こいつ弟の彼女だから【R18】

まきします

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天童寺 茜の章

お兄さん、千夏とはちゃんと会えました?

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「徹ーー!」

 大きな声で呼ばれて振り返る。
 そこには大きく手を振ってくる子、茜ちゃんの妹がいた。短めのパンツと薄手のシャツ。そして太ももまでのハイソックスと元気いっぱいという風だ。
 くりくりの瞳は彼女とそっくりだけど、もっと背を小さくして成長期の真っただ中にいる感じ。あとちょっとだけ意地が悪そうな顔立ちかなぁ。

「おす、千夏ちゃん」
「おす、徹」

 パチンと手のひらをぶつけあい、それから互いにニヤッと笑う。なかなかの青空だし休日を過ごすにはぴったりの天気だろう。たとえ相手が中学生だったとしても。
 並んで歩き始めると、彼女は背負い鞄の口を開けてごそごそと何かを取り出す。出てきたものは色鮮やかな冊子だった。

「これこれ、パンフレットを先に買っといたんだ」
「うお、本物か。これをもうすぐ大スクリーンで観れるとは……くそっ、最高だ。日本っていい国だな!」

 ぐっと拳を握りしめてそう言うと、千夏ちゃんは目を丸くしたあとに口を開けて笑った。

「くふふ、面白いやつ。そんなにドハマりするやつなんて初めてみた」
「まあな、大人げないとは思うが、こればっかりはな。出会ってしまった運命を呪うしかないさ」

 そう意味もなくカッコいい顔をしてビルを見上げる。そこには漫画喫茶で熱中して読んだ漫画のキャラクターがいて、大いなる敵との決戦を迎える姿があった。くっ、燃える。

「うわ、ちょっと引くー」
「えっ、なんで!? 同志だと信じてたのに!」

 悲痛な顔をして振り返ると、それがおかしかったのか真珠みたいに綺麗な歯を見せて笑われてしまった。それから駆け寄ってきて腕に抱きついてくる。
 活発だけどちんまりしているし、親相手に甘え慣れている感じがする。きっと周囲の皆も甘やかしてしまうだろう。はー、生意気だし可愛いし、茜ちゃんが自慢してたのもよく分かるよ。

 なんて思っているとピロリロと俺の携帯が鳴って、千夏ちゃんは腕をぱっと離す。胸ポケットから取り出したスマホには、当の茜ちゃんの名前が表示されていた。
 ぽちっと押して電話に出ると、綺麗な声が聞こえてきた。

『茜です。お兄さん、千夏とはちゃんと会えました?』
「うん、会えた会えた。隣にいるよ。千夏ちゃん、お姉さん」

 視線を合わせてしゃがみこむと、おさげを揺らしてぷっくりとした唇を近づけてくる。そのガードの緩さは姉と通じるところがあって、天童寺姉妹の将来が心配になってしまうよ。

「やほー、お姉ちゃん」
『あ、千夏。今日は徹さんが付き合ってあげるんだから、ちゃんと大人しくするんだよ?』

 聞こえづらいからどいてと少女の頬から追いやられる。そっとスマホを手放してから落ち着いて話せるように近くのベンチを指さす。うんうんと彼女は頷きながら、太ももが触れてくるくらいそばに座った。

「うん、うん、平気だって。お姉ちゃんと違ってお昼には帰るし」

 うわぁ、辛辣!
 電話の向こうで悲鳴顔をする様子を思い浮かべたが、たぶん間違ってはいないだろう。ここのところ頻繁に弟の元に訪れており、それは週末だけでなく平日にも及びつつある。
 ちらりと茶色がかった瞳から見上げられた。俺たちの両親はどうしているのかと不思議に思われているのかもしれないが、子供の考えることは俺には分からない。そもそも女心が分かるほどの交際経験もないんだ。

