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第九話
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温かい湯の張ったバスタブに浸かり、ぼうっと水面を眺める。縄で縛られたときに出来た擦り傷に水が触れると鋭い痛みが走り、俺は思わずビクッと肩を震わせてしまった。
「シェリル……」
メイナードの声が耳に触れる。俺の両手をそっと取ると、彼はひどく悲しそうな顔をして赤く痕がついた手首を撫でた。
長時間縛られたせいで手先が痺れてしまった俺に、メイナードは自ら風呂の世話をしてくれた……服が濡れてしまうのも気にせず。
(メイナードの手に触れられるの、気持ちいいな)
地下室の床に寝かされ、暴漢達に掴まれたせいで埃まみれのぐしゃぐしゃになっていた俺の髪は、彼によってすっかり綺麗に洗われた。
洗い流せない怪我は残っているが、心は不思議とあまり傷ついていない。きっと、メイナードが駆けつけ、未遂のまま救い出してくれたからだ。
……むしろ、精神的にダメージを負ったのは、メイナードのようである。
先ほどからずっと顔色が青白く、俺につけられた傷を見るたびに、悲しみ、悔しさ、怒り、様々な感情が複雑に入り交じったようなひどい表情を浮かべている。
そんなメイナードの顔を見るだけで、俺は胸がきつく締め付けられるような苦しさを感じた。
(無理もないのかな……運命の番のΩを傷つけられた、それは番のΩを庇護したいというαに備わる本能を考えるとすごくショックな出来事のはずだ)
彼に握られていた両手の片方をほどき、メイナードの頬にそっと触れる。
目と目が合った時、俺は大丈夫だと伝えたくて優しく微笑んでみせた。
「殿下。……助けてくれてありがとうございました」
自分を責めてばかり居て欲しくなくて、精一杯感謝の気持ちを伝えた俺に、メイナードは目を見張り……次の瞬間、湯船に身を乗り出し抱きしめてきた。
メイナードが身にまとうシャツが濡れ、布一枚隔てて密着した肌の熱さについ心臓が暴れ出す。俺を抱きしめる腕がかすかに震えていて、切ない感情で泣きたくなるほどに胸が一杯になる。
「シェリル、すまなかった……僕が守らなきゃいけないのに、大切な君を……傷つけてしまった。僕に、君の番になる資格などないのではないかって、先ほどからそんなことばかり考えてしまうんだ」
泣き出してしまいそうな声で話すメイナードの背中に、そっと腕を回す。息を呑む彼を抱きしめ返すと、俺はその鎖骨のあたりに顔を埋めた。
「なぜ自分を責めるのですか、殿下……殿下は、俺を二度も救ってくれたのに。俺は、殿下の番になりたいです。殿下とじゃなきゃ、嫌だ……!!」
「……ッ、シェリル……!!」
メイナードの首筋に、ちゅ、と口づける。顔を上げ、そのまま彼の形の良い唇を奪った。
――殿下が好きだと、αとかΩとか、運命の番とか関係なく好きなんだと、口づけの合間合間に必死に伝える。
彼の下唇を甘噛みし、メイナードからもしてほしいとねだるように舌を出す。
「こ、こんなふうに、さいきんからずっとっ……殿下と、触れ合いたくて、堪らなかった」
「っ、シェリル、僕は……」
「殿下、噛んでください……俺の首筋、いっぱい噛んで番にしてください」
そんな科白を吐いていると、体中が溶けそうなほど熱くなる。きっとこの体温もすべて、メイナードに伝わっているのだろう。
「殿下、好きです、大好き……」
――彼の胸に縋り付きながら俺が囁いた、その時。メイナードは俺の後頭部を押さえると、今度は彼の方から深く口づけてきた。
「ん、ぁ、んむっ……!!」
甘やかすような優しい口づけなのに、敏感な唇の表面や口蓋を舌で愛撫されて、意識がとろける。腰が抜けそうなほどの快感に、おかしくなりそうだ。
「っ……僕も、愛しているよシェリル。こんな僕でも選んで欲しい。僕の番になって、一生側にいて欲しい……!!」
メイナードの目から、一筋の涙が頬を伝う。そんな彼につられて、俺もぼろぼろと泣き出してしまった。
「ぁ、うれし、殿下っ……んッ、ぁ、俺も、俺もすき、ん、んむ……」
舌を絡ませ、深く交じり合わせる。互いに涙を流しながらの口づけは、胸をきゅうきゅうと締め付けた。
