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第八話
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――目が覚めると、そこは埃っぽく薄暗い地下室のような場所だった。どこか既視感を覚えて、はっと思い出す。そう、俺が転生後初めて目が覚めた場所……子爵家の地下物置、シンデレラの部屋だ。
指先が痺れるほど強く両手首を縄で縛られていて、ひゅっと心臓が縮こまる。背筋を伝う冷や汗の感触に、全身総毛立った。
(俺、子爵家に拉致されたのか? でも、なんで……)
ギィ……と不気味な音を立てて、扉が開く。ビクッと肩を震わせて怯える俺の前に現れたのは、意地悪な義姉二人。
「あら、ようやく目が覚めたのね。待ちくたびれたわ」
妹の方が口を開く。余裕そうな悪役らしい科白だが、その声はかすかに震えていた。二人の表情からはどこか焦燥を感じる。顔色は青白く、浮かべた笑みが歪んでいて。
「ど、どうして、誘拐なんて……」
俺がか細い声で恐る恐る尋ねると、姉の方がキッと鋭く睨み付けてきた。
「どうして? お前が一番よく分かっているでしょう!! お前を虐待していたからって、貴族社会から除け者にされてるのよ!! このまま没落し続けたら、ラミアースの家は爵位を失ってしまうの!!」
ヒステリックに怒鳴り散らす姉の後ろで、妹は壊れたような笑い声を上げる。
「でもね、公爵家のリリア様は言ってくださったの。シェリルを拉致して、ボロボロになるまで汚して、犯してから処分すれば、資金を援助してくださるって!! リリア様が王子妃の座についた暁には、筆頭侍女として召し抱えてくださるとも!!」
甲高い声がキンキンと地下室に響いたと同時に、姉妹の背後、地下室の扉から大男が三人、現れた。おそらく俺に暴行させるために雇った暴漢たちであろう――その見覚えのある面々に、戦慄する。
「久しぶりだな、あの時のΩの小僧」
ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべて現れた彼らは、メイナードと出会ったあの日……路地裏で俺を襲おうとしたあの暴漢たちだった。
―――――
細い足首を掴まれ、無理矢理に脚を開かされる。
三人の大男――おそらくα――に抑えつけられては、Ωの細腕ではどれだけ抵抗しても逃れることなど出来ない。
「やめろ、やめっ……離せって!!」
「うるせぇ、黙ってろ!!」
ガン、とこめかみのあたりを強く殴られて、脳みそが揺さぶられるようにぐわんぐわんと衝撃が響く。
胸ぐらを掴まれ、胸元から服を引き裂かれて、恐怖で頭の中が真っ白になった。
「こいつの貞操帯外して、首筋噛んでやろうぜ、そうすればおとなしくなるだろ」
一人が提案すると、二人はニヤリと笑って、俺の首に手をかけた。
鍵はメイナードに預けてあり、男達に貞操帯を外すことは不可能……そう思っていたのに、男達は針金を取り出すと、鍵穴に差し込み強引にこじ開けてしまった。
「ッ……!!」
貞操帯を取り払われ、あらわになった真白いうなじを気持ちの悪いねっとりとした手つきで撫でられる。ぞわぞわと鳥肌が立ち、額に脂汗が滲んだ。
「やめ、やめてくれ……」
消え入りそうな声で、涙を瞳に浮かべて懇願するシェリルを、暴漢達はむしろ楽しそうに見下ろし、舌なめずりをする。
「まっさらだ、傷一つねぇ。二ヶ月も一緒に居て、あの王子噛まなかったのか。甲斐性が無いんだな」
あざ笑うようなその声音に、俺はメイナードを馬鹿にされたことが悔しくて悔しくて、ギリ、と歯を食いしばった。
(……違う、メイナードは、俺のことを尊重して……大切にしていたから、噛まなかったんだ。見境無く強姦するようなお前ら犯罪者の尺度で踏みにじるな)
反抗的な目で睨み付ければ、今度は反対のこめかみを殴られ、視界がぐらつく。
「なんだその目は? Ωはおとなしくα様に従っていろ!! ……まぁ、今に抵抗できなくなるさ。知ってるか? αに首筋噛まれるの、すごい“イイ”んだってよ」
「特に番契約なんか、一生に一度しか体験できないのがもったいないくらいに気持ちいいらしいぜ」
「抵抗してられるのも今のうちだ、すぐにメスにしてやる」
うなじを隠せないように、体中を抑えつけられる。男の顔が迫ってきて、生ぬるい吐息が首筋に触れ、もう駄目だと絶望した……その時だった。
――廊下から響き渡る無数の足音、地下室のドアが蹴破られ、流れ込むように騎士達が入ってきたのは。
「――全員、動くな!! 武器は捨て、その場に立って両手を挙げろ!!」
……愛しいメイナードの声が聞こえる。蒼白になる子爵家姉妹、舌打ちをして俺を離し、両手を挙げる暴漢達。
それらを次々と拘束していく騎士達集団をかき分けて、メイナードは現れた。よほど走り回ってくれたのか、肩で荒い息をしている。
「殿下、助けに、来てくれたんですね……」
衣服を乱され、縄で拘束され、ボロボロになった俺の姿を目にした途端……メイナードは深く傷ついたようなひどい血相になり。
