亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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1章:失踪の川

10日目.霧③

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 調査開始から四日が経過していた。毎晩霧に飲まれて正体を探ったが、大きな進展はなかった。
 今日の調査も終わり部屋で情報整理と考察を行っていると、咲淋が訪ねてきた。

 「順調?」

 その問いかけに俺は首を横に振った。

 「ただ、規則性は掴んできた。開始時刻は午後六時、七時、八時の三パターンが確認出来ていて、一時間後に晴れる。霧の中では雨が止み、川が激流となる。霧の中で川に流された人は……行方不明になる。一度行方不明になった人は、霧が晴れた状態では、絶対に見つからないものだと思われる。でも、一つだけ確かな事がある……」

 「……?」

 「初日、俺は一人の子供を救えなかった。丁度流されたタイミングで霧が晴れて、消えてしまった。……だけど、昨日俺はその子を霧の中で見つけた。晴れるまで側に付いていたら、霧が晴れた後も消える事はなかったよ。無事に家にも送り届けてきた。……親御さんの認識ともズレはないし、幽霊だった…って訳じゃなさそうだよ。」

 調査の過程で、俺は八人を救出した。行方不明者の痕跡が何もないし、霧の存在を外からは確認不能出来ないようだが、彼らがちゃんとこの世に存在して、あの現象が現実に起きている。
 にわかには信じ難い話だが、これまでの俺の境遇からしても、科学的根拠も何も無い“摩訶不思議な力”が働いている気がするのだ。

 「あと、昨日霧が晴れた時に、俺と行動していない人で消えずにいた人を目撃したよ。」


__________________

 昨日の霧の中では誰とも遭遇しなかったし、進展もなかった。

 「今日は収穫ゼロか。……?誰かいる……?」

 長く続く川の奥で、人影を見つけた。俺は今一度“霧”に対する外部と内部の認識の違いを確認するために、その人に話しかけた。



 「先程の霧……大分濃かったですよね。」

 「……!」

 すると、彼は驚いたような表情を浮かべた。これまでは小学生くらいの子がほとんどだったが、彼は中学生くらいだろう。

 「あっ…すみません。ちゃんと霧の事を分かってくれる人が居ることに驚いてしまって……。ずっと誰も信じてくれなかったので……。」

 「君は無事だったんだね。……自分はこの霧と失踪事件の関連性について調査しているんだけど、些細な事でもいいから、何か知らない?」

 そう問うと、彼は一息置いて話し始めた。

 「塾の帰り、自分と友達は霧に飲まれました。三人で帰っていたんですが、そのうちの一人が一昨日おとといに川に足を滑らせてしまった。俺ともう一人の友達で引き上げようとしたのですが、急に激流が起きて、霧が晴れると友達の姿は何処にもありませんでした。次の日になっても友達は帰ってきませんでした。昨日も同じように霧に飲まれたのですが、その友達と同じくらいの背丈の影を見つけたんです。俺は名前を呼びながらそっちへと歩いていこうとしました。だけど、川が流れる音が聴こえて……恐ろしくて動けなかったです……。人が水没ような音が聴こえて…晴れた時には俺一人でした……。」

 「そうかい……怖かったね。」

 「もう一人の友達は精神的恐怖を感じて家に閉じこもってしまいました。……俺は消えた友達を見つけたい。霧の正体も暴きたい。お願いします……どうか協力させてください…!」

 彼は頭を深々と下げて、そう懇願してきた。
 彼の熱意はしっかりと伝わった。けど、まだまだ未来が定まらないほど若い子を、この答えの分からない危険な調査に同行させるのは、俺の責任では背負い切れない。

 「気持ちはありがとう。だけど、同行はさせてあげられない。」

 「……何故ですか!足手まといにだけは……」

 「君には未来があるからだよ。その可能性の阻害してしまうのは、大人として失格になってしまう。……確かに経験は大事だ。だけど、生死に関わるかもしれない実践を、やむを得ない判断を下す必要がない状況で積む必要はないと思うよ。それに……君は既に俺に協力してくれた。君の証言のお陰で、失踪する条件が定まった。友人の事も含め、後の事は俺に任せて。」

 すると、彼は「分かりました…。必ず解決してください。お願いします。」と改めて頭を下げて、道路に着いた。
 それをしばらく見届けてから、俺は帰宅した。

__________________

 「……ということだ。」

 昨日あった出来事を咲淋に共有した。

 「俺が見出した失踪の条件は、水没したかどうかだと思っている。そして、失踪した人は霧の中に囚われていて、次の霧の中でも同じように彷徨っているはずだ。現に、初日に流された子は四日間一切痕跡が無かったのに、霧の中では普通に見つかった。ほとんどの人が霧から抜け出せていないのも、視界不良が酷すぎるから水没しているで無理矢理辻褄は合わせられる。」

 「聞いた感じ順調そうに思えるけど……。」

 「ああ。この調子で水没を防いでいけば、行方不明者全員を救うことは可能だろう。だけど、肝心な“霧”の正体は一向に掴めそうにない。これでは、また同じことの繰り返しになってしまう。……じっとしているのは、初めは無理だろうよ。」

 初めさえ乗り切れば、脱出は容易だ。しかし、その初めの一時間を何も事前に分からない状態で待てるのだろうか。大半の人は無理だろう。
 目の前は真っ白、音を頼りに進むしかない。むしろ四回も入って動き回って全て無事の俺がおかしい。奇跡だろう。

 「つまり、調べるしかないってことね……。蓮斗……」

 「何?」

 「くれぐれも無茶だけはしないこと。四時間も彷徨って、慣れてきている自分が居ると感じてない?」

 「……ほんの少しだけ。」

 「ほらね。……慎重にね。」

 「ああ…。お気遣いありがとう。……そろそろけりをつけにいく。」

 今日の報告会も終わり、俺達はそれぞれ眠りに就いた。







 翌日の午後六時前、今日も今日とで俺は川に来ていた。
 慣れきるのが一番恐ろしい事だ。霧の正体は依然として分からないままだが、概要はかなり抑えた。

 「リミットは一時間……。今日で全員救って、決着を着ける!」

 時刻になり、俺は霧に包まれた。
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