 ピッとスマホを切って、少女から手渡される。そして一緒に立ち上がると映画館に向けて再び歩き始めた。
 むっすりと不機嫌そうな表情を見て思わず俺は話しかける。

「なにか言ってた?」
「えーとね、勉強のためだとか何だとかすっごく言いわけしてた。きっとボクのことをものすごく子供だと思ってるんじゃない? あー、でもやっぱりちょっとフクザツ」

 やきもきした感情を抱えているのは、姉の知らない姿や声を知ったせいかもしれない。女性との交際経験も無いけれど、恋する相手に対してはがらりと雰囲気を変えるのを知っている。というか最近になって知った。
 俺だって一人なら暗い顔で溜息をしていたところだが、今日は千夏ちゃんも一緒なのでそうもいかない。だから隣を歩く子に静かな声で話しかけた。

「そういうことも分かるようになると思うよ。クラスで好きな人とかいないの?」
「え――、ありえないって! あいつらみんな鼻水垂らしてそうなガキだよ?」

 そういう君も同い年の子供なんだけど。あ、いかん、保護者代わりとして映画館に向かったは良いものの、周囲から変な目で見られたりしないだろうか。
 いやいや、無い無い。色気もないし……と視線を向けると、ふっくらと膨らみつつある乳房に気づく。たぶん同学年の子よりも……あかんあかん。そういう目で見たらマジであかん。というか茜ちゃんの妹なら大きく成長して当たり前だ。

 なんて思っていたら先ほどと同じように腕を抱えられ、そして先ほどとは違って確かな柔らかさを伝えてくる。当の彼女はぶすっとしていたが、女の子であることは十分に分かった。

「いーんだ、ボクはずっと彼氏なんて作らないし。いつか小説家になって印税で暮らしてく」
「お、小説書いてるの? うわー、読みたいなー」
「うっ、べ、べつにいいけど……夏休みには一冊分書いて、サイトにアップしようと思ってるかな。でも素人だからぜんぜん下手くそだよ?」
「じゃあ未来の大先生の作品を、俺が一番最初に読むのか。うーん、楽しみだ」
「ばっ、ばかばか! ありえないって、そんなこと! あ、でもどうしよう。すごく嫌だけど、人に読ませたほうが上手くなるんだって」

 なら決まりかな。
 館内に足を踏み入れていた俺たちは、薄暗いエスカレーターをのぼりながらそんな会話をする。辺りの照明もちょっとだけ普段と違っていて、いやがおうにも気分は盛り上がってくる。もちろん彼女も同じ気持ちだったらしく、先ほどふてくされていたときよりも元気な声だった。

「わー、けっこう人がいる! チケット取るのに並ばない?」
「最近だとネットで予約するからすぐ終わるぞ。ほら、この端末に入力するだけ。見てみる?」

 こういう機器に弱いのか、見上げてくる瞳がきらきらしている。ちょっとだけ高さがあるので腕を差し出すと、やはりちょっと子供っぽいこともあり、大した躊躇もせず首に抱きついてきた。担いでみるとやっぱり軽くて、ひょいと簡単に持ちあがった。

「わ、ハイテク! 押していい?」
「いいよ。これがネットで注文したやつだから、書かれている番号を打ち込んでくれるかな」
「おっけー!」

 反対側の手でスマホを掲げると、ふんふん鼻息をしながら覗き込んでくる。ちょっと生意気だけどこういうときはあどけなくて、お姉さんの気持ちが分かってしまうなー。うーん、お尻がぽかぽかしてあったかい。

 ぴ、ぽ、ぱ、と入力をし終えて「できた!」と振り返ってきた顔もやっぱり可愛かった。あかん、俺は子供好きかもしれん。いや、この表情をみたら世の男はだれでも同じことを思うか。などと俺が変態ではないことを胸中で言いわけした。



 ぱり、とポップコーンをかじる音が響く。
 隣を見ると巨大スクリーンが千夏ちゃんの横顔を照らし出している。しかし困ったことに目の前に座る男性の背が高くて、彼が身じろぎをするたびに背伸びをしている風だった。
 せっかくど真ん中の良い席を取ったのに……などと同志として可哀そうな目で見てしまうかな。
 そう思ってこっそりと周囲の邪魔にならないように話しかける。

