上 下
41 / 150
Chapter Ⅳ:Stealth

No41.Calculated sweetness

しおりを挟む
 『ん?まぁ了承はするけど、僕と八は協力できないよ?』

 俺は貴井と行うジャックに向けて、滲襲先輩に連絡していた。

 「え?何故ですか!」

 『こっちもちょっと面白い事思いついてな……。どうせなら別々で掻き回してやろう。それに……戦力を分散させられる事は良い事だ。健闘を祈るよ。』

 すると、通話が切られた。
 確かにそうだ。先輩方が何をやるかは知らないが、面倒な連中が集結するのだけは避けるべき。
 滲襲先輩の統率力と矢匿の戦略性が合わされば、誰も手出しできない。
 とにかく、俺はライブジャックの事を考えよう。まだ一週間準備期間がある。
慎重に立ち回らせてもらう。







 僕が通話を切ると、入れ替わりで八が帰って来た。

 「どうだった?」

 「余裕で買収したった。これで内部から壊し放題だぞ。」

 「流石だ。」

 僕らの企みはシンプルかつ効果絶大な暗殺劇だ。







 「失礼します。」

 ある会社に八が訪れると、周りにいた社員は一斉に土下座した。

 「ど、どうか…命だけは!」

 「何いってんの……。」

 社員の中でもそれなりに上に居そうな奴がそう言うと、八は呆れた視線を社員達に落とした。

 「社長呼べる?滲襲甘採からの紹介だ。」

 「は、はいぃ…!」

 恐れた様子の社員が、足早にエレベーターへと向かった。
 Leviathan。それは人前にほとんど姿を現さない怪談のような存在だが、見れば分かる。逆らったら命は無い……と。

 「お呼びしましたぁ……。」

 どうやら社長のお出ましのようだ。

 「私がこの「株式会社ポピュラーラブ・スイートフラグ」の最高責任者。
田村と申します。」

 「お会いできて光栄です。私は「抵抗推進機構プレデスタンス」所属の戦略部総監督。Leviathanの矢匿と申します。」

 営業モードの八は、普段のラフさからは考えられないほどの敬語で挨拶を済ました。

 「本日はどのようなご要件で…?」

 「単刀直入に言います。ここを買収します。勿論ですが、貴方達が拒否すれば過去の過ちを掘り返します。」

 営業モードから一変、普段の悪魔と化した八の言葉の銃弾がその場にいる者を襲った。

 「……ちなみに理由を聞いても…」

 「関係の無い話だ。どうせ金さえあればそれでいいんじゃないの?だからあの過ちを冒した。……違うかな?」

 田村を黙らせるにはオーバーキルな冷酷な言葉が刺さり、八は大金をばら撒いた。

 「経営は全て俺が行う。他の連中は出社するな。それだけで普段の倍の収入を差し上げよう。……いいな?」

 やり過ぎな位のしかかる圧力に誰も異議を唱える事が出来ず、半ば強引に買収契約が成立した。
 八は恐怖でうずくまる田中に目線を合わせて口を開いた。

 「ここの系列で一番影響力のある店はどこだ?」

 「………千葉市の出張店舗です。常設はしていませんが、各地を回っています。」

 「分かった。感謝する。」

 去り際に札束を押し付けて、八は会社を去って行った。







 株式会社ポピュラーラブ・スイートフラグ。メイド喫茶やホストクラブなどの経営をサポートする日本最大級のエンターテイメント会社だ。
 そこを買収して行う事は僕がこれまでに使ってきた暗殺方法の大規模版みたいなものだ。
 
 「手始めに全系列店舗にバッチを導入させて。それにGPSと爆弾を埋め込み、釣れた政府関係者を爆破。ただ、店員も道連れだから誤爆しないように見張らせておいて。」

 「甘採はどうする気だ?」

 「僕は偵察をしつつ、これまでどうり関東の社会情勢を聞き出す。八は系列店舗の管理と映人らの戦況も気にかけておいて。」

 「分かった。」

 僕と八はハイタッチをして、それぞれの担当に移った。







 種田と対談し、より自分に対しての謎が深まった俺は、気晴らしに旋梨と愁とボーリングに来ていた。
 愁は出身が東京じゃないため任務以外で会う機会が少ないが、Mythologyの同年齢組としてプライベートでも仲良くしている。

 「くぅ!全然ストライク決まらねぇ!」

 そう悶絶しながら楽しむ旋梨の横でどんどん点が加算されていく愁。
 俺は少し休憩しているが、見てるだけで面白い。現在、コーヒー代を賭けて勝負しているのだが、もう確定演出が降りきっている。

 「次、スペア出したら紫藤の勝ちでいい。」

 「マジ?じゃ、本気だすかぁ!」

 心の中で最初から本気出せよと思ったのは、恐らく愁もだろう。
 無口だが、勝負事には命賭けてる愁がこのチャンスを与えるなんて、どれだけ旋梨が下手なんだ。いや、愁が上手いだけである。
 
 「いっけぇ!」

 しかし結果は虚しく、スペアどころかストライクすらいかなかった。
 表情すらあまり変化しない愁が苦笑いしている。あの威勢は何だったんだと。

 「フラペチーノでお願い。」

 「あ、俺はカフェラテで。」

 「ちゃっかり便乗すんな!勝負を引き受けなかった歪は自腹だわ!」

 作戦失敗である。こいつチョロいからワンちゃんと思ったが、流石に通用しないか。
 とりあえず、俺達はコーヒー店に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】星の海、月の船

BIRD
キャラ文芸
核戦争で人が住めなくなった地球。 人類は箱舟計画により、様々な植物や生物と共に7つのスペースコロニーに移住して生き残った。 宇宙飛行士の青年トオヤは、月の地下で発見された謎の遺跡調査の依頼を受ける。 遺跡の奥には1人の少年が眠る生命維持カプセルがあった。 何かに導かれるようにトオヤがカプセルに触れると、少年は目覚める。 それはトオヤにとって、長い旅の始まりでもあった。 宇宙飛行士の青年と異星人の少年が旅する物語、様々な文明の異星での冒険譚です。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】龍神の生贄

高瀬船
キャラ文芸
何の能力も持たない湖里 緋色(こさと ひいろ)は、まるで存在しない者、里の恥だと言われ過ごして来た。 里に住む者は皆、不思議な力「霊力」を持って生まれる。 緋色は里で唯一霊力を持たない人間。 「名無し」と呼ばれ蔑まれ、嘲りを受ける毎日だった。 だが、ある日帝都から一人の男性が里にやって来る。 その男性はある目的があってやって来たようで…… 虐げられる事に慣れてしまった緋色は、里にやって来た男性と出会い少しずつ笑顔を取り戻して行く。 【本編完結致しました。今後は番外編を更新予定です】

後宮の調達人

弥生
キャラ文芸
「ご依頼承りました」 愛憎渦巻く後宮で、外に出る事ができない妃たちのために望む品を届ける調達人。 善き調達人とは、善く聴く耳を持ち、善く観る目を持ち、善く沈黙する口を持つ。 籠扱いの武芸に長ける大男の腕に乗りながら、小柄な調達人の紅姑娘(ホンクウニャン)は後宮で噂される様々な問題を解決していく。 時には人の望みを叶え、時には人の闇に触れ。 貴方が見ているのは、本当に真ですか? 後宮ビターミルクなライトミステリー。 ※第6回キャラ文芸大賞に参加しています。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと61隻!(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。  ●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。

処理中です...