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4章:想疎隔エレベーター
32日目.停止
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翌日、俺が実家の最寄り駅で待っていると、聖穂から連絡が入った。
『もうすぐ着く』と。
意味も無くスマホをいじって五分程度経つと、見覚えのある車から聖穂が降りてきたのが見えた。
「お待たせ~!って言っても予定時間十分前だけどね。」
「ギリギリより早いくらいが丁度いいでしょ。しばらくは電車待ちになるけど。…ところであのドライバーさんは?」
やはり見間違いじゃない。あの車は先日乗ったものであり、そのドライバーさんともお話しした。
するとドライバーさんも俺に気付いたのか、停車して降りてきた。
「ここでも会えるとは、縁結びの神様は実在するのでしょうね。」
「ですね。改めて、先日はありがとうございました。」
「礼はいいですよ。それよりも、聖穂さんのご友人が貴方だったことに驚きましたよ。」
どうやら、彼は聖穂のことを知っていたようだ。そりゃ送迎していたのだから当然といえば当然だが…。
「蓮君と小笠さんが面識があったことに私は困惑しているよ~。今どういう状況?」
そう会話をしていると、隣で何も知らない聖穂の頭がパンクしていた。
「先日、この方に助けてもらったんだ。聖穂の知ってる人なんだよね?」
「うん。私の仕事仲間って言うのかな。カメラマンの小笠さん。旅が趣味だから交通機関として連れてきたんだよね~。」
「聖穂さん、人を無料タクシーみたいに言うのはやめてください……」
「何か友人がすみません……。彼女と居ると少し大変でしょう?」
「大丈夫です。私含めて、もう慣れました。今となっては一緒に仕事していて楽しいですよ。ほんと、プロデューサーにそっくりです。」
プロデューサーという言葉に、俺は疑問符を浮かべた。それとスルーしていたが、彼はカメラマンだ。そして彼は聖穂と仕事で関わっている。
そういえば、東京で書店に訪れた時、様々な雑誌に“天然愛されキャラ みほ”と記載されていたのを思い出した。
多分有名人になったんだと思うけど、何で有名になったのか知らない。思いきって尋ねることにしてみた。
「今更なんだけど……聖穂はどんな仕事をしているの?」
すると二人はあからさまに「えっ…!知らないの?」というような驚きの表情を浮かべた。
「……あれ?俺何かおかしい事でも訊いた…?」
「その反応は本気で知らないようですね……。彼女、椎名聖穂はけっこう流行ったアイドルですよ?」
「・・・え?」
理解が追いつかなった俺は、確認の意味も込めて聖穂の方に顔を向けた。
「そうだよ~!知らなかったの?まぁ……蓮君らしいね。」
「え…?え…?………え?!」
現在、電車で移動中。ちなみに、小笠さんは帰り際に 「過去の収録映像全て送っておくので、“必ず”目に焼き付けて感想くださいね!」 と言っていた。どうやら、彼は聖穂のガチファンらしい。
まだ目的地に着いてすらいないのに、驚き過ぎて妙に疲れた。聖穂がアイドルだったという事実もそうだが、小笠さんの先日とのテンションの差にも……。
「どう?少しは頭の中整理された?」
ネットでの情報を参考にしつつ、俺は彼女の思い出話を聞いていた。聞けば聞くほど本人だと分かる。
「ほんとに少しね……。今日一の衝撃だったよ。」
「活躍してた時期も時期だったし、仕方がないよね。……きっと誰にも触れられたくなかったんだろうね……」
「ん?何か言った?」
「…いいえ?こっちの話。」
最後の方が聞き取れなかったが、まぁいい。調べたところ、彼女が一番輝いていた時期は俺の病み堕ち受験期から大学生活にあたる。ネットやマスメディアにほとんど触れてこなかった期間だ。
「対照的だな……」
誰にも聞こえない声でそう口に零して、俺はスマホを閉じた。