「見えないなら俺の膝に座る?」

 ぱちんっと大きな瞳で瞬きをして、それからうさんくさそうに見つめてくる。スクリーン、そして再び俺を見てくるが眉間に刻まれた皺はなんだろう。

「あ、異性だから警戒してるの? 無い無い、色気がぜんぜん無いし」

 驚いた顔はキッと睨む表情に切り替わり、がんっと足を蹴られた。ぐああ、地味に痛いとこ蹴ってきたああ!
 ぐおお、と身もだえることしかできない俺は、ぴょん、どすんと飛び乗ってこられても微動だにできない。
 そして振り返った表情はやはり不機嫌そうであり、ふっくらとした唇が「ばか」と囁いてくる。姉ゆずりのくっきりとした瞳の縁に見とれかけたが顔をツンと逸らされて、仕返しとばかりに背中を預けられてしまった。ぐええ!

 だけど眺めはバツグンに良くなったらしい。
 手にしていたポップコーンを食べ始めて、瞳は大好きな物語に魅入られていく。なら多少は痛い思いをしても良かったかもしれない。やっぱり女の子にはたくさん楽しんで欲しいからさ。

 映画には山と谷があって、それは原作を知っている俺たちだってハラハラとさせられる。主人公はすごく強いけど、相手だって強いんだ。
 緊張しているらしく少女の背中からじっとりとした湿度を感じるし、ポップコーンを食べる手も止まる。

 しかし正義の味方は敗れない。起死回生の一撃とともに、これまでにあった伏線を見事に回収して逆転劇が始まるんだ。
 おお、と俺たちは呻いたし、ドカドカと派手に炸裂する爆風に歓喜した。そう、歓喜したんだ。来た来た、これが俺たちの応援する主人公なんだと自慢したかった。
 虎視眈々と牙を研ぎ、勝てないと思える敵に対してニヤリと笑う。もちろんそれは勝利を確信した瞬間の笑みであり、全て計算していたことに気づいて背筋をぞわっとさせられる凄みのある笑みだった。

 やがてスタッフロールが流れ始めると、ようやく俺たちは物語から解放された。膝に乗っていることなんて互いにとっくに忘れており、ぐったりと背を預けていた彼女がぱちんっと瞳を見開く。

 あ、こいつもいたんだっけ。
 そういう感じの視線を向けられたら憮然とせざるをえない。
 しかし、あーんと口を開けてくるのはどんな意味があるのだろう。彼女の指にはポップコーンがあって、スローモーションのように近づいてくる。思わず口を開けるとそれを放り込まれ、暗いせいで唇に彼女の指がぺたっと触れてきた。

「あとぜんぶ食べていいよ。ボクからのお礼」

 にんまりとそう笑い、次から次へと食べさせられるハメになった。うーん、まさか食べきれないぶんを処理させられるとは。まあ塩味で美味しいですし、子供からベタベタされるのも嫌いじゃないので構いませんよ、ええ。
 残っていたジュースを互いにジュコーッと吸って、俺たちは映画館を後にした。



 楽しい映画を満喫し、にこやかだった千夏ちゃんを見れるのは電話をかけ終えるまでだった。
 ピッと切った彼女はうつむいて、どこか悲しそうに見える。なにかあったのかなと考えるが、その理由はある意味で俺には分かり過ぎてしまって辛い。

 たぶん、早々に電話を姉から切られたんだと思う。
 向こうはもっと楽しい時間を過ごしていたんだ。大事にしている妹よりもすごく好きな相手と。

「……なんて言っていたの?」
「家に帰りなさいって」

 こちらを見ることもなく、心細そうに答えてくる。
 そっか、としか答えられないし俺だって辛い。彼女がいまどんなことをしているのか、電話をすぐに切って何をしているのかを悶々と考え始めてしまって辛いんだ。
 一人だったら公園のブランコにでも乗っていたけれど、今日ばかりはそうもいかない。大事な妹さんを預かって、楽しくエスコートをする役目を与えられているからな。

