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4章:想疎隔エレベーター

40日目.積当

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 停電事故から四日が経過した。正式な復旧作業もちらほらと完了報告が上がっており、あと一週間もすれば不安要素は排除できるだろう。
 崩落事故に関する手掛かりの整理も終わり日常に戻った俺は、本業の資料を作ったり勉強をしたりなど、仕事関係のことを進めていた。
 
 すると、スマホが鳴った。

 「メールか……夕焚じゃん。しばらく滞っていたけど、何かあったのかな?」 

 スマホを手に取り、メールの内容を読み上げた。

 『定期連絡が遅れてすみませんでした。ですが、それに見合った情報を得てきました。今日の午後から野村さんと話し合いの時間を設けたいのですが、よろしいですか?』

 「分かった」とだけ返して、俺はスマホを置いた。







 この前の反省を生かして夕焚の運転を断って、俺は自分の手でハンドルを握って野村さんの探偵事務所があるビルに向かった。

 「やっぱり自分の運転が一番安心できるなぁ。」

 「安全運転通り越して亀でしたが……」

 「事故るよりはいいでしょ。雨が弱いとはいっても、予兆なしにあれは襲ってくる。油断大敵だ。」

 帰郷後、呪花絡みの事故は四回経験したが、気付いた時にはもう夢堕ち済みだ。警戒を解ける瞬間の方が少ない。
 ひとまず雨に打たれながら外で話しても仕方がないので、建物の中に入った。



 「やぁ風波君、早瀬君。いきなり呼び出してごめんね。」

 室内に入ると、既にお茶菓子を用意して野村さんは座っていた。

 「大丈夫ですよ。……俺の進捗は伝わっていますか?」

 「勿論、サイキッカーならそのくらいお見通しだよ。トラブル体質の件は、もう一人で解決できそうだね。」

 「そうですね。あとは任せてください。」

 そう挨拶を交わすと、夕焚が早速本題に関する資料を俺と野村さんに渡した。

 「恒夢前線のことは蓮斗さんと咲淋さんが積極的に調べていたので、俺は崩落事故の前後の様子を徹底的に調査しました。」

 「ふむ……聞かせてくれ。」

 「はい。崩落事故の三日前、局所的に強い雨が降っていました。長年言われているように、土壌が想像以上に緩んでいたとみて間違いないかと……」

 夕焚の言う通り、ずっとそうだと考えられていた。しかし、それを説明する上でいくつか矛盾が生じることに俺は気が付いた。

 「……まだあの地を踏みしめてないから核心に迫る材料にはならないんだけど、一ついいか?」

 「どうぞ……。」

 「二次災害の原因はなんだ?土壌が緩んだ状態で、解体工事…ましてや再建を決行したことが不思議だ。……西城のお兄さんの頭がいっぱいで、判断をミスした。そんなことがあり得るのかな?」

 「……実は、当時の設計図を入手しています。確認しますか?」

 「ああ。」

 持参していたノートパソコンを開いて、夕焚から渡されたUSBを挿し込んだ。



 三十分程度、設計図の意図を隅々まで読み取った。

 「……よくできてる。なおさら原因が分からないな…。」

 一人そう呟き、俺は頭を抱えた。二次災害での崩れ方さえ分かれば、痕跡が少ない一回目で起きたことにある程度予想がつくはず。 
 そうこうしていると、別件で話し合いをしていた夕焚と野村さんが戻ってきた。

 「どうでしたか……?」

 「本当によく出来ているよ、この設計図。地形との相性が良すぎる。例えるならピサの斜塔だ。……でもだからこそ、地形が大きく崩れたことは揺るぎない事実なのに…。」

 「その痕跡が見つかっていない……と。」

 少し土壌が緩んだ程度で崩れる建造物でないことは確かだ。未完成ということを抜きにしても、記された手順は合法的だ。
 最大の矛盾点は雨だけでこいつを崩せるのかというだ。正直、あの日見た倒壊の光景はそんなゆったりとしたものじゃ無かった。
 まるで爆発でもしたかのように、何の前触れもなく、だ。