改札口を出ると、それは遠くからでも目に入った。
「あれがレトロハイマート……。初めて見たけど、凄い……!」
「だね~!私達、まだまだ地元のことを知らないね。」
レトロハイマートの第一印象は“圧巻”だった。正直、初めてスカイツリーを見た時と同等だ。
「聖穂の住んでいるところはこういう建物多いの?」
「あんまりかな…?芸能界はずっと安泰じゃないからね。適当にマンションの一室借りてるよ。」
「へぇ……ちゃんとその後のことを考えているようだね。」
「蓮君都内暮らしなんだ!……ほどほどにね?」
「はい……。」
その場のノリで質問してみたら、俺の金銭感覚が狂っていたことに気付かされた。
そんな会話をしながら、駅から出た。
「じゃあ、暗くなるまでその辺を散策しよっか。」
「そうだね!」
そうして俺達は暗くなるまでの間、街並みを楽しんだり、食事をしたりして散策を楽しんだ。
午後六時。雨雲に覆われているため直接は見えないが、日没した頃合いだ。
「やっぱり蓮君と一緒だと楽しい時間になるよ~!ありがとう!」
「どういたしまして?」
散策中、聖穂はとても楽しそうにしていた。何年経っても、彼女は変わらないようで安心した。
「地上から見る景色も良い雰囲気だったし、空からの景色も期待しちゃうな~!」
「俺もだよ。行こうか。」
今日の大本命は門司港レトロ展望室。空から見る夜景に期待を寄せつつ、俺達はエレベーターに乗った。
エレベーターが動き出し、一気に窓からの風景が下へ下へと降りていく。この時点でも綺麗な景色が広がっているため、展望室からの光景がますます楽しみになってきた。
そんな時、エレベーターに異変が起こった。
「きゃっ!」
「……!このタイミングで停電か……」
エレベーターが急停止して、照明が消えた。どうやら停電が起こったようだ。窓から見える景色からも光が失われている。大規模な停電だ。
「……聖穂、大丈夫か?」
「う…うん……。ちょっとだけ……傍に居て?」
「……分かった。」
すぐ傍で聖穂は座り込んでしまったため、ひとまず俺も座った。復旧まで長くなりそうだが、大丈夫だろうか……。
『もうすぐ着く』と。
意味も無くスマホをいじって五分程度経つと、見覚えのある車から聖穂が降りてきたのが見えた。
「お待たせ~!って言っても予定時間十分前だけどね。」
「ギリギリより早いくらいが丁度いいでしょ。しばらくは電車待ちになるけど。…ところであのドライバーさんは?」
やはり見間違いじゃない。あの車は先日乗ったものであり、そのドライバーさんともお話しした。
するとドライバーさんも俺に気付いたのか、停車して降りてきた。
「ここでも会えるとは、縁結びの神様は実在するのでしょうね。」
「ですね。改めて、先日はありがとうございました。」
「礼はいいですよ。それよりも、聖穂さんのご友人が貴方だったことに驚きましたよ。」
どうやら、彼は聖穂のことを知っていたようだ。そりゃ送迎していたのだから当然といえば当然だが…。
「蓮君と小笠さんが面識があったことに私は困惑しているよ~。今どういう状況?」
そう会話をしていると、隣で何も知らない聖穂の頭がパンクしていた。
「先日、この方に助けてもらったんだ。聖穂の知ってる人なんだよね?」
「うん。私の仕事仲間って言うのかな。カメラマンの小笠さん。旅が趣味だから交通機関として連れてきたんだよね~。」
「聖穂さん、人を無料タクシーみたいに言うのはやめてください……」
「何か友人がすみません……。彼女と居ると少し大変でしょう?」
「大丈夫です。私含めて、もう慣れました。今となっては一緒に仕事していて楽しいですよ。ほんと、プロデューサーにそっくりです。」
プロデューサーという言葉に、俺は疑問符を浮かべた。それとスルーしていたが、彼はカメラマンだ。そして彼は聖穂と仕事で関わっている。
そういえば、東京で書店に訪れた時、様々な雑誌に“天然愛されキャラ みほ”と記載されていたのを思い出した。