「帰ったらなにかご飯でも作ろうか」
「いい、お腹すいてない」

 そう言って歩き出す小さな背中を俺は追う。
 はたから見たら怪しい人物に見えてしまうかもしれないが、とぼとぼと歩く背中を見たら躊躇するわけにはいかない。なので何でもないことを俺は話しかける。

「小学生の3年生からずっと、俺はみがきにみがいていた料理がある。それは親が褒めてくれた料理で、だけど今はもう褒めてもらえない」

 数歩ほど歩いて、彼女はぴたりと足を止める。そして振り返ると俺の顔を見あげてきた。
 もう何年前だろうか。親は事故に遭い、この世を去った。幸いなことに俺はギリギリ働ける年で、よその家に預けられることは避けることができた。生活費と学費を稼ぐことは義務になったが、後悔はまったくしていない。
 だからお姉さんが頻繁に訪れても怒られない。

「徹……」
「ああ、その通りだ」

 しゃがみ込んで彼女と同じ目線になる。
 事情を伝えると誰からも同情されるが、それはあまり好きじゃない。もっと自然に接して欲しいし、俺たち兄弟は可哀想じゃないと分かって欲しい。
 だから一歩近づいてきた彼女に、俺はにやりと笑いかける。

「千夏ちゃんも分かっている通り、日本の米はもちもちしていて水分があり過ぎる。そう、最適なパラつきが作れないんだ。だが外国産の米を仕入れるのは何かが違う。それはすぐに理解してもらえるだろう」
「徹、徹、そっちじゃない」
「そういうことなんだ。工夫して調理法を変え、かつ日本の米にしか出せない味を追及すべきだと俺は悟ったんだ。10年の時を超えて辿り着いたその味に興味はないかな?」

 映画で見た主人公のように格好良く、かつ下らないことを俺は言う。
 ものすごく悲しいことがあったとしても、例えそれが親の死に直面するものだったとしても俺は笑う。にっこりと何の心配も無いかのように。

 なぜかって?
 そうしたら千夏ちゃんのように安心してくれるから。能天気な弟だって「いつか借りを返す」と男らしく言ってくれた。
 我ながら意地を張り過ぎていると思うよ。だけどその甲斐はあった。目の前に立つ女の子は、浮かべた涙を引っ込めて「ばかだなぁーっ」て顔をしてくれたんだ。

「じゃあお昼は俺の炒飯を、そして午後は千夏ちゃんの小説を読んで遊ぼうか」
「えぇ――……いいケドさぁ、別に」

 そう嫌そうな顔をしつつも腕に抱きついてくれる。それはぎゅうと力強く、離れていく姉に寂しい思いをしていると分かるものだ。
 気持ちが痛いほど分かっている俺も、楽しい表情を決して崩さない。彼女は気丈にも小芝居につき合ってくれて、から元気を見せてくれたんだ。決して無下にはしたくない。

「でも徹、適度に褒めて。それが小説家になるために大事なんだって」
「任せてくれ。嫌と言うまで褒めつくしてやる」

 歩いていく先には入道雲があって、夏の本格的な到来を感じさせるものだった。たくさんの大粒の雨が降ってしまうけど、しかしそれはすぐに降り終えるものであり、梅雨どきよりもずっと心地よい雨だろう。
 くだらないことを話し続けていると、徐々に千夏ちゃんの足取りも軽くなってくれたのは嬉しかった。



 ずっと笑顔でいると俺は宣言したな。あれは嘘だ。正しくはそうあろうと努力する、と言い表すべきだった。

 覗き込んでくる子とは対照的に、ずうんと俺は表情を暗くさせている。目の前にはノートパソコンがあって、それを一文字ずつ目で追っているところだった。

 難解だった。
 いや、優しく言いすぎた。これははっきり言って拷問だ。

 まず誰が何をどうしたのかがまったく書かれておらず、ただドカンという擬音やズドオオという爆風らしき文字が続いている。
 もしかしたら大事ななにかを見落としていたのかもしれない。そう思い、順に話を整理していくことにした。大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃない。

