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02 薔薇の庭にて
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中庭の我が家自慢の薔薇園は、美しく盛りを迎えているのに、アーサー殿下と一緒だと、色あせて見えるのは何故だろう。
ああ、この方の婚約者という立場が、自分は心の底から嫌なのだ。
改めて私は自覚してしまった。
文武両道、歌舞音曲にも優れ、完璧な王太子と言われるアーサー殿下に対して、いつまでも言語の習得に手こずる不完全な私。外国語だけじゃない。歴史も地理も、机にかじりつくお勉強は全部苦手だ。
見た目はノエリアを初めとした侍女達の努力もあって磨かれて、アーサー殿下の隣に並んでも見劣りしない程度には整っているけれど、エヴァンジェリン様のようなスタイルも容姿も抜群の女性と並ぶと、一段見劣りするだろうという容姿だ。
私の持って生まれた髪色は平凡な茶色で、緑の瞳は珍しいから気に入っているけれど、やはり、殿下やお母様のような金髪は羨ましいと感じてしまう。
(そう言えば、ノーランド侯爵夫人も金髪だった……)
純粋な金髪の殿下に対して、北方の血を祖先に持つというノーランド侯爵夫人エヴァンジェリン様の髪は、遠目にもよく目立つ白金髪である。
お人形のように整った彼女の綺麗な容貌を思い浮かべると、心がちりちりとした。
私の部屋から中庭に移動した私たちだったが、私は日傘をさしてアーサー殿下の数歩後ろをついて行く。
この国の淑女は、男性の三歩後ろからついて行くのが良いとされているので、その慣習に従って。
我が家の薔薇園は、先代の侯爵夫人であるお祖母様の趣味で、近隣諸国からかき集めた様々な品種が咲き誇っている。
最近人気の我が国で品種改良されたアルビオン・ローズだけでなく、オールド・ローズや歴史的に貴重な古品種まで、赤、白、ピンク、黄色、様々な花がいっせいに咲き誇る様は、我が家の自慢であり本当に美しい。
アーサー殿下が、薔薇の手入れをする庭師に話しかけ、ピンクの薔薇を手折らせた。
棘を処理してもらったそれを受け取り、私に近付くと、ハーフアップにまとめあげた髪に、ヘアスティックのように挿してくれた。
「メルの銅貨のような髪には、ピンクが良く似合うね」
――銅貨。
金貨よりも銀貨よりも落ちるもの。
スマートに花を送ってくれたこと自体は嬉しいのに、ほんのちょっとした言葉に傷付く卑屈な自分が自分で惨めだった。
どうして私が選ばれてしまったんだろう。
私は、アーサー殿下に初めてお会いした子供の頃のお茶会に思いを馳せた。
その日、王宮で開かれたお茶会は、アーサー殿下の八歳になる誕生日を祝うものとして、主だった高位貴族の子供達が招かれていた。
お茶会の舞台は、王妃殿下自慢のアウター・ルーム――生け垣で作られた庭園だった。
美しく刈り込まれた円形の生け垣が緑の部屋を形造り、芝生の床の上に設えらてたティーテーブルで、たくさんの子供たちとその親が思い思いにお茶を楽しんでいた。
「このお茶会は、アーサー殿下のご学友と婚約者候補を決めるためのものなんだよ」
「殿下に拝謁して、お妃様になりたいと思ったら、メルも頑張ってみなさいね」
そう両親から言われて、気合を入れて望んだお茶会だった。
初めて目にした王子様は、本当に綺麗な男の子だった。
今は男性らしい精悍さが増してきたアーサー殿下だが、当時は男女の性差はあまりなく、ドレスを着たらさぞかし似合いそうな、女の子のような容姿の少年だった。
アーサー殿下ってとっても素敵。
今日頑張れば、私、この人のお妃さまになれるんだ!
