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烈の剣
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メラメラと燃え盛るかがり火に照らされて、ミアの顔が暗闇の中からくっきりと浮かび上がる。美しい、しかし強烈な殺気を醸し出す笑顔は、山賊たちの足を徐々に下がらせた。
「おい、女。てめぇがこいつらをやったのか?」
ダンガが地面に倒れ伏している、子分たちを指さしながら言った。
ミアが獰猛な笑顔をさらに濃くする。金色の目が爛々と光始めた。
「そうだ」
ダンガが冷や汗とともにごくりと喉を鳴らした。
「......なぜ急にこんなことをしやがる」
「こんなこととは?」
「急に表れて子分どもを何人もやることさ。てめぇのいいのでもこいつらが殺したのか?」
「いや? 単純に不快だったからだ」
「不快だと? それで単身こんなところまで来て何人も殺したってのか?」
「ああ。私はなるべく人生を楽しく生きたいと思っているのでね。お前らみたいなのが視界の端にいられると迷惑なんだよ」
「ふざけるなよ女ぁ」
音もなく殺された人数と、この強烈な殺気から、相手が只者ではないとダンガは察していた。
(だが負けるわけがねぇ。女1人、わしらはまだ10人以上いるんだ)
ダンガは腰の山刀をギラリと抜いた。
「女ぁ。もうただじゃすまさねぇぞ。足の腱を切って、死ぬまで犯し続けやるからな」
この異常な相手にもまったくひるまない親分に、子分たちも勇気をもらう。全員山刀や弓を構えて親分からの号令を待つ態勢になった。
「下品な男だ。いいからさっさとかかってこい」
「てめぇら! やっちまえ!」
前列にいた子分たちが血走った目で一斉にかかっていた。
「馬鹿なやつらだ」
ミアは足を一歩下げて、大剣を地面と水平に、後方に下げながらためを作った。ミアの腕が、背中が、腰の筋肉がびきびきときしむ。
「はあっ!」
そしてそのためを一気に解き放った。横殴りに振るわれた大剣は、範囲に入ってきたすべてのものを、木も朽ち果てた建物も、そして人間も両断して飲み込んでいく。
「ぎゃああああ」
その光景を見た子分たちが一気に青ざめる。その中でダンガだけは冷静だった。
「近づくな。生け捕りは止めだ! 矢で射殺せ!」
子分たちは親分の言葉に従うしかない。この状況ですがれるものはそれしかないのだ。両側に控えていた子分たちが矢をつがえようとしたそのときであった。
「ぐあっ!」
片側の子分たちが血を流して倒れる。ダンガの目は黒い影と白刃をとらえていた。
「くそっ! 仲間がいやがったのか!」
ダンガは自分の迂闊さを呪った。あまりに異常な光景にその可能性を頭から消していたのだ。
そうこうしている間にもミアがもう片方の弓を構えた子分たちに、肉食獣のごとく襲い掛かる。
「うわあああ!」
「助けてえ!」
場は既に混乱していた。子分たちは我先にと逃げようとする。
「落ち着け! お前ら全員であの女にいけ! 俺は後から出てきたやつをやる!」
(敵はそれでも二人なんだ。残ったやつらで十分に勝てる)
山刀を片手に、ダンガは黒い影に走った。
黒い影は周辺にいた山賊を倒したその勢いのまま、こちらへ突っ込んでくる。
(若いな。男か。それにでけぇ。手際もいいから相当使うな。だが細ぇ。俺の力で吹っ飛ばしてやる)
ダンガは力いっぱい山刀を、その影の首筋めがけて振ろうと間合いを詰めた。
だが、その影は一瞬体勢を低くしたと思ったら、物凄い勢いで突っ込んできた。
「何!?」
ダンガは意表を突かれた。
(まさかあっちの方から向かってくるとは!?)
黒い影の白刃が下から、ダンガの顔めがけて突っ込んでくる。ダンガは辛うじて自分と凶刃の間に山刀を入れるので精一杯だった。
「ぐあっ!!?」
ダンガは刀ごと弾かれ、体が浮きかけていた。
(こいつ! なんて力だ)
優男だと見ていた男は膂力もダンガを上回る勢いだった。
黒い影の剣が右に左に、ダンガの身を切り刻む。ダンガは最初に体勢を崩していたこともあり、守勢に回らざるをえなかった。
「く、くそっ!!」
子分たちに助けを求めようにも、子分たちの悲鳴がさっきからひっきりなしに聞こえる。おそらくミアに狩られているのであろう。自分の力でどうにかするしかない。ダンガは視界の端に篝火を見ていた。
「これでも食らえ!!」
ダンガは篝火の台ごと、男に向かって投げつけた。男は腕で目をかばう。
「そこだぁ!!」
隙を見つけたダンガは山刀を振るった。必勝の、逆転の一手だった。
(勝った!!)