 主人公は金髪だったが途中で黒髪に代わり、一人称を俺と僕で器用に使い分ける人物。かつ前世での記憶を取り戻し、日本で蓄えた知識をもとに無双する。
 例えば肉が固いのは叩いていないからだと断言し、村人たちはぽかんとしたあとに嘲笑する。しかし実際に棒で叩いてみると、じゅわっと脂が溢れてくるほど柔らかくって、なかには失禁する者まで出る始末だった。料理界の怪物が出てきおったーなどと絶賛されて、途中から始まる料理勝負編が延々と続く。なお、途中で飽きたのかカレーを作っている最中に村長が「ウコン」と言ったところで話は途切れている。

 これ、俺の知っている小説と違う。
 素直にそう言いたかったのだが、本能が「絶対にそれは言うな!」と耳元で絶叫してくる。ちょっと頭が疲れているのだろうが、幻影の俺は死にたいのかと血走った目で叫んでいるし、あえて逆を行くような勇気は無い。
 だけど褒めるとっかかりさえ掴めないんだ。一休さんを呼んできてと心の底から叫びたかったし泣きたかった。

 だがしかし、俺は大人だ。社会人だ。期待のまなざしで見つめられたら、それ以上の言葉を与えるべきなんだ。
 そう決意をして、そわそわしながら覗き込んでいる千夏ちゃんに振り返る。

「良いと思う。主人公の立ち位置が定まっている。ただ料理の描写がいまひとつで、まず料理を勉強すべきかなと思ったよ。千夏ちゃんはたぶん料理をしたことが無いね」
「うっ! やっぱり分かっちゃうんだー。文章って文字だからごまかせるかと思ったけど、読者に伝わっちゃうんだね」
「うん、そこは俺と一緒に料理をすれば大丈夫だと思う。さっき作った炒飯はどうだった?」
「あれはずるい! びっくりして動けなくなっちゃったじゃん! びびって電気が走ったのは生まれて初めてだよ!」

 うんうん、そうかそうかと俺はようやく笑顔を見せることができた。
 褒めて欲しいところを押さえ、かつ話題を横に逸らせたんだ。炒飯なんて比較にならないほどの出来栄えだろう。先ほど見えた俺の幻想も親指を立てて褒めたたえてくれていた。
 ああ、俺はやった、やったぞー!



 あー、疲れた。
 どさっとベッドに転がった。
 親御さんが帰ってくる前に千夏ちゃんの部屋を出て、時計を見あげれば7時である。貴重な週末を使って成し遂げたのは、来週また千夏ちゃんの小説らしき何かを読むという拷問……じゃない、約束だ。

 帰り間際、くいっと袖を引かれた。
 玄関からの明かりで表情はよく見えなかったけど、そのとき囁いてきた「また来週、きて」という声が耳から離れない。不意に女の子だと感じたし、姉の持つ色気を彼女からも感じたんだ。

 あの子なー、可愛いんだけどなー。
 美少女小説家とかいるんだなーとか思うけど、肝心の文章がひどいんだよー。んもー、ギャップがすごくて疲れ果てちゃったよー。

 風呂に入る気力も無い。
 もぞもぞと服を脱いで床に放ると、枕の位置を確かめて布団のなかを進む。まず睡眠をとらなければならないと本能が伝えてきたんだ。

 シャツとボクサーパンツだけになって、少し呼吸が楽になった。あとは気持ちよく眠るだけだ。
 そう思っていたときに、きいぃと戸が開いていった。

 枕元の間接照明きりで部屋は暗い。たぶん弟だろうけど「どうしたの」という問いかけも発せられない。懸命に頭を起こすと、そこにはバスタオルを巻いた姿がかすかに見えた。
 まさかと思う。
 足音をたてて近づいてくる姿。薄暗い照明から照らし出されるのは、谷間に線を刻む乳房であり、覆いきれないのかあふれ出しているようにさえ感じる。

