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Stage1_A

アタラシイカイシャ_2

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 「……美味しい、ですね」
「だろ? 俺のお気に入りなんだ」

 歩き疲れた身体にカフェラテが染みる。オジサンの言った通り、ヘーゼルナッツの香りが口いっぱいに甘さと共に広がって、改は思わず頬を綻ばせた。

「……ウチの求人内容、なにで見た?」
「コンビニに置いてあった、求人誌で見ました」
「あれ滅多に出さないからねぇ。改君、ほぼ確定よ、面接合格」
「えっ!? まだ面接していませんよ……?」
「あの求人にあたって、読んで面接に来ようと連絡した時点で、ほぼほぼ確定なのよ、合格」
「そう、なんですか……?」
「運は強いほうが良いからねぇ。それに、どう見てもあの求人、おかしかったでしょ?」
「……正直言うと、怪しかった、です」
「だよねぇ。――それでも、改君は面接に来た。それって、運命だと思わない?」

 そう言ってにっこりと笑う嘉壱の視線に、改の心臓はドクリと音を立てた。――その通りなのだ。普通だったら、あんな怪しい求人に手は出さないだろう。なにか危ない仕事が待っているか、大嘘が描かれた誇張広告の可能性が高い。それなのに面接へくる人間といえば――

「ほぼ確定しているぶん、入社までの決定権は改君に委ねられているからね。むしろ、面接されるのは俺たちAngeliesの人間のほうだと思ってるよ。気に入らなければ、やっぱり一緒に仕事はできないだろうし、こちらとしても、会社全体の士気が下がってしまっては、やっぱりよくないからね」
「入社しない人も、いるんですか……?」
「うーん、本当は秘密なんだけど。今まで面接をしてきて、何人かいるにはいたよ。多いのは、途中リタイヤかな」
「リタイヤ……難しい仕事なのでしょうか?」
「仕事自体はすこぶる簡単だよ! でも、苦手な人は苦手だろうし、めちゃくちゃ人は選ぶと思ってはいるね。改君が適応することを祈ってもいるけど。ウチ、試用期間ひと月なんだけど、一応そのまま雇用希望の場合は試験を設けていてさ。それに合格できなくて、って感じ。そもそも、試験を受けずに辞めていく人もいるしね」
「試験……そうなんですね」
「あっ、あー。ごめん、いきなりこんな話したらハードル上がっちゃうよね。こちらとしては、試験といっても雇用されやすいようにフォローするつもりだし、まだ改君は入社前なんだから、気にしなくて良いよ」

 慌てて取り繕うように話す嘉壱が、まるで悪いことがバレて言い訳をする子供のように見えて、改は思わず笑ってしまった。そんな改の姿を見て、嘉壱もほっとしたように笑う。

「改君、喋りやすくて助かったよ。そこそこ道のりもあるからさ。無言だと気まずいときもあって。――着いたよ」
「……わぁ」

 声が漏れる。案内されたのは町の中心地にそびえ立つビルだった。壁の向こうから、福音駅からでも確認できたあのビルだ。ビルというよりは、塔、といったほうが正しいかもしれない。

「……すごい?」
「すごい、です」
「……このビルは、君が面接を受けようとしているAngeliesの本社。福音駅周辺にも、この町周辺にも、こんなに高い建物はないからね。みんな、【バベルの塔】って呼んでるよ。面白いよね」
「バベルの塔……」

 改は『なるほど』と感心していた。確かに、このビルは遠くからでも非常に目立っていて、周りに似たような建物も、低いビルさえも建っていない。このビルだけが、まるで空へ挑むかのように、高く高く上へとその背を伸ばしていた。

「行こうか」
「はっ、はい……!」

 背筋を伸ばしてグッと力を込めた。久し振りの面接に、改の心音が早くなる。ほぼ合格だと言われたし、なんならAngelies側が面接を受けるようなもの、とも言われた。しかし、それはあくまでも改をリラックスさせるため、もしくは油断させるための言葉に過ぎないかもしれないと、そう思っていた。飄々とした嘉壱の空気に流されないように、改は仮面を被るように一度目を閉じると、光を灯した目を再度開いた。

 エレベーターホールにちょうど到着した一機へと二人は乗り込んだ。

「えーっと。最上階。ここに行くよ」
「最上階には、なにが?」
「社長室」
「社長室!?」
「俺担当だけど、担当の面接はここまでの移動時間だけなんだよね。それが一次面接。そして、改君は合格。言ったでしょ? ほぼ決まってるって。一次面接を突破したあとは、そのまま二次面接……あー、最終面接ね。社長とご対面」
「いきなり、ですね」
「不測の事態も多いからね、俺たちの仕事。……俺は、改君と一緒に仕事ができたら良いなと思っているよ」
「嘉壱さん……」
「みんな、結構俺のこと名前で呼ぶの嫌がるんだよね。中には呼び捨てで呼んできた子もいるけど。だから、嬉しかったよ」

 エレベーターが開くと、目の前に広がったのは周辺の山と街並み。そして、青い空。大きな窓から素晴らしい景色が広がっていることがわかる。

「こっちだよ」

 嘉壱について行った改の前に、大きな扉が現れた。木製ではない。ステンレスかなにかだろうか。

 ――コン、コン、コン。

「――どうぞ」

 ガチャッ。

 ドアのノックオンに呼応して、中から声が聞こえた。恐らく、女性の声。そして、なにかが開く音。

「――さぁ、いってらっしゃい。俺はここで、待っているから。見定めてきて、ウチの社長を。会社を。検討を祈るよ」
「嘉壱さん、ありがとうございました。……いってきます!」

 改がドアノブに手をかける。ゆっくりと回して、社長室のドアを開けた。

「失礼します!」
「――やあ、いらっしゃい」
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