亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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1章:失踪の川

5日目.帰郷③

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 「ただいま。」

 「お邪魔します……。」

 すると、二人の妹が勢いよく階段を降りて来た。

 「「おかえりなさい!」」

 「紹介するよ。この子らはまなゆい。双子ちゃんだよ。」

 「そうなんだ。初めまして。私は咲淋です。よろしくね。」

 しばらく二人の相手をしていると、リビングの方から母が顔を見せた。

 「あら、おかえりなさい。隣に居るのは……」

 「は、はい!私は東京で学者をやっています。愛知県出身の月輪咲淋といいます!本日は急に押しかけて誠に申し訳ありましぇ……ッ!」

 「一旦落ち着け。」

 普段の息をするように冷静に人を振り回す姿とは一変、ガッチガチに硬直している姿は傍から見る分には面白い。
 しかし、親の目の届かない場所で知り合った人の印象操作は止めていただきたい。他の友達はこんな強烈じゃない。

 「まぁ貴方が咲淋ちゃん?とてもキュートだねぇ。話は蓮斗から聞いているわ。好きなだけ居ていいわよ。」

 「お世話になります……。」

 「さぁ上がって上がって。六年間音信不通だった長男がまさか女の子を連れて帰って来るって言うんだから、もてなさないとね。」

 「……仕事仲間兼親友なんだが………。」

 駄目だ、うちの母は楽観的過ぎてついていけない……。絶対勘違いされているが、もう何でもいいか。
 靴を脱いでリビングに上がり、俺達は夕食を取り始めた。







 食事後、家の中を咲淋に案内した後に和室を客室として彼女を招き入れて、一段落ついた所で俺は自室の布団に寝っ転がった。
 とは言っても、家具とかは全部東京の方に移してあるため、布団とダンボールしかない。あとは持ってきたもの。
 職業柄、俺は日本の広範囲を転々としているため、仲間と共有で使っている別荘がいくつかある。東京だけは個別でマンショやら何やら持っているが、正直勝手に出入りされてるし、勝手に出入りしている。
 だから、銀行に九割突っ込んで残りは自分の手元に置いている。つまり、何処に居ても変わらないという訳だ。
 改めて、俺も含めて倫理観がバグっている。最早公認の不法侵入と化している。
 
 久々の実家でそんな振り返りをしていると、誰かが部屋をノックしてきた。

 「入っていいよ。見られて困るものないし。」

 すると、咲淋が扉を開けて入ってきた。

 「変わり者でしょ、俺の家族。」

 「そうね。でもなんかいいね。私の家はちょっと冷たかったから……」

 そうだった。こいつの生い立ちもちょっと難ありだった。

 「ごめん。配慮が足りなかったね。」

 「大丈夫。私が勝手に連想しただけだから。」

 「それで、何か用件はあるの?何となく来たって感じはしてるけど。」

 「いいえ特に……。」

 それからしばらく沈黙が続くと、先に口を開いたのは咲淋の方だった。

 「私は明日から早速観測を行っていくのだけれど、蓮斗は何をするの?」

 一応、仕事の手伝いとして来ているだけであって、俺の仕事は別である。
 普段は出勤して行っている仕事をデスクワークとして送信するだけ。

 「いつも通りの資料まとめだよ。残りの時間で地理調査って感じかな。明確な目的が定まっている訳じゃないから、まだ何とも……。」

 「そう……。また手伝ってよ。」

 「分かった。じゃあおやすみなさい。」

 「うん。」

 そう言って、彼女は俺の部屋を後にしたため、俺は照明を消した。


__________________

 『会いに来てくれたの……嬉しいな。でも、もう昔の君じゃないのね……そう想うと悲しいな…。』

 人の形?をした取り留めがない光は、やがて辺りを包み込み、風景はちょっと町を外れた場所にある川に移った。
 
 「皆ー!何処!」 「ママー!」

 子供達が川沿いの道路を歩いていると、突然霧が掛かった。

 (あ、危ない!そっちは……!)

 そう声に出そうとしたが、何故だか動けなかった。
 やがて霧が晴れると、子供達は姿を消していた。

 『暗いよ。怖いよ。』 『誰かー。』

 すると、段々と川が氾濫していき、視界が水に飲み込まれた。

__________________

 「はっ!……何だったんだ。今のは…。」

 時計を確認すると、午前四時だった。どうやら、不思議な夢に起こされてしまったようだ。
 そして時計を確認する際に、俺はある違和感に気付いた。

 「シロバナタンポポ……どうしてここに?」

 時計のすぐ横に、シロバナタンポポが置かれていた。この花を俺が実家に残していた事を覚えてるが、さっきまでは無かったはず……。

 「考えるのはやめだ……。寝よう。」 

 思考放棄して目を閉じると、それからは朝までぐっすりと眠れた。







 翌朝、俺がリビングに向かうと、朝食を作っている咲淋の姿と、それをソファから見守っている母の姿があった。

 「あ、おはよう蓮斗。」

 「おはよう。咲淋、母さん。」

 俺は母に尋ねた。

 「母さんが任せたの?」

 「朝早いからって言って、作ってくれるって。本当に助かるわー。」

 母はランチのみの飲食店で働いていて下準備のためいつも朝は忙しそうにしていた。
 
 「良かったね。咲淋の料理は美味しいよ。」 



 「出来ましたよ!」
 
 そうこう話していると、朝食が完成したらしく、俺達は揃って頂き始めた。
 


 美味しく頂いた後、俺は台所にいる咲淋に声を掛けた。

 「洗い物は全部俺がやっておくよ。観測は時間命だから。」

 「ありがとう。じゃあ行ってくるね。」

 「行ってらっしゃい。」

 そうして俺は咲淋と交代して、食後の片付けを行った。







 その後、午前中の間に今日のノルマプラスアルファの仕事を完了させて、一息ついた。
 すると、俺は昨日実に「夕焚が貴方に会いたそうにしていたよ」と言われていた事を思い出した。

 「彼の所に行きますか……。」
 
 靴を履いて、俺は昼休憩に彼が行きそうな場所に向かった。
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