 ふううーと彼女は息を吐いて、そして枕元にギシッと腕をついてきた。

「もう、くたくた。隣に寝かせて」

 聞き慣れたその声は茜ちゃんのものだった。
 ただし俺が思い描いていた清純なイメージより、もっとずっと大人っぽい声だ。唇が触れてしまいそうな距離で囁かれたら、霧が晴れたように眠気は吹き飛ぶ。

 髪の毛を撫でられて、ちゅ、と唇に触れられる。脳天から爪先まで電流が走るような衝撃は、しかし序章に過ぎなかったかもしれない。
 すぐに離れてゆく唇に戸惑いつつ、尚も彼女は髪を撫でてくる。薄暗くて表情は見えなくて「はやく」と囁く声が聞こえた。

 ああ、と呻き声を俺は出して、ずりっと後ろ側に退く。今なら弟と間違えていると告白できたのに、気づいたら布団のなかに裸体を滑り込ませていた。

 どきん、どきん、と心臓が音をたてる。すぐ目の前にはちきれそうな胸があり、かろうじてバスタオルが支えている状態だ。驚かないわけがない。
 んう、と彼女は呻いて布団のなかで膝を乗せてきた。素足同士が触れあうと、吸いつくようにすべすべな肌だと教えてくれる。撫でるともっと気持ちいい思いができるとも。

 ごっく、と喉が鳴った。
 すうすう響く呼吸と、触れ合ってしまいそうな彼女の唇。化粧を落としてもなお鮮やかに色づいており、それは色素の乏しい肌が魅せてくる美しさだった。
 腕を枕にされて、触れてくる髪はまだ湿り気を帯びている。
 どうする。どうするんだ。俺は好きで好きでたまらない女性を前にどうしたいんだ。

 彼女の肩に触れ、なだらかな鎖骨を眺め、そして俺はゆっくりと「したいこと」をし始めた。交差するかたちで唇に触れ、ふかっと柔らかに包まれて絶頂しそうだった。鼻腔の奥まで甘い彼女の香りを吸い込んで、しかしそれだけでなく彼女は唇を開き、ねろんっと舐めてくれた。

 ぞっ、ぞぞっ、と腰に電流が走って止まらない。
 首筋を撫でながら俺も舌を出して、れろろと円を描いて唾液を混ぜ合う。すぐに勃起が始まって、それはバスタオルの下から潜りこむ形で彼女の腹部に触れた。そこは風呂上がりというだけじゃない湿度があり、ぬくぬくしていた。

「あン、もう……」

 少なからず彼女を興奮させたらしい。そうと気づいたのはシャツを引かれ、もっと深くまで唇を合わせてきたからだ。かぽりと隙間なく触れ合い、るろろと口内をなめまわしてくる。そして腹部を上下に動かして、微かな刺激を俺のアレに与えてくる。

 すごかった。彼女の味が押し寄せてきて、ぬるぬるの唾液が入ってくるんだ。逃したくなくて華奢な背筋をしっかりと抱き支えると、胸元の脇にバスタオルの結び目があると気づいた。

 引き返せるだろうか。
 それともとっくに迷宮の奥深くへ入り込んでおり、もう帰り道など探せないのではないか?
 なぜなら初めましてと挨拶をされた瞬間から、彼女の顔をひとときも忘れられないんだ。もっと知りたいし、彼女の知らない顔を……見てみたい。

 ぞくぞくという背筋に走るものを感じながら結び目を解く。するとあっけなく布切れがほどけ、そして谷間の先にあるものを見せてくれた。

 薄暗い間接照明のなかであろうと色鮮やかな乳頭、そして惚れ惚れするほど美しく弧を描いた乳房を。
 理性の決壊する音を感じながら俺は唇を離し、そして美しさの象徴である乳頭へと顔を寄せてゆく。

 あっン、という艶めかしい喘ぎ声が薄暗い部屋に響いた。
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