私は心が沸き立った。
しかし、結果は散々なものだった。
「よく来てくれましたね、リグニエット侯爵令嬢」
「は、はいっ! あの、こ、これ、この……」
「プレゼントですか? ありがとうございます」
あまりの殿下の眩しい笑顔に緊張して、事前にお母様と練習した挨拶の口上など頭からすっ飛び、噛みながらプレゼントを渡して終わってしまったのである。
アーサー殿下より私の方が一つ年上なのに、なんとも情けない結果である。
その後、何とか挽回するため殿下に話しかけようとはしてみたものの、殿下の周りは常に学友と婚約者希望の子供たちが集り、たえず誰かしらが話しかけていたため、その日は何も出来ずに終わってしまった。
そして帰宅後、まともにご挨拶が出来なかったことをお母様に叱られた。
それなのにその数日後、何故か婚約者に内定したと両親から告げられたのだから、誰もが思った事だろう。
一体なぜ。
理由については、後からご本人から直接お聞きした。
派閥のバランスやら政治的立場なとを考慮し、選ばれた令嬢の中で、私が一番大人しそうで扱いやすそうだったから、だそうだ。
今にして思えば、あのお茶会の時、よその子なんて押しのける勢いで、殿下の元に行っておけば良かったのだ。
婚約者のお話が来て喜んだのなんて一瞬だった。
その三日後には、王宮から何人もの家庭教師が送り込まれて、王太子妃教育が始まったからね。
物覚えが悪く、頭もさして良くない私にとっては地獄の日々の始まりである。
せめて殿下が顔と同じように性格も優しければ良かったのだけど、微妙に意地悪だ。
言葉の端々に棘があるというか。
自分がなまじ優秀なものだから、出来ないものの気持ちがわからなくて、劣等感にこちらは押しつぶされそうになる。
だけど、婚約者として蔑ろにされている訳ではなくて、毎週の交流も、細々とした贈り物も欠かさず送ってくださるから、私は殿下を嫌いきれないでいる。
せめて、私がもう少し優秀だったら、こんな風に思わなくても済んだのかな……?
「考え事とは余裕だね、メル」
殿下の言葉にはっと私は現実に返った。
蔓薔薇のアーチで作られた、薔薇のトンネルを抜けた先、ガゼボで私はアーサー殿下とお茶をしていた。
「申し訳ありません。昔のことを思い出しておりました」
ガゼボのテーブルには、香り高い紅茶と、焼き菓子が用意されている。準備をしたのはノエリアで、彼女は私の付き添いとして、ガゼボの傍に影のように控えていた。
私は誤魔化すようにティーカップを手に取ると、紅茶を一口含む。
紅茶の主な産地は東方のムガリテ王国。この茶葉はニルギリだろうか。
利き茶なんて遊びを初めに考え出した人間が呪わしい。そのせいで、純粋にお茶を楽しむこともできやしない。
利き茶は、令嬢達のお茶会で、時折開かれる趣向となっていた。
茶葉の種類や産地を大きく外すと恥をかくため、私にはつい茶葉を分析する癖がついていた。
私が何かやらかすと、リグニエット侯爵家だけじゃなくて、殿下の汚点にもなってしまう。
外は戦場だ。
未来の王太子妃の座なんて射止めてしまった為、常に私には妬み嫉みが向けられている。
どうにかして足元をすくってやろうという、意地の悪い目もあるため、隙を見せる訳にはいかなかった。
「……昔のことって?」
突っ込んで聞かれると思わなかったので、私は目をぱちくりさせた。
「殿下と、初めてお会いした時のことです」
「八歳の私の誕生日の時かな? あの時のメルの事はよく覚えてるよ。随分と緊張していて、まるで怯える子猫のようだった」
「よく覚えていらっしゃいますね」
「そりゃ、あのお茶会がきっかけで、君を婚約者に決めたしね」
アーサー殿下は懐かしそうに目を細めた。
「そうだ。あのお茶会もこれくらいの季節だったね」
「はい」
