17 / 34
17.
しおりを挟む
ネイサン様やモニカが学園に来なくなってから一週間、私は毎日ローラを交えてリアムと昼食をとり、放課後はしばらく二人で語らい、私の屋敷まで送ってもらうという生活をしていた。
家に帰れば、お母様は「リアム様とどんな話をしたのか」と詳しく聞こうとしてくる。
話しているのは世間話……その日学園であったことや、私が世話をしている花の事や、そんな他愛なことばかりだったけれど。
今日は週末だったから、いつものようにリアムの馬車に乗せてもらって家についたところ、お母様が彼を引き留めた。
「リアム様、ぜひうちで夕食をご一緒しませんか?」
「お母さま、それは……」
家での夕食に異性を招くとなると、親が公に関係を認めた――つまり、婚約したというような意味合いになってしまう。
確かに、婚約の話を考えてくれとは言われたけれど、今のところ、まずはお友達からということだけど……。
リアムは笑顔で「喜んで」と答えたので、私は慌ててしまった。
「そんな、こんな急なお誘いで申し訳ないです」
「いや、嬉しいよ。屋敷に戻っても叔父上は週末は特に不在が多くて、叔母とだけ食べるのも気まずいし」
「……そう?」
それなら、一緒に食べたほうが良いかしら、そう思いながら玄関を入ると、お母様が「数日前から準備していたから、安心おし」と耳打ちした。
……その言葉通り、夕食はお客様を歓迎するいつもより大分豪華なものだった。
***
お父様が帰って来てから、私たちは食卓を一緒に囲んだ。
「本当に美味しかったです」
食後のお茶を飲みながら、リアムの言葉にお父様もお母様も嬉しそうに笑ったその時……、
「旦那様、玄関に……」
執事が耳打ちをすると、お父様は血相を変えて椅子から立ち上がった。
「ちょっと失礼、食後のお茶を続けていてくれ」
そう言って執事とともにそそくさと去って行く。
私たちは何があったのかしらと顔を見合わせた。
そして、しばらくすると……、私の名前を誰かが大きな声で言っているような声が聞こえて来た。この声は……! 思わず立ち上がると、玄関ホールへ走った。
「ルイーズ!」
後ろからリアムがついてくる。
玄関には、確かにお父様と対峙するネイサン様がいた。
「ネイサン様?」
何でこんな時間に、私の家に直接ネイサン様が……、それに……。
表情が動かせなくなる。……モニカも一緒……!? それだけではなく……、モニカの父親と思われる男の人も一緒にいた。
いったい、何事だろう。
「ルイ―ズ!」
私に気づいたネイサン様が名前を呼んだ。
……どんな顔で私に会いに来たのかしら。
学園のホールで見つめられた時は、私を恨むような暗い目をしていたわ。
恐る恐るネイサン様の瞳を見た私は、戸惑ってしまった。
――依然と変わらない、澄んだ青い瞳で私を見ていたから。
「……」
何と言っていいかわからず立ちすくんでいると、
「ネイサン様! お引き取り下さい! ルイーズに謝罪したければ、まず国王陛下を通して、然るべき方法でしていただきたい!」
お父様が大きい声でそう言って、ネイサン様を玄関の外に追い出してしまった。
「リアム様、お見苦しいものをお見せしました。ルイーズ、食卓へ戻ろう。まだデザートがあったはず」
お父様は大きく息を吐くと、私たちに向き直って、何事もなかったかのように笑った。
だけど、私は、聞かざるおえなかった。
「お父様……、ネイサン様は何を言いに来たんですか?」
今さら、何を言いに?
