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24.(リアム視点)
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その日を境に俺は街をふらつかなくなり、勉強にも真面目に取り組むようになった。
俺は母さんに大切に思われていたことに間違いはないと思えたことが自信に繋がった。
義母はすっかり俺に友好的になったし、生まれたばかりの弟は俺によく懐いて可愛かったし、家族の中での居心地はとても良くなった。
全部順調に思えた――だけど。
義母と弟を見るたびに、二人が俺に好意的なのは、指輪の魔法のおかげで、本当に好いてくれてるわけじゃない、という考えが頭を過ぎった。
魔法の力を使わなければ、エリアナは俺の事を『魔女の息子』と呼んで嫌い続けて、弟も俺には懐かなかっただろう。
――そう考えると、二人といると虚構の舞台の上にいるようで、居心地が悪かった。
指輪の力で周りの人間に好かれるようにすると、それは本当ではないと疑い続けて辛くなる。結局、魔法の力では本当のものは得られない――その考えに思い至った俺は、それ以後指輪の力を使うことはなかった。
――隣国のネピアに留学し、ルイーズが婚約者だというネイサン王子と親し気に過ごしているのを見るまでは。
隣国に留学し、婚約したい相手がいれば探して来いと父に言われた時に、昔、俺に転機をくれたルイーズという令嬢の名前が浮かんだ。
名前を調べてみれば、彼女はネピアの侯爵家の令嬢だった。留学先の学園に通っていることは確実だった。
どんな風な女性になっているだろうか。
俺のことなどは覚えていないだろうが、再会できることが嬉しく思いながら隣国へと訪れ、早速学園で彼女を見つけた。
栗色のふわふわと揺れる髪に、優し気な青い瞳。
中庭で薔薇に水をあげながら微笑む姿は記憶の中の笑顔のままで、一目見ただけで彼女がルイーズだとわかった。
気づけば日々彼女を目で追うようになっていた。
だけど……、声をかけようにも、彼女の傍にはいつもネピアのネイサン王子がいた。
彼女が彼の婚約者に決まったばかりだという話をしばらくして知った。
――婚約者が決まっているのか。
その話を聞いた時は、心が冷えるような感覚がした。
婚約者が決まっている相手に、声をかけるわけにはいかない。
そう思ったものの、彼女の姿を目で追う事は止められなかった。
中庭の隅で彼女の育てた薔薇に囲まれながら、静かに本を読んで微笑み合う二人を見て、俺は思った。
――あの笑顔が、俺に向けられたものであったなら。
そして――あの指輪のことが頭に浮かんだ。
――あの魔法を使えば、彼女は俺にあの笑顔を向けてくれるだろうか。
その考えを、俺はすぐに振り払った。魔法で心を一度操ってしまえば、その後ずっと、相手の気持ちが本物か疑い続けなければならなくなる。
それは、望むことではなかった。
だけど――、俺は、二人の姿を見て、胸が痛むのを感じた。
そんな時だった。同じように中庭にいる二人を見つめる女生徒に気づいたのは。
彼女がモニカ=アシュタロトだった。
俺は一目でネイサン王子とルイーゼを見つめる彼女の瞳の強さに気づいた。
あれは、何か手段さえあれば、他を蹴落としてでも欲しいものを求める類の性分の瞳だった。
それから俺はモニカのことを探った。
学内で彼女とつながりのある女生徒にそれとなく聞いてみたら、すらすらと教えてくれた。――欲しいものは欲しいとはっきりと言うタイプ、そしてネイサン王子の婚約者がルイーズに決まったことに対して、『どうしてあんな目立たない人が』と漏らしていた――と。
俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
彼女にあの指輪を渡したら、どんな行動をとるだろうか。
ネイサン王子をルイーズから自然に、離してくれないだろうか。
俺は母さんに大切に思われていたことに間違いはないと思えたことが自信に繋がった。
義母はすっかり俺に友好的になったし、生まれたばかりの弟は俺によく懐いて可愛かったし、家族の中での居心地はとても良くなった。
全部順調に思えた――だけど。
義母と弟を見るたびに、二人が俺に好意的なのは、指輪の魔法のおかげで、本当に好いてくれてるわけじゃない、という考えが頭を過ぎった。
魔法の力を使わなければ、エリアナは俺の事を『魔女の息子』と呼んで嫌い続けて、弟も俺には懐かなかっただろう。
――そう考えると、二人といると虚構の舞台の上にいるようで、居心地が悪かった。
指輪の力で周りの人間に好かれるようにすると、それは本当ではないと疑い続けて辛くなる。結局、魔法の力では本当のものは得られない――その考えに思い至った俺は、それ以後指輪の力を使うことはなかった。
――隣国のネピアに留学し、ルイーズが婚約者だというネイサン王子と親し気に過ごしているのを見るまでは。
隣国に留学し、婚約したい相手がいれば探して来いと父に言われた時に、昔、俺に転機をくれたルイーズという令嬢の名前が浮かんだ。
名前を調べてみれば、彼女はネピアの侯爵家の令嬢だった。留学先の学園に通っていることは確実だった。
どんな風な女性になっているだろうか。
俺のことなどは覚えていないだろうが、再会できることが嬉しく思いながら隣国へと訪れ、早速学園で彼女を見つけた。
栗色のふわふわと揺れる髪に、優し気な青い瞳。
中庭で薔薇に水をあげながら微笑む姿は記憶の中の笑顔のままで、一目見ただけで彼女がルイーズだとわかった。
気づけば日々彼女を目で追うようになっていた。
だけど……、声をかけようにも、彼女の傍にはいつもネピアのネイサン王子がいた。
彼女が彼の婚約者に決まったばかりだという話をしばらくして知った。
――婚約者が決まっているのか。
その話を聞いた時は、心が冷えるような感覚がした。
婚約者が決まっている相手に、声をかけるわけにはいかない。
そう思ったものの、彼女の姿を目で追う事は止められなかった。
中庭の隅で彼女の育てた薔薇に囲まれながら、静かに本を読んで微笑み合う二人を見て、俺は思った。
――あの笑顔が、俺に向けられたものであったなら。
そして――あの指輪のことが頭に浮かんだ。
――あの魔法を使えば、彼女は俺にあの笑顔を向けてくれるだろうか。
その考えを、俺はすぐに振り払った。魔法で心を一度操ってしまえば、その後ずっと、相手の気持ちが本物か疑い続けなければならなくなる。
それは、望むことではなかった。
だけど――、俺は、二人の姿を見て、胸が痛むのを感じた。
そんな時だった。同じように中庭にいる二人を見つめる女生徒に気づいたのは。
彼女がモニカ=アシュタロトだった。
俺は一目でネイサン王子とルイーゼを見つめる彼女の瞳の強さに気づいた。
あれは、何か手段さえあれば、他を蹴落としてでも欲しいものを求める類の性分の瞳だった。
それから俺はモニカのことを探った。
学内で彼女とつながりのある女生徒にそれとなく聞いてみたら、すらすらと教えてくれた。――欲しいものは欲しいとはっきりと言うタイプ、そしてネイサン王子の婚約者がルイーズに決まったことに対して、『どうしてあんな目立たない人が』と漏らしていた――と。
俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
彼女にあの指輪を渡したら、どんな行動をとるだろうか。
ネイサン王子をルイーズから自然に、離してくれないだろうか。
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