「だけど、私といるのに、私の事とはいえ過去の事を考えていたのは不快だな。そんな悪い子には、お仕置をしないとね」
そう言ってアーサー殿下は、傍に控えるノエリアに目配せをした。
ノエリアがくるりと後ろを向くのを確認すると、殿下は席を移動し、私の座るベンチの隣に腰掛けて身を寄せてくる。
ふわりと甘苦いベルガモットの匂いがした。
最近殿下が好んで使っている香水の匂いだ。
私の顎が殿下の手に捉えられ、かすかに上を向かされた。
秀麗な顔が近付いてきて、私の唇に、殿下のそれが重なってくる。
それは、柔らかくて少しかさついていた。
私の唇を、殿下の舌が舐めてきた。
間をこじ開けるように、中に入れろと言われている。
うっすらと唇を開けると、その舌は我が物顔で口の中に入ってきた。
歯列をなぞり、奥に入り込み、私の舌を追いかけて、絡めて、吸い付いてくる。
何かと理由を付けての口付けが始まったのはいつからだろう。
あれは殿下が十二歳、閨の教育が始まったと聞かされた時だっただろうか。
「男女は子作りをする時、口付けをして愛を確かめ合うらしいんだ。メルは私の婚約者だろう? いずれそういう事をするようになるのだから、口付けを試してみたいんだけど、いいかな?」
確かそのような事を言われて、承知したのが始まりだった気がする。
最初はただ唇が触れ合うだけの、可愛らしいものだったはずなのに。
いつしか深いものに代わり、殿下は時折私を貪る。
いずれ手に入る予定の身近な女だから、これくらいは許されると思っていらっしゃるからこんな事をしてくるのかしら。
粘膜同士を触れ合わせる深い口付けは苦手だ。
もっと深い、いずれ行う性的な接触を連想させて、体が熱くなってくるから。
きつく吸い上げられ、苦しさに私は殿下の肩を押した。
しかし殿下は私の抵抗など無視し、口付けながら、私の胸をまさぐってくる。
布製のコルセット越しに乳首を弄ばれ、むず痒いような快感が背筋を走った。
少しづつエスカレートする殿下の悪戯に、生理的な涙が滲む。
えへんえへんとノエリアが咳払いをするのが聞こえた。
これ以上は目こぼししないぞと訴えているのだ。
ようやく唇が開放され、胸への悪戯も終わった。
「これに懲りたら、もう私がいる時に他のことを考えてはだめだよ」
「はい」
囁きに私は頷く。
どこからか、コマドリの鳴き声が聞こえてきた。
ああ、この方の婚約者という立場が、自分は心の底から嫌なのだ。
改めて私は自覚してしまった。
文武両道、歌舞音曲にも優れ、完璧な王太子と言われるアーサー殿下に対して、いつまでも言語の習得に手こずる不完全な私。外国語だけじゃない。歴史も地理も、机にかじりつくお勉強は全部苦手だ。
見た目はノエリアを初めとした侍女達の努力もあって磨かれて、アーサー殿下の隣に並んでも見劣りしない程度には整っているけれど、エヴァンジェリン様のようなスタイルも容姿も抜群の女性と並ぶと、一段見劣りするだろうという容姿だ。
私の持って生まれた髪色は平凡な茶色で、緑の瞳は珍しいから気に入っているけれど、やはり、殿下やお母様のような金髪は羨ましいと感じてしまう。
(そう言えば、ノーランド侯爵夫人も金髪だった……)
純粋な金髪の殿下に対して、北方の血を祖先に持つというノーランド侯爵夫人エヴァンジェリン様の髪は、遠目にもよく目立つ白金髪である。
お人形のように整った彼女の綺麗な容貌を思い浮かべると、心がちりちりとした。
私の部屋から中庭に移動した私たちだったが、私は日傘をさしてアーサー殿下の数歩後ろをついて行く。
この国の淑女は、男性の三歩後ろからついて行くのが良いとされているので、その慣習に従って。
我が家の薔薇園は、先代の侯爵夫人であるお祖母様の趣味で、近隣諸国からかき集めた様々な品種が咲き誇っている。