「――シェリル!!」
次の瞬間、駆け寄ってきた彼の腕に深く掻き抱かれ、こみ上げてくる安堵に俺はぽろぽろと涙をこぼしてしまった。
指先が痺れるほど強く両手首を縄で縛られていて、ひゅっと心臓が縮こまる。背筋を伝う冷や汗の感触に、全身総毛立った。
(俺、子爵家に拉致されたのか? でも、なんで……)
ギィ……と不気味な音を立てて、扉が開く。ビクッと肩を震わせて怯える俺の前に現れたのは、意地悪な義姉二人。
「あら、ようやく目が覚めたのね。待ちくたびれたわ」
妹の方が口を開く。余裕そうな悪役らしい科白だが、その声はかすかに震えていた。二人の表情からはどこか焦燥を感じる。顔色は青白く、浮かべた笑みが歪んでいて。
「ど、どうして、誘拐なんて……」
俺がか細い声で恐る恐る尋ねると、姉の方がキッと鋭く睨み付けてきた。
「どうして? お前が一番よく分かっているでしょう!! お前を虐待していたからって、貴族社会から除け者にされてるのよ!! このまま没落し続けたら、ラミアースの家は爵位を失ってしまうの!!」
ヒステリックに怒鳴り散らす姉の後ろで、妹は壊れたような笑い声を上げる。
「でもね、公爵家のリリア様は言ってくださったの。シェリルを拉致して、ボロボロになるまで汚して、犯してから処分すれば、資金を援助してくださるって!! リリア様が王子妃の座についた暁には、筆頭侍女として召し抱えてくださるとも!!」
甲高い声がキンキンと地下室に響いたと同時に、姉妹の背後、地下室の扉から大男が三人、現れた。おそらく俺に暴行させるために雇った暴漢たちであろう――その見覚えのある面々に、戦慄する。
「久しぶりだな、あの時のΩの小僧」
ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべて現れた彼らは、メイナードと出会ったあの日……路地裏で俺を襲おうとしたあの暴漢たちだった。
―――――
細い足首を掴まれ、無理矢理に脚を開かされる。
三人の大男――おそらくα――に抑えつけられては、Ωの細腕ではどれだけ抵抗しても逃れることなど出来ない。
「やめろ、やめっ……離せって!!」
「うるせぇ、黙ってろ!!」
ガン、とこめかみのあたりを強く殴られて、脳みそが揺さぶられるようにぐわんぐわんと衝撃が響く。
胸ぐらを掴まれ、胸元から服を引き裂かれて、恐怖で頭の中が真っ白になった。
「こいつの貞操帯外して、首筋噛んでやろうぜ、そうすればおとなしくなるだろ」
一人が提案すると、二人はニヤリと笑って、俺の首に手をかけた。
鍵はメイナードに預けてあり、男達に貞操帯を外すことは不可能……そう思っていたのに、男達は針金を取り出すと、鍵穴に差し込み強引にこじ開けてしまった。
「ッ……!!」
貞操帯を取り払われ、あらわになった真白いうなじを気持ちの悪いねっとりとした手つきで撫でられる。ぞわぞわと鳥肌が立ち、額に脂汗が滲んだ。
「やめ、やめてくれ……」
消え入りそうな声で、涙を瞳に浮かべて懇願するシェリルを、暴漢達はむしろ楽しそうに見下ろし、舌なめずりをする。
「まっさらだ、傷一つねぇ。二ヶ月も一緒に居て、あの王子噛まなかったのか。甲斐性が無いんだな」
あざ笑うようなその声音に、俺はメイナードを馬鹿にされたことが悔しくて悔しくて、ギリ、と歯を食いしばった。
(……違う、メイナードは、俺のことを尊重して……大切にしていたから、噛まなかったんだ。見境無く強姦するようなお前ら犯罪者の尺度で踏みにじるな)
反抗的な目で睨み付ければ、今度は反対のこめかみを殴られ、視界がぐらつく。
「なんだその目は? Ωはおとなしくα様に従っていろ!! ……まぁ、今に抵抗できなくなるさ。知ってるか? αに首筋噛まれるの、すごい“イイ”んだってよ」
「特に番契約なんか、一生に一度しか体験できないのがもったいないくらいに気持ちいいらしいぜ」
「抵抗してられるのも今のうちだ、すぐにメスにしてやる」
うなじを隠せないように、体中を抑えつけられる。男の顔が迫ってきて、生ぬるい吐息が首筋に触れ、もう駄目だと絶望した……その時だった。
――廊下から響き渡る無数の足音、地下室のドアが蹴破られ、流れ込むように騎士達が入ってきたのは。
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……愛しいメイナードの声が聞こえる。蒼白になる子爵家姉妹、舌打ちをして俺を離し、両手を挙げる暴漢達。
それらを次々と拘束していく騎士達集団をかき分けて、メイナードは現れた。よほど走り回ってくれたのか、肩で荒い息をしている。
「殿下、助けに、来てくれたんですね……」
衣服を乱され、縄で拘束され、ボロボロになった俺の姿を目にした途端……メイナードは深く傷ついたようなひどい血相になり。
「――シェリル!!」
次の瞬間、駆け寄ってきた彼の腕に深く掻き抱かれ、こみ上げてくる安堵に俺はぽろぽろと涙をこぼしてしまった。
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