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Chapter Ⅳ:Stealth

No42.Preparation behind the scenes

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 午前中で乾いた喉を潤した俺達は、カラオケに向かっていた。また喉を乾かしにいくのだ。とにかく、今は現実逃避が最重要事項。また静まった嵐が動き出すかもしれないから。

 「ん?あれって……。」

 「姉がいないのは珍しいな。」

 移動中、俺達が発見したのはMythology最年少の夜空だ。それと多分同級生?が居た。
 仕事関係者がプライベートで他の人と居るときに話しかけるのも悪いので、俺達は気にせず通過した。







 計画は順調に進んでいる。貴井のお陰でとても捗っている。その上、彼は一切の痕跡も残さないため、怪しまれる心配すらない。

 「情報は大体抜いた。他にやってほしい事は?…折角やるなら、最大の絶望を与える方が良い。」

 確かにそうだ。そもそも、今回暗殺対象は明確でない。ただ、された仕打ちをそのまま返すだけだ。そのついでに政府への牽制になれば良い。

 「凄腕ハッカーなら簡単だろ?これくらいは……」

 そう言って、俺は頼みの内容を貴井に話した。




 「勿論簡単だ。……こだわって恐怖に陥れる。」

 「任せた。俺はちょっくら矢匿のとこへ行く。詳しくは聞いてないが、なんかあっちもやっている様子だ。」

 「日付が近いなら二次災害に出来るからな。撫戯はワイヤーの配置さえ考えておけば当日が担当だし。」

 「じゃ、行ってくるわ。」

 そう言って俺は株式会社ポピュラーラブ・スイートフラグへ向かった。







 最近、内通者との連絡が途絶えている。不審に思った私はもう一人の内通者に話を伺うが、忙しいのか反応が無い。
 ただ、活動経歴はある。片方は確実に消されているが、もう一人は様子がおかしい。

 「はは…まさかな……。」

 私はサイレンスの全ての情報が入ったサーバーの履歴を確認した。すると、衝撃の文言が確認できた。

 「……この番号は。」

 ハッキングが成功した痕跡は一切残っていない。しかし、暗号に誰かが触れた形跡は残っていた。それ自体が痕跡だ。
 何故なら、暗号を解く段階にいくまでに厳しい難所がいくつもある。しかも、ウイルスが検知された瞬間に、逆探知する優れたシステムだ。
 それらが一切の反応を示さずにこの暗号に触れられるはずが無い。暗号が解かれた形跡は無いが、この様子だと中身を見られただろう。

 「やはり……。」

 直近にサーバーにアクセスした端末履歴を見ると、型番が内通者と一致した。
 内通者のフリをしたハッカー。それまでの情報も当たったが、一番重要な所は伏せられていた。そしてこの実力……。
 
 「Leviathanの追跡と特徴が一致。向こうも内通者か……。」

 司令も大変な立場だ。立ち回り、所属暗殺者のケア、そして“経営戦”と重大な柱だ。更に押し付けるだけ押し付けておいて全くメディアに現す気の無い政治家の旧友も居る。
 私の選択次第では日本が終わりかねない。誰が正しくて、誰が何をしたいのか、全く読めないのだ。
 ひとまず、追跡には悟られないように接すべきだ。







 「撫戯か。そっちは順調か?」
 
 俺は会社に訪れ、矢匿に計画の説明をした。

 「承知した。」

 「そっちはどうよ?」

 「全て管理するのは相当な労力だ。だが……どうやらいい餌がかなり釣れる。暗殺者だろうが、防護関係職者だろうが、プライベートでの奇襲には無力だ。そして順当にいけば、Mythologyの一人を消せる。甘採はやはり仕事人だ。」







 数日前。ある女子高校生がバイトに向かっていると、ある男に声を掛けられた。

 「すみませんお嬢さん。駅ってどこですか?田舎もので……。」

 「案内しますよ!丁度通るので。」

 女性は男を駅に案内した。




 「ありがとうございます。ん?あの広告……。」

 「あ、そうなんですよ!私あのメイド喫茶で一番売り上げいいんです!」

 女性は広告を指差して胸を張ってそう言った。

 「そうなんですかー!凄いですね。僕ホストやってるんですが、落ちこぼれなんですよー。」

 勿論嘘だ。でなきゃ情報なんて入ってこない。

 「でも私は満足出来てないんですよ。私…す、好きな人が居るんですけど……誘えなくて…。でも、そういう店入る人じゃなくて……。」

 「貴方なら大丈夫ですよ!きっと“可愛い”貴方なら振り向かせられます!」

 「は、はい!頑張ってみます!あ、時間だ…。それでは失礼します。」

 そう言って女性は広告の下の店に走って行った。







 「あいつが隠し録音したものを聴いたが、普段と全然雰囲気が違った。」

 滲襲先輩の演技力は凄まじいと聞いていたが、納得だ。音声を聴いて驚愕した。

 「やっぱLeviathanってやべぇ。」

 「お前も相当だがな?」

 甘い声と色々なシチュエーションで簡単に言い包める滲襲先輩。高い技術力で対象を底まで追跡する貴井。狡猾で見えない悪魔矢匿。
 Leviathanが凶悪である理由がはっきりと分かった。
 俺はこいつらの仲間。つまり俺ま凶悪だ。過去の事は閉すと決めたが、この時ばかりは正気を保っていられた。

 「で、結局滲襲先輩がその人に近づいた理由はなんだ?思いつきでは無いんだろ?」

 「まぁな。それが Mythologyを刈り取れる理由に直結している。」






 話を聞いて分かった。…これは非常に面白い事になる。

 「互いに暴れんぞ。」

 「だな。頑張れよ。Leviathanの由来は知っているな?」

 「当然だ。……報復の心…“嫉妬”。」

 プレデスタンスに入れたのは黒薔薇さんと面識があったからだ。つまり、彼らは俺の素性を知っている。
 これは単なるテロじゃない。俺の心の現れだ。
 
 

 
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