唇がふやけるほど長い時間、口づけに夢中になった俺たちは……やがて、浴室を出ると、どちらからともなく導かれるようにメイナードの寝室へと入っていった。
「シェリル……」
メイナードの声が耳に触れる。俺の両手をそっと取ると、彼はひどく悲しそうな顔をして赤く痕がついた手首を撫でた。
長時間縛られたせいで手先が痺れてしまった俺に、メイナードは自ら風呂の世話をしてくれた……服が濡れてしまうのも気にせず。
(メイナードの手に触れられるの、気持ちいいな)
地下室の床に寝かされ、暴漢達に掴まれたせいで埃まみれのぐしゃぐしゃになっていた俺の髪は、彼によってすっかり綺麗に洗われた。
洗い流せない怪我は残っているが、心は不思議とあまり傷ついていない。きっと、メイナードが駆けつけ、未遂のまま救い出してくれたからだ。
……むしろ、精神的にダメージを負ったのは、メイナードのようである。
先ほどからずっと顔色が青白く、俺につけられた傷を見るたびに、悲しみ、悔しさ、怒り、様々な感情が複雑に入り交じったようなひどい表情を浮かべている。
そんなメイナードの顔を見るだけで、俺は胸がきつく締め付けられるような苦しさを感じた。
(無理もないのかな……運命の番のΩを傷つけられた、それは番のΩを庇護したいというαに備わる本能を考えるとすごくショックな出来事のはずだ)
彼に握られていた両手の片方をほどき、メイナードの頬にそっと触れる。
目と目が合った時、俺は大丈夫だと伝えたくて優しく微笑んでみせた。
「殿下。……助けてくれてありがとうございました」
自分を責めてばかり居て欲しくなくて、精一杯感謝の気持ちを伝えた俺に、メイナードは目を見張り……次の瞬間、湯船に身を乗り出し抱きしめてきた。
メイナードが身にまとうシャツが濡れ、布一枚隔てて密着した肌の熱さについ心臓が暴れ出す。俺を抱きしめる腕がかすかに震えていて、切ない感情で泣きたくなるほどに胸が一杯になる。
「シェリル、すまなかった……僕が守らなきゃいけないのに、大切な君を……傷つけてしまった。僕に、君の番になる資格などないのではないかって、先ほどからそんなことばかり考えてしまうんだ」
泣き出してしまいそうな声で話すメイナードの背中に、そっと腕を回す。息を呑む彼を抱きしめ返すと、俺はその鎖骨のあたりに顔を埋めた。
「なぜ自分を責めるのですか、殿下……殿下は、俺を二度も救ってくれたのに。俺は、殿下の番になりたいです。殿下とじゃなきゃ、嫌だ……!!」
「……ッ、シェリル……!!」
メイナードの首筋に、ちゅ、と口づける。顔を上げ、そのまま彼の形の良い唇を奪った。
――殿下が好きだと、αとかΩとか、運命の番とか関係なく好きなんだと、口づけの合間合間に必死に伝える。
彼の下唇を甘噛みし、メイナードからもしてほしいとねだるように舌を出す。
「こ、こんなふうに、さいきんからずっとっ……殿下と、触れ合いたくて、堪らなかった」
「っ、シェリル、僕は……」
「殿下、噛んでください……俺の首筋、いっぱい噛んで番にしてください」
そんな科白を吐いていると、体中が溶けそうなほど熱くなる。きっとこの体温もすべて、メイナードに伝わっているのだろう。
「殿下、好きです、大好き……」
――彼の胸に縋り付きながら俺が囁いた、その時。メイナードは俺の後頭部を押さえると、今度は彼の方から深く口づけてきた。
「ん、ぁ、んむっ……!!」
甘やかすような優しい口づけなのに、敏感な唇の表面や口蓋を舌で愛撫されて、意識がとろける。腰が抜けそうなほどの快感に、おかしくなりそうだ。
「っ……僕も、愛しているよシェリル。こんな僕でも選んで欲しい。僕の番になって、一生側にいて欲しい……!!」
メイナードの目から、一筋の涙が頬を伝う。そんな彼につられて、俺もぼろぼろと泣き出してしまった。
「ぁ、うれし、殿下っ……んッ、ぁ、俺も、俺もすき、ん、んむ……」
舌を絡ませ、深く交じり合わせる。互いに涙を流しながらの口づけは、胸をきゅうきゅうと締め付けた。
唇がふやけるほど長い時間、口づけに夢中になった俺たちは……やがて、浴室を出ると、どちらからともなく導かれるようにメイナードの寝室へと入っていった。
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