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1章:失踪の川
4日目.帰郷②
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改札を出て、俺は実家に「到着」と連絡を入れた。そして、折り畳み傘を鞄から取り出して駅の外に出た。
歩くたびに振動で水溜りに波紋が広がる。公衆電話には水滴が付着していた。見慣れた景色であり、懐かしい景色でもあるが、同時に不思議な感覚にも襲われた。関東じゃ毎日のように雨は降っていなかったから。
「ちょっと家空いて無さそうだからさ、適当にふらつこうか。案内する。」
昨日急ぎで連絡したのだから、流石に夕方頃までは誰も家にいない。
なので、時間潰しに駅周辺の商店街を散歩する事を咲淋に提案した。
「じゃあ、よろしくね。」
そうして、夕方まで商店街を見て回る事に決まった。
半透明の屋根に覆われた商店街。ここは意外にも多くの人が集まる場所だ。
「へぇ~けっこう発展しているのね。私の地元と同じくらいかな?」
「まぁ田舎ではないからね。こんな環境でも、過疎らないくらいには住みやすい土地だから。飲食店もいいとこ多いから迷うだろ?」
「そうね。…ってもうそんな時間か……。無難にラーメンとかにしておこうかな?」
「いいんじゃない。オススメがあるから、そこに行こう。」
俺は彼女をそのラーメン店へと案内した。
「わぁ…けっこう並ぶね。」
「慣れたものでしょこのくらい。一時くらいには入店できるんじゃない。」
そうして俺達は列の最後尾に並び、列が進むのを待った。
「……何の騒ぎだ…?」
賑やかさを見せつつも平穏な空気だった商店街が騒然とし始めた。耳を澄ますと、微かに何かが迫る音を捉えられた。
「離れてください!道の端に寄ってください!」
遠くから誰かがそう叫んでいたため、音のする方に目を向けると、そこには暴走する軽トラックの姿があった。
俺は人の波に押されながら道端へと動こうとしたが、誰かの足に引っかかってしまった。
「……!」
「蓮斗!」
__________________
小学六年リレーの練習の最中。
「大丈夫?那緒。」
「うん。平気。ちょっと転んじゃって……。」
「平気ってさぁ……けっこう出血しておいてそれ言う?」
「きゃっ!何勝手に足触ってるの!」
「ほら、止血しといたから。しばらくは安静にしてろよ。本番まではまだ一週間あるんだからさ。」
「……分かった。ありがとうね。」
「…どういたしまして。」
__________________
「ッ!……何が起こった…。」
「何かを悟ったからなのか、気絶していましたよ。」
「……!その声は………実?」
起き上がると、そこには咲淋、そして実の姿があった。
彼女は豊穣実。中学時代のクラスメイトで、那緒と仲が良かった記憶がある。
「何で実がここに?確か大阪の方で働いてるはずじゃ……。」
「貴方こそね。ちょっと九州の方に人事移動する事になってね。それならこっちから通った方が近いから。」
「そうなんだ。」
「っと私はそろそろ失礼するね。連れの子も居るみたいだし。」
そう言って実は鞄を持って去って行こうとしたが、何かを思い出したように立ち止まって、俺に言った。
「あ、そうそう。夕焚が貴方に会いたそうにしていたよ。帰ったら顔を見せてあげてね。」
それだけ言い残して、彼女は去って行った。
「蓮斗…大丈夫?」
すると入れ替わるように咲淋が声を掛けてきた。
「身体に異常はないよ。……何が起きていたんだ?」
「荷物を運搬していた軽トラックのブレーキが効かずに歩行路に突っ込んだみたいなの。蓮斗以外にも怪我人はいるっぽいの……でも、皆軽症だって。豊穣さん?が診てくれてたよ。」
「また会ったらお礼言っとかないとな……。ブレーキ効かなかった理由は?」
「……それが分かってないの。運転手の過失の可能性が高いと思うけど、何とも……。」
つまり、いつも通りという事だ。それよりも気になるのがあの記憶。……これまで、死を悟った時であってもフラッシュバックが起きる事は無かった。
これが帰郷したからなのか、生きたいと強く思ったからなのか、はたまた単なる気分なのかは、全く見当も着かない。
「……深く考えるのも無駄か…。」
「何か言った?」
「ん?何も……。」
どうやら、無意識に言葉に呟いていたようだ。
スマホで時間を確認すると、五時になっていた。
「もう五時か……よし、そろそろ家に行こうか。ごめんね、俺のせいであんまり見て回れてなかったよね?」
「全然君のせいじゃないよ。どのみち、事故のため規制されてたし、また来ればいいからね。」
「……そう言ってくれると助かる。」
一悶着あったものの、俺達は商店街を後にした。
バスで住宅街の方に向かい、しばらく歩くと実家に着いた。
「けっこう広そうな家ね。」
「土地が安いからね。赴任中の父もお金を入れてるし。」
