、それは慈善事業に近い。

 それでも彼女はそういうやからを何人も摘発して、今ではこのマルコフ王国の西端の街周辺は獣人が暮らし易い地域になっている。

 それにこの街のギルドのまとめ役をしていても、何かあれば自分で現場に行くし――ギルドの感じも良くて、街の人からもも泥棒の捕獲・喧嘩の仲裁までいろいろと頼られたりと関係が良い。

 僕は家を継ぐのを逃れるようにライガを連れて外に出て、何となく冒険者で生計を立ててるだけだったから、ナターシャさんみたいな生き方が眩しかった。

 ……なんてことを真面目に考えていたら、がたんっと椅子が倒れる音がした。
 
 横を見ると、レイラが椅子から転げ落ちて、床に転がっている。

「大丈夫ですかっ」

 テオドールさんが慌てて駆けつけるものの、レイラは目をこすって起き上がると、そのまま重たそうな瞼で僕たちを見回した。

「あー……、皆さん……いつの間に……お帰りなさい……」

「おーい、起きたのか?」

 ライガが声をかけると、彼女は「起きてます……よ……」と呟いてそのまま床に転がって寝てしまった。

「こりゃだめだな」

 ライガはため息をつくと、レイラを担ぎ上げた。

「食べ終わったし、俺たちも宿屋に戻ろうぜ」

「いや――、レイラと馬を連れて先に戻っててくれ」

 僕はライガに言った。

「所長、これからギルドに戻って魔術師ギルドに報告入れますよね」

「ああ、そのつもりだが」

「僕がリルと戻ってやっておきますので、所長は今日はこのままお休みになってください」

 所長は驚いた顔をすると、僕とそれからリルを見た。

「二人でやっとくわよ。たまには家でゆっくりしないと」

「……そうか、ならお言葉に甘えようかな」

 所長は気まずそうに笑うと、「ありがとう」と付け加えた。

 ***

 こうして僕らは教会を出た。

「じゃあ、ごちそうさまでした。すごい、美味しかったです」

 去り際、テオドールさんにそう言うと、彼はライガに背負われたレイラを見て言った。

「レイラなんですが――しばらくうちの教会に通ってもらったらどうでしょう? ――祈りや、その他諸々についてちょっと話をしたいな、と思いまして」

 僕は「もちろんです」と答えた。

 レイラの力が強いのはわかるけど――、どの程度のどんな聖魔法が使えるのかとか、そういうことは僕やライガじゃわからない。
 
 これから一緒にやっていくなら、同じ神官のテオドールさんに見てもらった方が良いだろう。  
 
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