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身を切る代償
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フィズに連れられた烈たちはボンド城から2万アージュほど離れた、小さな砦に到着した。傍から見ると異様に静かなその砦の中には幾人もの兵士たちが、声を押し殺して潜んでいた。これはどうしたことかと烈たちが驚いていると、砦の奥から明らかに格が違うと分かる鎧を着こんだ壮年の男がこちらへと駆け寄ってきた。男はミアのところまで駆け足で寄ってくると、突如として膝まずいた。
「お迎えもできず申し訳ありませんでした、殿下。私、ミッテラン公爵の縁戚にあたり、現在は城にて包囲されている当主に変わりまして、公爵家一同を代理として指揮しております、バドワンと申すものであります」
ミアはその名前を聞き思い当たる節があったようだった。
「おお! バドワン侯爵と言えば、確か先代公爵が敵軍に追い詰められたとき、寡兵で退路を開いた豪のものではないか」
「殿下に名前を憶えていただいているとは汗顔の極みにございます。ですが、今はこの難局に対してどう乗り切るかを相談させていただきたく」
「ああ。勿論だとも。しかし、だとするとここにいるのは候の麾下のものたちか?」
「いえ。それだけではなく、ここにいる兵三千はミッテラン公爵家の、城にいる以外の兵の総勢でございます。その他縁戚の領主軍はボンド城を包囲している間に自領を荒らされることを防ぐために、ここ一帯を守ることができるよう、さらに大きな円となるよう配置しております」
「なるほど。懸命だな。勝っても負けても撤退する軍がどう動くか分からない以上、この領地一帯を守れるようにしておくということか」
「はは。御慧眼恐れ入ります」
「世辞はいい。それよりここに私たちを呼んだということはあの軍勢を打倒す覚悟があると思っていいんだな?」
ミアに言われて、バドワンは悲痛な表情で拳を血がにじむほど、握りしめた。
「殿下。我々はドイエベルンの公爵家として、王家に恥じないよう仕えてきたつもりです」
「無論だとも。ミッテラン公爵家といえば、三大公爵家に勝るとも劣らない忠臣だ」
「ありがたきお言葉です。しかし、その結果がこれです!」
バドワンが大地をがんっと叩いた。
「先祖代々守り抜いてきた土地を、他国の餌のように扱われ、婚約者殿は意に沿わぬ戦に駆り出され、当主は敵の軍勢に包囲されております! こんなことが許されていいわけがありません!」
「その通りだ。今回の行為は自ら身を裂く行為に等しい。兄ドネルもペルセウスも血迷ったとしか思えん」
「おっしゃるとおりであります! ミッテラン家はハイデッカー家と共に中立の立場をとりましたが、もう我慢なりません。あの奸臣ペルセウスめを打倒す戦いに、我々も参加させてください! 騎士の誇りというものをみせてやりましょうぞ!」
バドワンが言い終わると、ミアがすっと片手を彼に差し伸べた。バドワンは涙ぐみながらその手を取り、この戦いに身を投じることを改めて誓った。
「お迎えもできず申し訳ありませんでした、殿下。私、ミッテラン公爵の縁戚にあたり、現在は城にて包囲されている当主に変わりまして、公爵家一同を代理として指揮しております、バドワンと申すものであります」
ミアはその名前を聞き思い当たる節があったようだった。
「おお! バドワン侯爵と言えば、確か先代公爵が敵軍に追い詰められたとき、寡兵で退路を開いた豪のものではないか」
「殿下に名前を憶えていただいているとは汗顔の極みにございます。ですが、今はこの難局に対してどう乗り切るかを相談させていただきたく」
「ああ。勿論だとも。しかし、だとするとここにいるのは候の麾下のものたちか?」
「いえ。それだけではなく、ここにいる兵三千はミッテラン公爵家の、城にいる以外の兵の総勢でございます。その他縁戚の領主軍はボンド城を包囲している間に自領を荒らされることを防ぐために、ここ一帯を守ることができるよう、さらに大きな円となるよう配置しております」
「なるほど。懸命だな。勝っても負けても撤退する軍がどう動くか分からない以上、この領地一帯を守れるようにしておくということか」
「はは。御慧眼恐れ入ります」
「世辞はいい。それよりここに私たちを呼んだということはあの軍勢を打倒す覚悟があると思っていいんだな?」
ミアに言われて、バドワンは悲痛な表情で拳を血がにじむほど、握りしめた。
「殿下。我々はドイエベルンの公爵家として、王家に恥じないよう仕えてきたつもりです」
「無論だとも。ミッテラン公爵家といえば、三大公爵家に勝るとも劣らない忠臣だ」
「ありがたきお言葉です。しかし、その結果がこれです!」
バドワンが大地をがんっと叩いた。
「先祖代々守り抜いてきた土地を、他国の餌のように扱われ、婚約者殿は意に沿わぬ戦に駆り出され、当主は敵の軍勢に包囲されております! こんなことが許されていいわけがありません!」
「その通りだ。今回の行為は自ら身を裂く行為に等しい。兄ドネルもペルセウスも血迷ったとしか思えん」
「おっしゃるとおりであります! ミッテラン家はハイデッカー家と共に中立の立場をとりましたが、もう我慢なりません。あの奸臣ペルセウスめを打倒す戦いに、我々も参加させてください! 騎士の誇りというものをみせてやりましょうぞ!」
バドワンが言い終わると、ミアがすっと片手を彼に差し伸べた。バドワンは涙ぐみながらその手を取り、この戦いに身を投じることを改めて誓った。
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