【完結】婚約破棄をめぐる思惑~魅了の指輪を使われて婚約破棄されました~

夏灯みかん

文字の大きさ
16 / 34

16.(ネイサン視点)

しおりを挟む
 心を操る魔法の指輪――、そんなものがあるのだろうか。
 でも、自分の心の変化を振り返ると、その『魔法』のせいでああなっていたとしか考えられなかった。
 
魔法のせいで、あんな態度をとったんだ、ルイーズ。
 
 そう言ったら、彼女は許してくれるだろうか?
 
 いや、とにかく。
 明確な事実は、モニカがルイーズがドレスを破ったという事件をでっち上げていたこと。
 そのことをまずは訂正しなければならない。

「モニカ、嘘をついたことをルイーズの前で認めて、謝罪をしてくれ」

 そう言うと、モニカはぶんぶんと首を振ったまま、部屋の隅へと後ずさった。

「嫌、嫌よ、そんなことをしたら、もうお終いだもの……。今までの事、全部……」

「モニカ!」

 モニカの父親が娘に飛び掛かる勢いで名前を叫んだ。
 僕はそれを手で止めて、モニカを見つめた。

「もう、終わってるんだ、モニカ。僕は君のことを、今は、ただ軽蔑した気持ちでしか見られない……。どうして、君のことを熱に浮かれたように思っていたのか、今じゃわからないんだ。でも、僕の事を好きだというのなら、事実を認めて、謝ってくれ。僕ではなく、まず、ルイーズに」

 モニカはその場に泣き崩れると、こくりと一回、人形のように頷いた。

 ***
 
 僕はモニカとモニカの父親を連れて、ルイーズの屋敷を訪れた。

「ネイサン様……それに……商人の……アスタルト殿? どういったご用件で?」

 玄関で出迎えてくれたルイーズの父親……アルフォンソ侯爵は苦虫を嚙みつぶしたような表情で僕を見つめた。
 ――娘に婚約破棄を突き付けた相手に対しては、当たり前の対応だろう。

「お願いがあります。ルイーズに会わせて頂けないでしょうか」

 僕が頭を深く下げると、侯爵は驚いたような表情に顔色を変化させ、「いや」「しかし」と呟いた。

「僕がルイーズにしてしまったことを謝罪させていただきたいんです。……彼女が、モニカのドレスを破ったと、学園のホールで問い詰めた事を。――それは、モニカがルイーズをおとしめようとついた嘘で……、それを信じてしまったのは、僕が馬鹿だったからだと」

「うちの娘がそんなことをするはずないことはわかりきっている。それを勝手に責めたて……勝手に謝罪をと言われても困ります!」

 顔を上げると、侯爵は鬼のような形相でこちらを睨んでいた。

「……申し訳ない」

 僕は再度頭を下げた。
 ルイーズに直接会わせてもらえるまで、続けるしかない。

 その時……、

「ネイサン様?」

 玄関ホールの向こうから、ルイーズの声がした。

「ルイ―ズ!」

 ずいぶん久しぶりに彼女の声を聞いた気がした。
 風の音のような、耳に心地の良い声。

 僕は顔を上げて、そのまま表情を凍らせた。
 彼女の傍らには、黒髪の隣国の王子――リアムいた。

 そうだ、僕は彼女を階段で押してしまって……、それを助けてくれたのは彼だった……。

「ネイサン様! お引き取り下さい! ルイーズに謝罪したければ、まず国王陛下を通して、然るべき方法でしていただきたい!」

 侯爵は僕たちを玄関の外へ押し出すと、扉を閉めてしまった。

***

「ルイーズのことは、でっちあげだったと、そういうことか」

 父上は拳をわなわなと震わせて、振りかぶった。
 僕は目を閉じると、それが自分に振り下ろされるのを待った。
 しかし、いつまで経っても痛みはなく、目を開けると、父はだらりと拳をぶら下げるように立ち尽くしていた。そして、ただ一言。

「情けない……」

 と呟いた。
 ――殴りつけられた方がどれだけ良かったか。

「――――どうして、そんな妄言を信じたんだ、お前は」

 諦めきったような言葉でそう問われて、僕は、モニカの言っていたことを話した。

「魔法のようなもので――モニカに魅了されていたとしか、考えられません。モニカは街の夜市で、占い師から人を魅了する魔法が使える指輪をもらった、と」

「魔法の指輪だと?」

 父上は眉根を寄せた。

「そんなものがあるわけが――、たんに、お前は婚約者をないがしろにし、別の娘に熱を上げていただけではないのか? 婚約者が決まったからには、何より婚約者を優先し、遊びは控えろとあれだけ言っていたというのに――」

 ぎりりと唇を噛む。確かに僕は、ルイーズが婚約者に決まる前は、色々な子に声をかけたり、出かけたりしていた。
 だけど、ルイーズとの婚約が決まってからは――、

「僕はルイーズをないがしろにするような気は全くありませんでした。僕は彼女のことが、好きだったんです」

 そう血がにじむような声で言う。
 父上はじっと無言で僕を見つめて、低い声で言った。

「ルイーズについては、正式に謝罪の場を設ける。嘘をついたモニカの処分はこちらで決める。――お前には、偽りの言葉を信じた罰として、謹慎を命じる」

「――はい」

 僕は深く頷いた。とにかくルイーズに謝罪をする場面を設定してもらえるだけでも、今は嬉しい。

「その指輪とやらについては、調査をする」

 父上はそう付け加えて、僕に下がれと命じた。

しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。  レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。  知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。  私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。  そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

処理中です...