 「…やっぱり見聞だけじゃ限界がある……現地調査がしたい。…分かってる、まだそれに挑むには準備が足りなさすぎることくらいは……。」

 「早瀬君は帰郷の直後から、何も進んでいないと思うのかい?」

 すると、野村さんがそう問いかけてきた。

 「…最初は本当に右も左も分からなかった。だけど、今なら完璧じゃないにしろ分かる。何を調べればいいのかも。」

 「なら大丈夫だ。あとは当たれ。私も風波君も、これまで何度も当たってはあーでもないこーでもないと矛盾が生じてきた。その度に仮説が否定され、また考え直すために情報を凝視していたよ。いいか?砕けようとも、当たる度に情報は増えていく。情報が増えれば、自ずと正確な答えが浮き出ていくものさ。」

 「野村さん………確かにそうですね!」

 彼の言う通りだ。実際、崩落事故に関係する可能性のある情報は段々と深みを増している。
 ただ、調査を放棄した瞬間に全て停滞してしまう。そしていずれは忘れられ、歴史の中に葬られる。それだけは避けなければならない。

 その後も三時間ほど情報共有や考察の話し合いを行い、今あるものは大体出尽くした。



 「今日はこのくらいでいいでしょう……。蓮斗さんも野村さんもお疲れ様でした。」

 「風波君こそ。」

 「お二人とも、いい時間になったよ。これからもしばらくの間、共に頑張ろう。」

 「はい。…では、俺と蓮斗さんはこの辺で……」

 「おう、何か掴めたらまた来なさい。お茶を用意して待ってるからな!」

 軽く頷いた俺達は笑いかける野村さんを後にして、建物の外に出た。







 外に出ると、同じスーツの男性達が入口を取り囲んでいた。

 「借金取りですか……?野村さんなら負債ゼロのはずですが……」

 一歩後退りながらも、夕焚はスーツ達に対して屈しずそう言った。
 すると、足音が聴こえてきてスーツ達はすぐに道を空けた。

 「何だか割と久しぶりですね。先輩と夕焚。」

 聡と少し裏でその隣を歩く青空だ。

 「聡……!本日はどのような御用件ですか?こちらも急ぎなのでなるべく早くお願いします。」

 「全く、穏やかじゃないなぁ。昔からそうだ。君と僕は馬が合わない。大して急いでもいないだろ?先輩の目が全部物語ってんだよ。」

 「くっ…」

 返す言葉が見当たらず悔しがる夕焚を横目に素通りして、聡は俺の隣で立ち止まった。

 「順調そうで何よりですよ……。TCCとしても邪魔をするメリットが薄れてきた……流石です。」

 「そう思うなら、もう辞めにしないか?無駄な対立は…」

 すると聡はため息をついた。

 「はぁ……先輩は僕を何と誤認していますか。ちなみに気付いていますよ?設計図を入手したこと。どんな手段を選んだことやら…。ですが、どれだけ順調だろうとも、我々は頑なに跡地は封じますから。」

 「……知られたら困ることでもあるのか?」

 「困ること……あながち間違いではないかもですね。人は選びますが。……まぁ、知りたければせいぜい頑張ればいい。我々は推奨してないし、行く手を阻みますが。青空はお兄さんに言いたいことあるか?」

 聡は青空に目線を飛ばすが、青空は静かに首を横に振る。

 「だってさ。……また会いましょう。先輩。…行くぞ。」

 彼がそう言うと、TCCの人達は彼に続いてその場を立ち去っていった。



 「…聡はそう言っていますが、裏では邪魔しまくっていますよ。資料を黒塗りされた時は流石に頭にきました。」

 「君達は元々仲悪かったから別として、聡の言動が妙に引っかかるんだよな……」

 「絶っ対気のせいです!貴方は自分の目的に集中してください!」

 聡の言動に違和感を感じることは確かだが、夕焚は聡側を敵にしておきたいらしい。
 円滑にことを進めるためにも、適当にとりあえず夕焚に賛同しておいた。

 用事も済んだため、ひとまず俺達は車に乗って帰路に着いた。
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