「……モニカの言っていた、お前に関することは、でっちあげだったと。謝罪をしたいと言ってきた」
お父様は大きなため息交じりにそう答えて、表情を厳しくした。
「今さら虫の良い。きちんと、公に謝罪させるから安心しなさい」
「学園のホールで君を責めたてたんだ。きちんと、皆の揃っている場で彼は謝るべきなんだよ」
リアムも私の肩に手を置いてそう言った。
家に帰れば、お母様は「リアム様とどんな話をしたのか」と詳しく聞こうとしてくる。
話しているのは世間話……その日学園であったことや、私が世話をしている花の事や、そんな他愛なことばかりだったけれど。
今日は週末だったから、いつものようにリアムの馬車に乗せてもらって家についたところ、お母様が彼を引き留めた。
「リアム様、ぜひうちで夕食をご一緒しませんか?」
「お母さま、それは……」
家での夕食に異性を招くとなると、親が公に関係を認めた――つまり、婚約したというような意味合いになってしまう。
確かに、婚約の話を考えてくれとは言われたけれど、今のところ、まずはお友達からということだけど……。
リアムは笑顔で「喜んで」と答えたので、私は慌ててしまった。
「そんな、こんな急なお誘いで申し訳ないです」
「いや、嬉しいよ。屋敷に戻っても叔父上は週末は特に不在が多くて、叔母とだけ食べるのも気まずいし」
「……そう?」
それなら、一緒に食べたほうが良いかしら、そう思いながら玄関を入ると、お母様が「数日前から準備していたから、安心おし」と耳打ちした。
……その言葉通り、夕食はお客様を歓迎するいつもより大分豪華なものだった。
***
お父様が帰って来てから、私たちは食卓を一緒に囲んだ。
「本当に美味しかったです」
食後のお茶を飲みながら、リアムの言葉にお父様もお母様も嬉しそうに笑ったその時……、
「旦那様、玄関に……」
執事が耳打ちをすると、お父様は血相を変えて椅子から立ち上がった。
「ちょっと失礼、食後のお茶を続けていてくれ」
そう言って執事とともにそそくさと去って行く。
私たちは何があったのかしらと顔を見合わせた。
そして、しばらくすると……、私の名前を誰かが大きな声で言っているような声が聞こえて来た。この声は……! 思わず立ち上がると、玄関ホールへ走った。
「ルイーズ!」
後ろからリアムがついてくる。
玄関には、確かにお父様と対峙するネイサン様がいた。
「ネイサン様?」
何でこんな時間に、私の家に直接ネイサン様が……、それに……。
表情が動かせなくなる。……モニカも一緒……!? それだけではなく……、モニカの父親と思われる男の人も一緒にいた。
いったい、何事だろう。
「ルイ―ズ!」
私に気づいたネイサン様が名前を呼んだ。
……どんな顔で私に会いに来たのかしら。
学園のホールで見つめられた時は、私を恨むような暗い目をしていたわ。
恐る恐るネイサン様の瞳を見た私は、戸惑ってしまった。
――依然と変わらない、澄んだ青い瞳で私を見ていたから。
「……」
何と言っていいかわからず立ちすくんでいると、
「ネイサン様! お引き取り下さい! ルイーズに謝罪したければ、まず国王陛下を通して、然るべき方法でしていただきたい!」
お父様が大きい声でそう言って、ネイサン様を玄関の外に追い出してしまった。
「リアム様、お見苦しいものをお見せしました。ルイーズ、食卓へ戻ろう。まだデザートがあったはず」
お父様は大きく息を吐くと、私たちに向き直って、何事もなかったかのように笑った。
だけど、私は、聞かざるおえなかった。
「お父様……、ネイサン様は何を言いに来たんですか?」
今さら、何を言いに?
「……モニカの言っていた、お前に関することは、でっちあげだったと。謝罪をしたいと言ってきた」
お父様は大きなため息交じりにそう答えて、表情を厳しくした。
「今さら虫の良い。きちんと、公に謝罪させるから安心しなさい」
「学園のホールで君を責めたてたんだ。きちんと、皆の揃っている場で彼は謝るべきなんだよ」
リアムも私の肩に手を置いてそう言った。
12
お気に入りに追加
835
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる