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3章:夏風キャンピング

#14.蛍

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 昼間と同じ道を辿っていると、暗がりに集まる微かな光が見えた。

 「あれは……」

 「蛍……ですかね?」

 まだ日が沈みきっていないのでよく見えないが、蛍のようなものが宙を漂っている。

 「夕食後にまた皆で見に行こうか。」

 「そうですね。」

 時間も丁度いいため位置だけ覚えておき、僕達はテントの方へと道を引き返した。







 「完成~!さ、食べよ食べよっ!」

 調理場に戻ると既にカレーが盛り付けられており、美咲は椅子に座っていた。

 「あれ、奏翔は?」

 「琉威を呼びに行ったよ。」

 「ならしばらく待つか。」





 「琉威?」

 テントに行くと、しおりを挟まずに閉じている本を持って眠る琉威の姿があった。

 「……ぁあ、奏翔か。何か用か?」

 「夕食ができたから呼びに来た。」

 「そうか。わざわざ悪いな。」

 そう言って彼は椅子から立ち上がり、固まっていたであろう身体を伸ばして解した。
 すると、彼は急にこんな質問を投げ掛けてきた。

 「ずっと気になってたんだけどさー……お前けっこう外楽しんでるじゃん。インドア派には見えないぞ。勿論、仕事に追われているからという理由もあると思うが、他に何かあるんじゃないかなーって。」

 「………カレー、冷めちゃうぞ。あとでじっくり話してやる。」

 「美咲と過ごせなくなるけどいいのか?」

 「日中も調理中も一緒に居たから。折角の機会だしゆっくり話そうよ。次期生徒会長候補?」

 「…だな。ほら、待たせる前に行くぞ。」

 一度話にきりをつけ、調理場に戻った。



 二人が戻って来て、僕達は夕食を食べた。人数に対してカレーを作り過ぎてしまった気もするが、案外すぐに完食した。

 「それじゃあ、私と早彩ちゃんで食器片付けておくね~!」

 「ああ、悪いな。お先に失礼するよ。」

 そう言って琉威は奏翔を連れて川原の方へ向かって行った。

 「あれ?爽真は動かないの?」

 「うん。あとで皆集めるつもりだから。」

 「そうそう。さっき蛍を見つけたんですよ。美咲ちゃんも行きますか?」

 「本当?絶対行くっ!早彩ちゃん、1秒でも早く片付けてちゃお~!」

 「お~!」

 ワクワクしながら食器を洗う美咲と相づちを打って手を動かす早彩を見守り、僕は夜空を見上げた。
 
 「……それにしても、あの二人はどこに行ったんだろう……まだ時間はあるからいいけど…」

 ちょっと絡みが少ないあの二人が共に行動しているのは珍しい。
 折角の野外だからこそ、募る話でもあるのだろうか。







 テントから漏れる光が微かに届く川原に、俺は連れられてきた。
 形がちょうどいい岩に琉威は座り、俺はその隣に立っていた。

 「じゃあ改めて訊く。アウトドアになった要因は何だ?」

 俺は少し頭の中で整理して言った。

 「一つは琉威の想像通り、作業に追われてるから。もう一つは……美咲に無理をさせないため。」

 「美咲に…無理をさせないため?」

 「そう。美咲はさ、元気もあって運動神経も抜群、一見体力もあってスポーツを楽しんでいるように見える。…いや、実際楽しんでいると思う。だけどああ見えても喘息持ちだった。」

 「…治療は……」

 「したし回復はしている。だけど、幼い頃に負った傷が酷くて、それが原因で何が起こるか分からない。元はと言えばそんなことも知らずに彼女を連れ回した俺が原因だから……安静にして一秒でも早く傷を治してほしい。そんな願いで俺は家に籠もり始めた。確かその頃にコンピューターと出会ったんだったかな。」

 「待て、奏翔が家に籠もれば解決する話なのか?」

 「…彼女はずっと俺の後ろをついて来ていたから。真似てくれるかなと思ったんだけど……流石に無理だった。立場が逆転しただけ。」

 「……この事は黙っていた方がいいか。」

 「そうしてもらえると助かる。」

 こちらの事情も話終わったところで、今度は俺から琉威に尋ねた。
 
 「答えたから俺にも質問させて。いじめ問題は今どうなっているの?」

 「……全然。ようやく稀香の行動が把握できたところ。この件に関しては爽真に託した。」

 「本人はそれ知ってるの?」

 「……いつか話す。」

 「…琉威のやり方を否定する気はないけど、友情は大切にしてよ?」

 「分かってる。……てかあれだな。お前夜だと口調が尖ってるな。」

 「朝に弱いだけ。さ、早く戻ろう。皆心配してるかもしれんし。」

 「だな。」

 ちょっと重たい話も終えて、調理場の方に戻った。







 「あ…帰ってきましたね……」

 「全く、二人とも何処に行っていたのさぁ~!」

 しばらくすると、琉威と奏翔は戻って来た。

 「ちょっとお話をしてたんだ。作業続きで全然コンタクト取れてなかったから……」

 奏翔の言うことに琉威は頷き、彼は僕に近づいてきて小声で言った。

 「お前にも関係ある話だ。後日じっくり話す。」

 了承の意味を込めて軽く頷き、僕は全体の会話に集中を向けて言った。

 「揃った事だし案内したいところがある。ついて来て。」



 先程早彩と訪れた地点に移動すると、木々に群がり点灯する蛍の姿があった。
 日が沈んで静寂と暗闇に包まれているため、その光はよりいっそう強調されて見えた。

 「綺麗………」

 「圧巻だねっ……!」

 早彩と美咲はそう口に零し、蛍に目を奪われていた。
 時折冷たい風に吹かれながら、僕達はその美しい景色を見つめて、目に焼き付けた。

 「……来て良かったよ。また……この笑顔が見られて。」

 「奏翔……」

 小さく呟く奏翔に琉威はそう反応して、首から提げたデジカメで写真を撮った。
 
 「爽真はどうだ?いい思い出になったか?」
  
 すると今度は僕にそう尋ねてきた。

 「うん。とっても……」

 「……そうか。」

 それからしばらくの間蛍を観賞して、眠気が立ってきたため僕達はテントに戻った。
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