最近人気の我が国で品種改良されたアルビオン・ローズだけでなく、オールド・ローズや歴史的に貴重な古品種まで、赤、白、ピンク、黄色、様々な花がいっせいに咲き誇る様は、我が家の自慢であり本当に美しい。
アーサー殿下が、薔薇の手入れをする庭師に話しかけ、ピンクの薔薇を手折らせた。
棘を処理してもらったそれを受け取り、私に近付くと、ハーフアップにまとめあげた髪に、ヘアスティックのように挿してくれた。
「メルの銅貨のような髪には、ピンクが良く似合うね」
――銅貨。
金貨よりも銀貨よりも落ちるもの。
スマートに花を送ってくれたこと自体は嬉しいのに、ほんのちょっとした言葉に傷付く卑屈な自分が自分で惨めだった。
どうして私が選ばれてしまったんだろう。
私は、アーサー殿下に初めてお会いした子供の頃のお茶会に思いを馳せた。
その日、王宮で開かれたお茶会は、アーサー殿下の八歳になる誕生日を祝うものとして、主だった高位貴族の子供達が招かれていた。
お茶会の舞台は、王妃殿下自慢のアウター・ルーム――生け垣で作られた庭園だった。
美しく刈り込まれた円形の生け垣が緑の部屋を形造り、芝生の床の上に設えらてたティーテーブルで、たくさんの子供たちとその親が思い思いにお茶を楽しんでいた。
「このお茶会は、アーサー殿下のご学友と婚約者候補を決めるためのものなんだよ」
「殿下に拝謁して、お妃様になりたいと思ったら、メルも頑張ってみなさいね」
そう両親から言われて、気合を入れて望んだお茶会だった。
初めて目にした王子様は、本当に綺麗な男の子だった。
今は男性らしい精悍さが増してきたアーサー殿下だが、当時は男女の性差はあまりなく、ドレスを着たらさぞかし似合いそうな、女の子のような容姿の少年だった。
アーサー殿下ってとっても素敵。
今日頑張れば、私、この人のお妃さまになれるんだ!
私は心が沸き立った。
しかし、結果は散々なものだった。
「よく来てくれましたね、リグニエット侯爵令嬢」
「は、はいっ! あの、こ、これ、この……」
「プレゼントですか? ありがとうございます」
あまりの殿下の眩しい笑顔に緊張して、事前にお母様と練習した挨拶の口上など頭からすっ飛び、噛みながらプレゼントを渡して終わってしまったのである。
アーサー殿下より私の方が一つ年上なのに、なんとも情けない結果である。
その後、何とか挽回するため殿下に話しかけようとはしてみたものの、殿下の周りは常に学友と婚約者希望の子供たちが集り、たえず誰かしらが話しかけていたため、その日は何も出来ずに終わってしまった。
そして帰宅後、まともにご挨拶が出来なかったことをお母様に叱られた。
それなのにその数日後、何故か婚約者に内定したと両親から告げられたのだから、誰もが思った事だろう。
一体なぜ。
理由については、後からご本人から直接お聞きした。
派閥のバランスやら政治的立場なとを考慮し、選ばれた令嬢の中で、私が一番大人しそうで扱いやすそうだったから、だそうだ。
今にして思えば、あのお茶会の時、よその子なんて押しのける勢いで、殿下の元に行っておけば良かったのだ。
婚約者のお話が来て喜んだのなんて一瞬だった。
その三日後には、王宮から何人もの家庭教師が送り込まれて、王太子妃教育が始まったからね。
物覚えが悪く、頭もさして良くない私にとっては地獄の日々の始まりである。
せめて殿下が顔と同じように性格も優しければ良かったのだけど、微妙に意地悪だ。
言葉の端々に棘があるというか。
自分がなまじ優秀なものだから、出来ないものの気持ちがわからなくて、劣等感にこちらは押しつぶされそうになる。
だけど、婚約者として蔑ろにされている訳ではなくて、毎週の交流も、細々とした贈り物も欠かさず送ってくださるから、私は殿下を嫌いきれないでいる。
せめて、私がもう少し優秀だったら、こんな風に思わなくても済んだのかな……?
