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3章:夏風キャンピング

#15.夜風に包まれ意識する

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 「1泊2日じゃ少なかったか?」

 テントの中に入り寝る準備をしていると、琉威はそう尋ねてきた。

 「まぁね……ただ誠の練習にも付き合わないとだし、奏翔も作業があるだろうし、ちょうどいいくらいなんじゃない?」

 「確かにそうだな。生徒会も文化祭の準備に向けてそろそろ動き始めるだろうから、中々集まれなくなるな……」

 僕達の高校は文化祭の規模が大きく、8月に差し掛かる頃から人によっては忙しい日が続く。それは僕達も例外ではない。

 「ま、言っても会えないほど忙しいわけでもないんだけどな。」

 「そうだね。遠出はできなくても、夏祭りとかもあるからね。」

 そうこう今後の予定について軽く話し合っていると、少し遅れて奏翔がテントに帰ってきた。

 「お待たせ。」

 「二人は大丈夫そう?」

 「そのうち戻るって。GPS持たせといたから大丈夫だと思う。第一この距離では流石に迷わないでしょう……」

 「あんまり心配する必要もないかな。僕達はお先に寝ますか。おやすみ。」

 「「おやすみなさい。」」

 そう言って僕はテント内のランプを消灯した。彼女らがテントを見つけやすいように外のランプはつけっぱなしにしておく。







 爽真君達が戻ってからも私達はしばらく蛍を見続けていた。
 
 「本当綺麗だね~。私けっこう外には出るけど、夜は出歩かないからね~」

 「あんまり出歩くものじゃありませんけどね……」

 「まぁ塾とか行ってるわけでもないからね。夏祭りもそんなに行かないし……」

 「そうなんですか!」

 「そうだよ……?意外でしょ?」

 「は…はい……美咲ちゃん、お祭りとか好きそうなイメージがあったので……」

 「あぁね……勿論好きなんだけど…家庭の事情とかあってさ………でもね!今年初めて許可が降りたんだっ!早彩ちゃんも一緒に行こ?」

 「はい!いつでも誘ってくださいね。」

 誘いを受けてしばらく冷たい夏風に吹かれて沈黙が続き、いつもよりシリアスな雰囲気で美咲ちゃんは尋ねてきた。

 「ねぇ……早彩ちゃん。君は幸せを感じてる?」

 「え…?…ええと………」

 急な難しい質問に私は困惑していると、彼女は言った。

 「私はね、よく分からないの。何か心にわだかまりのようなものがある気がして……幸せの基準って何なんだろう?」

 太陽のように明るく振る舞ういつもの彼女とは違う。本気で悩み、答えを出せずにいる迷いの目をしていた。
 
 「……きっと、無意識のうちに満たされる感情が幸せなんだと私は思いますよ…。私は……今が一番幸せだと思ってます。彼に出会ってから、窮屈だった心が羽根を広げられた気がします!」

 気付けば私は心の声を全て口にしていた。すると彼女は小さくても鮮明な声で呟いた。

 「早彩ちゃんもしかして…………ううん。何でもない。暗い話になっちゃってごめんね?」

 「いいえ、たまにはいいじゃないですか……」

 「だねっ!…そっかぁ……早彩ちゃんの心は奪われちゃったかぁ……」

 「っ!な、ななな何を言ってるんですか!」

 「あれれ~気づいてないの~?好きでしょ、爽真のこと。」

 「………そう…なのかな……」

 咄嗟に否定しようとしたけど、否定の言葉が思いつかなかった。
 深層心理。無意識にそれを受け入れてしまったのかもしれない。

 「そうだと思うよ?私の知らないところでも二人はコンタクトを積み重ねてきたみたいだし、ふとした時に落ちているものだよっ!」

 「………いつからなんだろう。あ…ちょっと冷え込んできたかも……」

 長い間夏風に晒されていたからか、段々と身体が冷えてきた。
 
 「私もそろそろ冷えてきたね……心配かけてもいけないし私達も戻って寝よっ?」

 「うん…そうしよう。」
 
 話も済み、私達もテントへと戻って目を閉じた。







 一夜が明け、新しい朝が訪れた。川が近くにあるため比較的涼し気で、快適な目覚めだった。
 テントから出ると、琉威と美咲がおにぎりを作っていた。

 「あ、爽真おはよ~。」

 「おはよう爽真。」

 「うん。二人ともおはよう。手伝うよら。」

 「「ありがとう。」」

 僕は椅子を出して座り、手を洗ってお米を握った。



 「お…おはようございます……」

 炊いた分のお米が全ておにぎりに変わった頃、眠そうな目をこすり早彩がテントから出てきた。

 「うん、おはよう。」

 「ちょっと顔洗ってくるね……」

 「了解っ!あ、爽真か琉威のどっちかで朝だめだめの奏翔起こしてきてくれない?」

 「分かった。僕が行ってくる。」



 テントに入り、奏翔の身体を揺すぶった。

 「……ん、爽真……?もう朝ぁ……?」

 「おはよう奏翔。未来のお嫁さんがお呼びだよ?」

 「からかうなぁ……君そんなこと言う人じゃないでしょぉ……」

 そう言いながら奏翔は起きて、ふらつく足取りでテントから出た。
 その後朝食も食べ終わり、僕達はテントや道具を片付けて始め、気付けば昼前になっていた。





 「いやぁ…楽しかったねっ!」

 「そうだねぇ……また行きたいな。」

 二人はそう話し込んでいて、僕達はその後ろを歩いていた。

 「爽真、早彩。これから忙しくなりそうだけど、次はいつ来られそうか?」

 「僕はいつでも行けるよ。読んでくれれば予定を調整する。」

 「私も同じです。…昨夜、美咲ちゃんに夏祭りに行こうって誘われました。」

 「ほぉ…あの美咲がか……。まぁ次集まれる日といったら夏祭りだろうな。美咲が行けるなら奏翔も行けるだろ。」

 「そうだね。まだ次の祭りまでしばらくあるけどね……」

 今後の予定について話し合いながら、僕達はキャンプ場を後にした。







 『昨日、今日とキャンプをしました。自然の中でリラックスするのも悪くないと感じ、また機会があったら場所も一新して行きたいと思う。蛍が見られたのが印象深かったです。』

 2日分の日記を書き綴り、僕はノートを閉じた。テント生活も良かったけど、やはり寝室が一番落ち着く。 
 ただ、いい経験にはなった。そんな事を考えながら僕は眠りに就いた。

 『夏風に 吹かれて歩き 導かれ 群がり灯る 蛍かな』
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