そう言って俺は玄関の扉を開けた。
歩くたびに振動で水溜りに波紋が広がる。公衆電話には水滴が付着していた。見慣れた景色であり、懐かしい景色でもあるが、同時に不思議な感覚にも襲われた。関東じゃ毎日のように雨は降っていなかったから。
「ちょっと家空いて無さそうだからさ、適当にふらつこうか。案内する。」
昨日急ぎで連絡したのだから、流石に夕方頃までは誰も家にいない。
なので、時間潰しに駅周辺の商店街を散歩する事を咲淋に提案した。
「じゃあ、よろしくね。」
そうして、夕方まで商店街を見て回る事に決まった。
半透明の屋根に覆われた商店街。ここは意外にも多くの人が集まる場所だ。
「へぇ~けっこう発展しているのね。私の地元と同じくらいかな?」
「まぁ田舎ではないからね。こんな環境でも、過疎らないくらいには住みやすい土地だから。飲食店もいいとこ多いから迷うだろ?」
「そうね。…ってもうそんな時間か……。無難にラーメンとかにしておこうかな?」
「いいんじゃない。オススメがあるから、そこに行こう。」
俺は彼女をそのラーメン店へと案内した。
「わぁ…けっこう並ぶね。」
「慣れたものでしょこのくらい。一時くらいには入店できるんじゃない。」
そうして俺達は列の最後尾に並び、列が進むのを待った。
「……何の騒ぎだ…?」
賑やかさを見せつつも平穏な空気だった商店街が騒然とし始めた。耳を澄ますと、微かに何かが迫る音を捉えられた。
「離れてください!道の端に寄ってください!」
遠くから誰かがそう叫んでいたため、音のする方に目を向けると、そこには暴走する軽トラックの姿があった。
俺は人の波に押されながら道端へと動こうとしたが、誰かの足に引っかかってしまった。
「……!」
「蓮斗!」
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小学六年リレーの練習の最中。
「大丈夫?那緒。」
「うん。平気。ちょっと転んじゃって……。」
「平気ってさぁ……けっこう出血しておいてそれ言う?」
「きゃっ!何勝手に足触ってるの!」
「ほら、止血しといたから。しばらくは安静にしてろよ。本番まではまだ一週間あるんだからさ。」
「……分かった。ありがとうね。」
「…どういたしまして。」
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「ッ!……何が起こった…。」
「何かを悟ったからなのか、気絶していましたよ。」
「……!その声は………実?」
起き上がると、そこには咲淋、そして実の姿があった。
彼女は豊穣実。中学時代のクラスメイトで、那緒と仲が良かった記憶がある。
「何で実がここに?確か大阪の方で働いてるはずじゃ……。」
「貴方こそね。ちょっと九州の方に人事移動する事になってね。それならこっちから通った方が近いから。」
「そうなんだ。」
「っと私はそろそろ失礼するね。連れの子も居るみたいだし。」
そう言って実は鞄を持って去って行こうとしたが、何かを思い出したように立ち止まって、俺に言った。
「あ、そうそう。夕焚が貴方に会いたそうにしていたよ。帰ったら顔を見せてあげてね。」
それだけ言い残して、彼女は去って行った。
「蓮斗…大丈夫?」
すると入れ替わるように咲淋が声を掛けてきた。
「身体に異常はないよ。……何が起きていたんだ?」
「荷物を運搬していた軽トラックのブレーキが効かずに歩行路に突っ込んだみたいなの。蓮斗以外にも怪我人はいるっぽいの……でも、皆軽症だって。豊穣さん?が診てくれてたよ。」
「また会ったらお礼言っとかないとな……。ブレーキ効かなかった理由は?」
「……それが分かってないの。運転手の過失の可能性が高いと思うけど、何とも……。」
つまり、いつも通りという事だ。それよりも気になるのがあの記憶。……これまで、死を悟った時であってもフラッシュバックが起きる事は無かった。
これが帰郷したからなのか、生きたいと強く思ったからなのか、はたまた単なる気分なのかは、全く見当も着かない。
「……深く考えるのも無駄か…。」
「何か言った?」
「ん?何も……。」
どうやら、無意識に言葉に呟いていたようだ。
スマホで時間を確認すると、五時になっていた。
「もう五時か……よし、そろそろ家に行こうか。ごめんね、俺のせいであんまり見て回れてなかったよね?」
「全然君のせいじゃないよ。どのみち、事故のため規制されてたし、また来ればいいからね。」
「……そう言ってくれると助かる。」
一悶着あったものの、俺達は商店街を後にした。
バスで住宅街の方に向かい、しばらく歩くと実家に着いた。
「けっこう広そうな家ね。」
「土地が安いからね。赴任中の父もお金を入れてるし。」
そう言って俺は玄関の扉を開けた。
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