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25.(リアム視点)
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モニカを観察するうちに、彼女の親しい友人が城下町の夜市に現れる占い師を時折訪れていることがわかった。
彼女たちが占う内容については想像がついた。学園の女生徒の関心ごとと言えば、色恋沙汰だ。――そこで、閃いた。モニカがネイサン王子について占い師を信じたところで、指輪を渡せば――彼女はきっと、指輪の力をネイサン王子に使うのではないかと思った。
下見に行った夜市で黒いローブと仮面を買って、それに着替え、一時的に声をからす茶を飲んで声を変えた。占いを生業にしているのはほとんどが放浪民だ。楽器を持って城下町を彷徨っていたころ、そういう人たちの中に紛れ込んでみたこともあったので、それらしくふるまうことは容易かった。
夜市をうろついていたモニカの友人に声をかけ、占いを勧めてみる。
話を聞いてみれば、予想通り、占いたいことは恋愛の悩みだった。
貴族の息子に声をかけられて、一緒に遊ぶ仲になったが、相手には婚約者がいるようだ。自分は遊びなのだろうか、とそういう悩みだった。
相手の貴族の息子というのを俺は知っていた。
だから、適当にデート先として花の綺麗なところに行くといい、というようなことを彼女に言って、学園でその相手の男子生徒に近づいた。
モニカに指輪を渡す前に、その力を一度――数年ぶりに確認しておきたいというのもあった。
赤い石に涙を落とし、彼に声をかける。
「君は婚約者がいるのに、他の女の子を遊びに誘ったんだって? それは今の婚約者を堅苦しく感じてるからじゃないか?」
相手はしばらくぼーっとこちらを見つめてから、神妙そうに頷いた。
「さすがリアム様。僕の考えていることがよくわかりますね」
「声をかけた相手は平民クラスのあの子だろう。とても可愛いし、その子の方が絶対良いと思うよ」
彼は、大きく頷いた。
「リアム様が言う通り、そんな気がしてきました」
「今度、彼女と二人で出かけたら、君の真剣な気持ちを伝えるといいよ。でも、そうするなら堅苦しい婚約者とは先に別れておいた方が良いと思うな」
「……そうですね。確かにあいつとはは一緒にいてもつまらないと思ってたんです。その点、彼女は貴族じゃないですが――一緒にいて自然でいられるというか――」
そう言いながら、彼はつらつらと今の婚約者への不満と、モニカの友人への好意を語ってくれた。話を聞いて、婚約者と別れて、モニカの友人と交際した方が良いと何度も重ねるうちに、彼は納得したように頷いた。
「リアム様に話を聞いてもらえてとても良かった。婚約は破棄して、彼女と付き合いたいと思います」
最後に、「俺がアドバイスしたことは、俺たちの間の秘密にしといてくれよ」と言うと、嬉しそうに「わかりました」と頷いた。
義母が「魔女の息子」と言っていた俺への態度をころりと変えたように、彼はあっさりと婚約を破棄して、モニカの友人と付き合い始めた。
この指輪の力は、自分への好意を上げ自分の言ったことをもっともらしく感じさせる、というものだと改めて気づいた。
何度か周りの人間に試してみて気づいたのは――、何度も言い聞かせることで、それを本当だと感じさせる効果があるということ。裏を返せば、思っていることと違うことであれば、一度言っただけで自分の言葉の通り信じさせることは難しい。
例えば、犬を毛嫌いしている使用人に「可愛いから触ってみろ」と指輪の力を使って言っても、なかなか触ろうとしない。何日も言い続けてようやく「可愛いかもしれませんね」と言って触ったが、その使用人の犬嫌いを知っている別の使用人が「本当に可愛いと思ってるか?」と聞いたところ、「いや……思っていない」と考えを改めて逃げ帰ってしまった。
完全にそう思っていない時に「本当に?」と何度か問うと、魔力の効果が切れて、素の状態に戻ってしまうようだった。
彼女たちが占う内容については想像がついた。学園の女生徒の関心ごとと言えば、色恋沙汰だ。――そこで、閃いた。モニカがネイサン王子について占い師を信じたところで、指輪を渡せば――彼女はきっと、指輪の力をネイサン王子に使うのではないかと思った。
下見に行った夜市で黒いローブと仮面を買って、それに着替え、一時的に声をからす茶を飲んで声を変えた。占いを生業にしているのはほとんどが放浪民だ。楽器を持って城下町を彷徨っていたころ、そういう人たちの中に紛れ込んでみたこともあったので、それらしくふるまうことは容易かった。
夜市をうろついていたモニカの友人に声をかけ、占いを勧めてみる。
話を聞いてみれば、予想通り、占いたいことは恋愛の悩みだった。
貴族の息子に声をかけられて、一緒に遊ぶ仲になったが、相手には婚約者がいるようだ。自分は遊びなのだろうか、とそういう悩みだった。
相手の貴族の息子というのを俺は知っていた。
だから、適当にデート先として花の綺麗なところに行くといい、というようなことを彼女に言って、学園でその相手の男子生徒に近づいた。
モニカに指輪を渡す前に、その力を一度――数年ぶりに確認しておきたいというのもあった。
赤い石に涙を落とし、彼に声をかける。
「君は婚約者がいるのに、他の女の子を遊びに誘ったんだって? それは今の婚約者を堅苦しく感じてるからじゃないか?」
相手はしばらくぼーっとこちらを見つめてから、神妙そうに頷いた。
「さすがリアム様。僕の考えていることがよくわかりますね」
「声をかけた相手は平民クラスのあの子だろう。とても可愛いし、その子の方が絶対良いと思うよ」
彼は、大きく頷いた。
「リアム様が言う通り、そんな気がしてきました」
「今度、彼女と二人で出かけたら、君の真剣な気持ちを伝えるといいよ。でも、そうするなら堅苦しい婚約者とは先に別れておいた方が良いと思うな」
「……そうですね。確かにあいつとはは一緒にいてもつまらないと思ってたんです。その点、彼女は貴族じゃないですが――一緒にいて自然でいられるというか――」
そう言いながら、彼はつらつらと今の婚約者への不満と、モニカの友人への好意を語ってくれた。話を聞いて、婚約者と別れて、モニカの友人と交際した方が良いと何度も重ねるうちに、彼は納得したように頷いた。
「リアム様に話を聞いてもらえてとても良かった。婚約は破棄して、彼女と付き合いたいと思います」
最後に、「俺がアドバイスしたことは、俺たちの間の秘密にしといてくれよ」と言うと、嬉しそうに「わかりました」と頷いた。
義母が「魔女の息子」と言っていた俺への態度をころりと変えたように、彼はあっさりと婚約を破棄して、モニカの友人と付き合い始めた。
この指輪の力は、自分への好意を上げ自分の言ったことをもっともらしく感じさせる、というものだと改めて気づいた。
何度か周りの人間に試してみて気づいたのは――、何度も言い聞かせることで、それを本当だと感じさせる効果があるということ。裏を返せば、思っていることと違うことであれば、一度言っただけで自分の言葉の通り信じさせることは難しい。
例えば、犬を毛嫌いしている使用人に「可愛いから触ってみろ」と指輪の力を使って言っても、なかなか触ろうとしない。何日も言い続けてようやく「可愛いかもしれませんね」と言って触ったが、その使用人の犬嫌いを知っている別の使用人が「本当に可愛いと思ってるか?」と聞いたところ、「いや……思っていない」と考えを改めて逃げ帰ってしまった。
完全にそう思っていない時に「本当に?」と何度か問うと、魔力の効果が切れて、素の状態に戻ってしまうようだった。
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