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1.元聖女は冒険者になりました。

16.

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 人間改め人間と小人のハーフになった私は、とことこと2人と馬に積まれたおじさんの後をついて行った。

 今まで神殿から出ることなく生きてきた私はこんな長距離を歩いたことがなかったから、すぐに疲れて引き離されそうになってしまう。

 だけど、そこで私は発見したんですよ、体力を回復する方法を。

 それは自分に祈る――。

 兵士さんたちが休まずにずっと馬車を走らせ続けてくれたみたいに、自分に祈るとすーっと疲れがなくなることに気がついたんです。

 また置いてかれそうになった私は祈りの言葉を詠唱して、駆け足で追いついた。

「結構、体力あるんだね」

 心配そうに待っていてくれたステファンが感心したように言う。

 その言葉にちょっと得意げな気持ちになってたら、ライガがそれを折るようなことを言った。

「また途中でぶっ倒れるなよ」

「大丈夫だよ、自分のことだし」

 私は言い返すと、先を急いだ。

 そんな調子でずんずん進んで行くと、視線の先にレンガ積みの門が見えてきた。

 ようやく街に到着?

 初めての、外の、知らない国の街だ。

 私はわくわくして足取りが軽くなった。

 そこで急にステファンが立ち止まった。

「ライガ、そろそろもとに戻ってシャツ着てくれ」

 もとに戻る? 

 ライガは立ち止まるとちらりと私を見た。

「……ここで?」

「その姿だと、検問で止められるだろ」

「……わかったよ」

 またちらりと私を見ると、彼はぶっきらぼうに言った。

「後ろ向いてろ」

「え、何で?」

「いいから」

 ステファンが面白そうにフォローを入れる。

「レイラ、悪いけど、後ろ向いててやってくれないか。こいつ照れ屋なんだよ」

「いいですけど……」

 私は後ろを向くと首を傾げた。

 しばらくすると「いいぜ」とライガの声がした。

「――どういうこと――、え、ライガ?」

 振り返って私は目を大きく広げた。

 そこにはさらりとした銀髪の、ステファンより少し年下くらいの人間の男の人が立っていた。

 彼は長めの髪を無造作に縛ると、私を睨んだ。

「そうだけど?」

 狼の濁った声と違う、普通の声だ。でも口調や、鋭い緑色の瞳は間違いなく、さっきまで一緒に歩いていた二足歩行できるズボンを履いた狼だった。

「狼姿よりこっち人間姿のが驚かれるのは初めてだ」

 ライガは不思議そうに呟いた。
 
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