上 下
8 / 56
Stage1_A

アタラシイカイシャ_3

しおりを挟む

 女性にしては低めの声だなと、そんなどうでも良いことを改は考えていた。面接には関係ない。関係ないからこそ、考えてしまうのだが。

「灰根改です。本日は、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。私は入江三律-いりえみのり-だ。――さぁ、座ってくれ」
「し、失礼します」

 にこりと笑った三律の顔は、すこぶる美人だった。それに、若い。まだ二十代前半くらいだろう。肌は白く、非常に整った顔立ちをしている。スタイルも良く、身長もそれなりにあるように見えた。

「そんなに緊張しないでくれ。肩書は社長だが、みんなと同じような仕事もしているんだ。創立したのは私だからね。難しいことはしないよ。早速だけど、改君はどうしてウチの求人に応募したんだい? ……あぁ、こう、上辺みたいなのは良いから。自分ではくだらないと感じるような理由でも構わないから、素直に思ったことを話してくれないか?」
「え……っと……」

 三律の言う通り、そのまま話して良いものなのか。改は悩んだ。そう言っておいて、実は正直に話したらダメなんてこともあるかもしれない。むしろ、世間ではそちらのほうが多いのではないだろうか。甘い言葉に、思考が乱されてしまう。

「文字通り受け取ってくれて構わないよ。建前というものも大事だが、我が社では素直なほうがこちらもありがたいからね」
「……っ……待遇です!」
「……おぉ」

 ギュッと目を閉じて、改はそう叫んだ。間違いなく、この会社を選んだ理由は待遇だった。給与も高く、寮もついている。自社ビルとは、このバベルの塔のことだろう。なんでも揃っているし、自由に使えると書いてあった。それが本当なら、是非ここで生活したい。仕事がしたい。多少酷で辛かったとしても、きっと我慢できる。上司がクズでも、我慢できる。笑われるかもしれないが、これが本当に改の志望動機だった。

「あははっ! 良いねぇ。ありがとう。ちなみに、待遇を見たということは、求人誌の広告を見たんだね? 大丈夫。あの内容に、嘘偽りはないよ」
「本当に……?」
「あぁ、本当に。神に誓っても良い。……仕事内容は、確認したかい?」
「確認はしました、が、ゲームに関すること、と。こちらは待遇よりも、その、大雑把というかなんというか……。ザックリとした書きかただったと思います」
「そうなんだよねぇ。あんまりハッキリは書けなくてねぇ」
「……なぜ、でしょう?」
「なぜだと思う?」
「……」
「これは、最後にしようか。ゲームと書いてあって抵抗がないのなら、改君は普段ゲームをする人間なのかな?」
「はい、ゲームは良くします。……今はあまりできていませんが。けれど、子どものころから大好きですね」
「ほほう。どんなゲームをよくプレイするのかい?」
「多いのはホラーゲーム、アクションゲーム、推理ゲーム……。脱出ゲームも好きですね」
「なるほど。そうか。……ホラーゲームは、どんな作品が好きなんだ?」
「ゾンビに幽霊、怪しい屋敷から逃げ出すとか……。あの、ここもきちんとお話したほうが……?」
「好きなゲームは大きいよ。我が社にとって。話してくれると助かるね。できれば、理由も」
「わかりました。……あまり、公には言えないというか。死にそうな子たちを救い出したり、逆にトラップを仕掛けて殺したり。謎を解いて死の運命から逃れたり、そういうのが多いです。それに死にゲー……ってやつですかね。死んで覚えて当たり前……なアクションゲームとか。自分では、その、割とグロ耐性は強いと思っていて。映画もそういうものを好んで見ることもありますし、漫画や小説も鬱々とした話や救われない、後味の悪いものが好きで……。部屋を真っ暗にして、ヘッドフォンをして、ジッと画面に集中してプレイできる。人間や得体のしれないモノの怖さや世界の狂気を感じられる、そんなゲームが好きです。絶望しかないのに、有るはずのない光を目指して必死にもがいたりしているのも好きですね。悪夢から覚めない、その中で何度も死ぬ、とか。まぁ、愛着を持っているキャラクターよりは、クソみたいなやつでクソみたいなことをしてきたやつが無残に死んでいくほうが、グッと心は掴まれますね。一種のカタルシスと言いますか。なんとも言えない高揚感を得られるので。あまり、善人には死んでほしくないんですよ。どちらかと言えば、助けたい。そのために悪人は別に、死んでも良いかなって。バックグラウンドが複雑だと、難しいんですけどね。仕方なく悪人に……誰かを、なにかを守るために……ってパターンも当然ありますし。あとは、死に様は多種多様なほうが良い。非現実な死にかたでも、現実的な死にかたでも。興味を持って、思わず本は買っちゃいました。例えば、中世の拷問方法や死刑集、実際にあった事件のまとめに殺害方法。未解決事件や世界の謎。昔の童話遊び歌。にこういうのって国外のものを取り上げることが多いと思うんですけど、日本の事件や拷問もなかなかえぐいんですよ。……あっ、す、すみません……。本題からずれてしまいましたね。うわぁ、しまった、語ってしまった……。と、とにかく。指定が付くなら十八禁とか二十禁とか、そういうゲームが好き、です……」

 思わず熱く語ってしまい、改はハッとして三律のほうを見た。呆れられたかと思ったが、三律はふんふんと真面目に改の話を聞いている。

「いや、それくらいの熱意があったほうが良い。……そうか、グロ耐性か。あったほうが良いね。一応、エロ耐性もあったほうが良いかもしれないけど。そっちはどう?」
「えっ、エロ、ですか?」
「あぁ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

【実話】お祓いで除霊しに行ったら死にそうになった話

あけぼし
ホラー
今まで頼まれた除霊の中で、危険度が高く怖かったものについて綴ります。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

人形の輪舞曲(ロンド)

美汐
ホラー
オカルト研究同好会の誠二は、ドSだけど美人の幼なじみーーミナミとともに動く人形の噂を調査することになった。 その調査の最中、ある中学生の女の子の異常な様子に遭遇することに。そして真相を探っていくうちに、出会った美少女。彼女と人形はなにか関係があるのか。 やがて誠二にも人形の魔の手が迫り来る――。 ※第1回ホラー・ミステリー小説大賞読者賞受賞作品

呪いの〇〇

金城sora
ホラー
皆さん、デパートのマネキンの寿命っ知ってますか? 大体10~15年程だそうです。 寂れたデパートの服飾フロア・・・ そこに一体の20年以上使われているのに異様に綺麗なマネキンがあった・・・ そう・・・ 霊の宿ったマネキンが・・・ この物語はそのマネキンに宿った霊の物語。

GATEKEEPERS  四神奇譚

ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。 ゲートキーパーって知ってる? 少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。

処理中です...