「考え事とは余裕だね、メル」
殿下の言葉にはっと私は現実に返った。
蔓薔薇のアーチで作られた、薔薇のトンネルを抜けた先、ガゼボで私はアーサー殿下とお茶をしていた。
「申し訳ありません。昔のことを思い出しておりました」
ガゼボのテーブルには、香り高い紅茶と、焼き菓子が用意されている。準備をしたのはノエリアで、彼女は私の付き添いとして、ガゼボの傍に影のように控えていた。
私は誤魔化すようにティーカップを手に取ると、紅茶を一口含む。
紅茶の主な産地は東方のムガリテ王国。この茶葉はニルギリだろうか。
利き茶なんて遊びを初めに考え出した人間が呪わしい。そのせいで、純粋にお茶を楽しむこともできやしない。
利き茶は、令嬢達のお茶会で、時折開かれる趣向となっていた。
茶葉の種類や産地を大きく外すと恥をかくため、私にはつい茶葉を分析する癖がついていた。
私が何かやらかすと、リグニエット侯爵家だけじゃなくて、殿下の汚点にもなってしまう。
外は戦場だ。
未来の王太子妃の座なんて射止めてしまった為、常に私には妬み嫉みが向けられている。
どうにかして足元をすくってやろうという、意地の悪い目もあるため、隙を見せる訳にはいかなかった。
「……昔のことって?」
突っ込んで聞かれると思わなかったので、私は目をぱちくりさせた。
「殿下と、初めてお会いした時のことです」
「八歳の私の誕生日の時かな? あの時のメルの事はよく覚えてるよ。随分と緊張していて、まるで怯える子猫のようだった」
「よく覚えていらっしゃいますね」
「そりゃ、あのお茶会がきっかけで、君を婚約者に決めたしね」
アーサー殿下は懐かしそうに目を細めた。
「そうだ。あのお茶会もこれくらいの季節だったね」
「はい」
「だけど、私といるのに、私の事とはいえ過去の事を考えていたのは不快だな。そんな悪い子には、お仕置をしないとね」
そう言ってアーサー殿下は、傍に控えるノエリアに目配せをした。
ノエリアがくるりと後ろを向くのを確認すると、殿下は席を移動し、私の座るベンチの隣に腰掛けて身を寄せてくる。
ふわりと甘苦いベルガモットの匂いがした。
最近殿下が好んで使っている香水の匂いだ。
私の顎が殿下の手に捉えられ、かすかに上を向かされた。
秀麗な顔が近付いてきて、私の唇に、殿下のそれが重なってくる。
それは、柔らかくて少しかさついていた。
私の唇を、殿下の舌が舐めてきた。
間をこじ開けるように、中に入れろと言われている。
うっすらと唇を開けると、その舌は我が物顔で口の中に入ってきた。
歯列をなぞり、奥に入り込み、私の舌を追いかけて、絡めて、吸い付いてくる。
何かと理由を付けての口付けが始まったのはいつからだろう。
あれは殿下が十二歳、閨の教育が始まったと聞かされた時だっただろうか。
「男女は子作りをする時、口付けをして愛を確かめ合うらしいんだ。メルは私の婚約者だろう? いずれそういう事をするようになるのだから、口付けを試してみたいんだけど、いいかな?」
確かそのような事を言われて、承知したのが始まりだった気がする。
最初はただ唇が触れ合うだけの、可愛らしいものだったはずなのに。
いつしか深いものに代わり、殿下は時折私を貪る。
いずれ手に入る予定の身近な女だから、これくらいは許されると思っていらっしゃるからこんな事をしてくるのかしら。
粘膜同士を触れ合わせる深い口付けは苦手だ。
もっと深い、いずれ行う性的な接触を連想させて、体が熱くなってくるから。
きつく吸い上げられ、苦しさに私は殿下の肩を押した。
しかし殿下は私の抵抗など無視し、口付けながら、私の胸をまさぐってくる。
布製のコルセット越しに乳首を弄ばれ、むず痒いような快感が背筋を走った。
少しづつエスカレートする殿下の悪戯に、生理的な涙が滲む。
えへんえへんとノエリアが咳払いをするのが聞こえた。
これ以上は目こぼししないぞと訴えているのだ。
ようやく唇が開放され、胸への悪戯も終わった。
「これに懲りたら、もう私がいる時に他のことを考えてはだめだよ」
「はい」
囁きに私は頷く。
どこからか、コマドリの鳴き声が聞こえてきた。
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