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1章:失踪の川

13日目.和解

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 家に帰り、俺は布団に倒れ込んで横になった。

 「疲れた………」

 時計が狂ってしまっていたので正確な時間は分からないが、ずっと掘りっぱなしだったことは確かだ。
 帰ってこれたという事は解決したと思いたいが、結果はまだ分からない。とりあえず、明日確認することとして俺は眠りに就いた。







 翌日、日中の間に本日の業務を終わらせて川へと向かった。道中でパンを買い食いしながら時間を待った。
 しかし、六時から九時までが経過したが、霧が発生することはなかった。行方不明者は全員見つかったそうだし、新たな行方不明者も現れてはいなかった。

 「解決……ということにしていいのか…?」

 まだ一日しか経っていないから何とも言えないが、あったらあったでまたその時だ。俺は帰宅して資料にまとめ始めた。




 「まぁこんなものか……。」

 知る限りの情報を全てまとめ終えて、俺は資料を添付してメールを返した。



 送信後、俺はシャワーを浴びて戻って来ると新しいメールが入っていた。

 『確認致しました。この一件についてより詳しい話を伺いたいため、明日交番までお願いします。
            捜索班より』

 「あれ以上説明することもないけどなぁ……。」

 そんな事を呟きながら、俺は眠りに就いた。


__________________

 まただ。また夢の中だ。洞窟の中で見た人影がまた姿を現す。意を決した俺はそいつに声をかける。

 「君は一体何者なんだ……?」

 すると人影はこちらに振り向いて喋った。

 『心外だよ。君に忘れられるなんて。正確には覚えてくれてるみたいだけど、私を識別することは出来ないようだね。』

 人影の声は若干反響しているものの、先日のようにノイズまみれで音が不鮮明ではなかった。どうやら、ここでは安定するみたいだ。

 「まず、俺を答えに導いてくれてありがとう。だけど、何が目的なんだ。申し訳ないけど、夢にも記憶にも干渉してくる君が平凡な存在だとは思えない。俺はこれまで説明がつかないような事故に巻き込まれてきた極度のトラブル体質だったけど、君のような不思議な夢は見たことがなかった。学者が言うのもなんだけど、証明しきれない。」

 人影は顎に手を当て考えるような仕草をした後に言った。

 『それは直に分かるはず。私の口から言ってしまうと、私はここに存在出来なくなってしまうから……。………と、もうすぐ日が昇るみたい。いたっけな!』

 すると視界が光に包まれて、暗闇に成ってしまった。そう思っているとまぶたの外のカーテンの隙間から日の光が差してきたようで、自然に目を覚ました。

__________________

 朝食を食べてから、俺は交番へと向かった。ずっと帰ってきていないことを家族に心配されているのではないかと不安だったが、そこは咲淋が上手いこと話してくれていたらしい。それはそれで寂しいな……。
 
 「あの…メールで招待された早瀬という者なのですが……」

 交番に到着して声をかけると、事務室から人が出てきた。

 「風波さんのお知り合いですよね。彼なら今昼休憩に入りましたよ。」

 「そうですか……ありがとうございます。」 

 彼の昼休憩といえばあそこしかない。すぐに俺は錆びれた公園へと歩き出した。







 案の定、そこに彼の姿はあった。基本的に誰もいない公園に忍び寄る俺の気配に気付いたのか、こちらに視線を飛ばした。

 「来てくれましたね……蓮斗さん。」

 「ああ……応えた。」

 「まず、貴方の得た情報を改めて聞かせてくれませんか。」

 「勿論だ。」

 そう言いながら夕焚の横に座り、霧の中での出来事、行方不明者を全員救出した事などの全容を語った。



 「お見事です……やはり学者の探究には我々一警察官じゃ敵いませんね……。」

 「そんなことないさ。君達警察の情報網に比べれば、俺の調査は時間も労力も要する。ここは一長一短と締めておこうか。」

 すると、夕焚は少しの笑みを零した。

 「どうした?夕焚?」

 「なんか……ようやく戻って来たんだなって実感して……もう帰って来ないと思っていた蓮斗さんが帰ってきたと思ったら、他の人達と同じように影も形も無くて……。でも違った。ちゃんと帰って来てくれた。俺が慕っていた蓮斗さんが…!」

 次第に彼は涙を抑えられなくなっていた。余程嬉しかったのだろう。
 しばらくすると彼は手で涙を拭い、感情を切り替えた。

 「蓮斗さん……貴方にお願いがあります。」

 「……何でも言ってみろ。」

 「蓮斗さんも知っての通り、この町は永遠に雨が止みません。そして近年、停滞前線の範囲が徐々に拡大していることが明らかになりました。……それを我々は「恒夢こうむ前線」と呼称しています。現在は九州の東側を覆い尽くしている状態です。……恒夢前線には、何らかの“おかしな力”が加わっていると、我々は睨んでいるのです。」

 「聞かせてくれ。」

 「一言で現すと、“事故の誘発”です。貴方のトラブル体質は何処に居ても健在のようですが、それと似たようなものが九州では頻繁に起きます。……偶然だと思いますか?」 

 偶然……と言ってしまったらそこまでなのだが、実際に俺は身を持って体験している。あれは異端だ。

 「……思う…と俺が言うと思うかい?むしろ、現実主義の君の口からその言葉が出たことに驚いているよ。」

 「そう考えざるをえないんですよ……。人々の記憶に残るあの崩落事故で、皆廃人となった。調査も満足に進まず犠牲者は増える一方で、閉鎖という形で真相を葬った。ですが、まだ諦めきれない人達もいます。俺もまたその一人です。蓮斗さんだって、本当は諦めてないから決意してここに来たんじゃないでしょうか!……俺の周りは心の壊れ方が尋常ない。頼れるのは貴方だけなんです。お願いいたします。俺と一緒に解明してくれませんか……!」

 彼の熱意は本物だ。決意したものの、中途半端で不安定だった俺にキッカケを与え、熱意を引き出した。
 彼にとって、それくらい力を貸してくれる人の存在が重要だったから、俺を引き留めてくれたのだろう。
 ならば、その熱意に応えるのが筋というものだ。

 「はぁ……何改まっているの?その気があるから、俺は証明した。今の俺も、過去の俺から廃っていないということを!」

 そう言って俺は夕焚に手を差し伸べた。

 「もう逃げない。例え命の危機に晒されることになったとしてもな。」

 すると、彼の瞳に光が灯った。差し伸ばした手を取って、彼は返事をした。

 「はい!宜しくお願いします。蓮斗さん!」

 
 
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