多分有名人になったんだと思うけど、何で有名になったのか知らない。思いきって尋ねることにしてみた。
「今更なんだけど……聖穂はどんな仕事をしているの?」
すると二人はあからさまに「えっ…!知らないの?」というような驚きの表情を浮かべた。
「……あれ?俺何かおかしい事でも訊いた…?」
「その反応は本気で知らないようですね……。彼女、椎名聖穂はけっこう流行ったアイドルですよ?」
「・・・え?」
理解が追いつかなった俺は、確認の意味も込めて聖穂の方に顔を向けた。
「そうだよ~!知らなかったの?まぁ……蓮君らしいね。」
「え…?え…?………え?!」
現在、電車で移動中。ちなみに、小笠さんは帰り際に 「過去の収録映像全て送っておくので、“必ず”目に焼き付けて感想くださいね!」 と言っていた。どうやら、彼は聖穂のガチファンらしい。
まだ目的地に着いてすらいないのに、驚き過ぎて妙に疲れた。聖穂がアイドルだったという事実もそうだが、小笠さんの先日とのテンションの差にも……。
「どう?少しは頭の中整理された?」
ネットでの情報を参考にしつつ、俺は彼女の思い出話を聞いていた。聞けば聞くほど本人だと分かる。
「ほんとに少しね……。今日一の衝撃だったよ。」
「活躍してた時期も時期だったし、仕方がないよね。……きっと誰にも触れられたくなかったんだろうね……」
「ん?何か言った?」
「…いいえ?こっちの話。」
最後の方が聞き取れなかったが、まぁいい。調べたところ、彼女が一番輝いていた時期は俺の病み堕ち受験期から大学生活にあたる。ネットやマスメディアにほとんど触れてこなかった期間だ。
「対照的だな……」
誰にも聞こえない声でそう口に零して、俺はスマホを閉じた。
改札口を出ると、それは遠くからでも目に入った。
「あれがレトロハイマート……。初めて見たけど、凄い……!」
「だね~!私達、まだまだ地元のことを知らないね。」
レトロハイマートの第一印象は“圧巻”だった。正直、初めてスカイツリーを見た時と同等だ。
「聖穂の住んでいるところはこういう建物多いの?」
「あんまりかな…?芸能界はずっと安泰じゃないからね。適当にマンションの一室借りてるよ。」
「へぇ……ちゃんとその後のことを考えているようだね。」
「蓮君都内暮らしなんだ!……ほどほどにね?」
「はい……。」
その場のノリで質問してみたら、俺の金銭感覚が狂っていたことに気付かされた。
そんな会話をしながら、駅から出た。
「じゃあ、暗くなるまでその辺を散策しよっか。」
「そうだね!」
そうして俺達は暗くなるまでの間、街並みを楽しんだり、食事をしたりして散策を楽しんだ。
午後六時。雨雲に覆われているため直接は見えないが、日没した頃合いだ。
「やっぱり蓮君と一緒だと楽しい時間になるよ~!ありがとう!」
「どういたしまして?」
散策中、聖穂はとても楽しそうにしていた。何年経っても、彼女は変わらないようで安心した。
「地上から見る景色も良い雰囲気だったし、空からの景色も期待しちゃうな~!」
「俺もだよ。行こうか。」
今日の大本命は門司港レトロ展望室。空から見る夜景に期待を寄せつつ、俺達はエレベーターに乗った。
エレベーターが動き出し、一気に窓からの風景が下へ下へと降りていく。この時点でも綺麗な景色が広がっているため、展望室からの光景がますます楽しみになってきた。
そんな時、エレベーターに異変が起こった。
「きゃっ!」
「……!このタイミングで停電か……」
エレベーターが急停止して、照明が消えた。どうやら停電が起こったようだ。窓から見える景色からも光が失われている。大規模な停電だ。
「……聖穂、大丈夫か?」
「う…うん……。ちょっとだけ……傍に居て?」
「……分かった。」
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