ダンガは勝利を確信してにやりと笑う。山刀は確実に、男をとらえた。肉を斬る感触すらなく、山刀は男を袈裟懸けに斬った......はずだった。
ダンガの目がとらえていた男の姿がぐにゃりとゆがむ。
「何!?」
男の姿はダンガの目が写していた残像だった。すさまじい速さで動いた男は一瞬にしてダンガの横、視界の死角に回っていたいた。
「くそっ!」
傍らの殺気に気付いたダンガは急いで山刀を横に振るおうとした。しかし、時すでに遅し。男は長剣でがきぃんと山刀を吹き飛ばし、ダンガに尻もちをつかせた。
あたりに静寂が訪れる。聞こえるのは篝火がぱちぱちと燃える音だけだった。
「やはり、私の見込んだとおりだったな」
ミアがのしのしと近づいてくる。どうやら子分たちはすべて倒されたらしい。ミアの視線の先にいたのは、どうにも不満そうな顔をした烈だった。
「おい、女。てめぇがこいつらをやったのか?」
ダンガが地面に倒れ伏している、子分たちを指さしながら言った。
ミアが獰猛な笑顔をさらに濃くする。金色の目が爛々と光始めた。
「そうだ」
ダンガが冷や汗とともにごくりと喉を鳴らした。
「......なぜ急にこんなことをしやがる」
「こんなこととは?」
「急に表れて子分どもを何人もやることさ。てめぇのいいのでもこいつらが殺したのか?」
「いや? 単純に不快だったからだ」
「不快だと? それで単身こんなところまで来て何人も殺したってのか?」
「ああ。私はなるべく人生を楽しく生きたいと思っているのでね。お前らみたいなのが視界の端にいられると迷惑なんだよ」
「ふざけるなよ女ぁ」
音もなく殺された人数と、この強烈な殺気から、相手が只者ではないとダンガは察していた。
(だが負けるわけがねぇ。女1人、わしらはまだ10人以上いるんだ)
ダンガは腰の山刀をギラリと抜いた。
「女ぁ。もうただじゃすまさねぇぞ。足の腱を切って、死ぬまで犯し続けやるからな」
この異常な相手にもまったくひるまない親分に、子分たちも勇気をもらう。全員山刀や弓を構えて親分からの号令を待つ態勢になった。
「下品な男だ。いいからさっさとかかってこい」
「てめぇら! やっちまえ!」
前列にいた子分たちが血走った目で一斉にかかっていた。
「馬鹿なやつらだ」
ミアは足を一歩下げて、大剣を地面と水平に、後方に下げながらためを作った。ミアの腕が、背中が、腰の筋肉がびきびきときしむ。
「はあっ!」
そしてそのためを一気に解き放った。横殴りに振るわれた大剣は、範囲に入ってきたすべてのものを、木も朽ち果てた建物も、そして人間も両断して飲み込んでいく。
「ぎゃああああ」
その光景を見た子分たちが一気に青ざめる。その中でダンガだけは冷静だった。
「近づくな。生け捕りは止めだ! 矢で射殺せ!」
子分たちは親分の言葉に従うしかない。この状況ですがれるものはそれしかないのだ。両側に控えていた子分たちが矢をつがえようとしたそのときであった。
「ぐあっ!」
片側の子分たちが血を流して倒れる。ダンガの目は黒い影と白刃をとらえていた。
「くそっ! 仲間がいやがったのか!」
ダンガは自分の迂闊さを呪った。あまりに異常な光景にその可能性を頭から消していたのだ。
そうこうしている間にもミアがもう片方の弓を構えた子分たちに、肉食獣のごとく襲い掛かる。
「うわあああ!」
「助けてえ!」
場は既に混乱していた。子分たちは我先にと逃げようとする。
「落ち着け! お前ら全員であの女にいけ! 俺は後から出てきたやつをやる!」
(敵はそれでも二人なんだ。残ったやつらで十分に勝てる)
山刀を片手に、ダンガは黒い影に走った。
黒い影は周辺にいた山賊を倒したその勢いのまま、こちらへ突っ込んでくる。
(若いな。男か。それにでけぇ。手際もいいから相当使うな。だが細ぇ。俺の力で吹っ飛ばしてやる)
ダンガは力いっぱい山刀を、その影の首筋めがけて振ろうと間合いを詰めた。
だが、その影は一瞬体勢を低くしたと思ったら、物凄い勢いで突っ込んできた。
「何!?」
ダンガは意表を突かれた。
(まさかあっちの方から向かってくるとは!?)
黒い影の白刃が下から、ダンガの顔めがけて突っ込んでくる。ダンガは辛うじて自分と凶刃の間に山刀を入れるので精一杯だった。
「ぐあっ!!?」
ダンガは刀ごと弾かれ、体が浮きかけていた。
(こいつ! なんて力だ)
優男だと見ていた男は膂力もダンガを上回る勢いだった。
黒い影の剣が右に左に、ダンガの身を切り刻む。ダンガは最初に体勢を崩していたこともあり、守勢に回らざるをえなかった。
「く、くそっ!!」
子分たちに助けを求めようにも、子分たちの悲鳴がさっきからひっきりなしに聞こえる。おそらくミアに狩られているのであろう。自分の力でどうにかするしかない。ダンガは視界の端に篝火を見ていた。
「これでも食らえ!!」
ダンガは篝火の台ごと、男に向かって投げつけた。男は腕で目をかばう。
「そこだぁ!!」
隙を見つけたダンガは山刀を振るった。必勝の、逆転の一手だった。
(勝った!!)
ダンガは勝利を確信してにやりと笑う。山刀は確実に、男をとらえた。肉を斬る感触すらなく、山刀は男を袈裟懸けに斬った......はずだった。
ダンガの目がとらえていた男の姿がぐにゃりとゆがむ。
「何!?」
男の姿はダンガの目が写していた残像だった。すさまじい速さで動いた男は一瞬にしてダンガの横、視界の死角に回っていたいた。
「くそっ!」
傍らの殺気に気付いたダンガは急いで山刀を横に振るおうとした。しかし、時すでに遅し。男は長剣でがきぃんと山刀を吹き飛ばし、ダンガに尻もちをつかせた。
あたりに静寂が訪れる。聞こえるのは篝火がぱちぱちと燃える音だけだった。
「やはり、私の見込んだとおりだったな」
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