異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

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小麦頭の男

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 ミアはニヤニヤしながら烈を見ていた。

「やはり私の見込んだ通りだったな。すさまじい剣だ」

「......」

 烈はそれに対して何も答えない。ただ、ため息をついて剣を鞘に戻した。

「さてと、あとは縛ったこいつの始末をどうするかだが......」

「うぐっ、くそ女め......」

 大地に縛られたまま、身を投げ出されたダンガは毒づいた。これだけの戦力差があって立った二人にやられるとは、今でも信じられなかった。

「何者なんだてめえら」

 ダンガの問いにミアは肩をすくめる。

「ただの戦士さ。言っただろ? 気に入らなかったから潰しに来たんだ」

「ふざけるな。そんなことで、命を投げ出す馬鹿がいるかよ」

「いるんだな、ここに......それよりだ」

 ミアは腰に差していた小刀を抜き、ダンガの喉にぴたりと当てる。

「お前らの黒幕は誰だ?」

「!?」

 ダンガは無言で驚いた。なぜそんな答えに至ったのか、訳が分からなかった。

「黒幕? いるのか?」

 烈がミアに聞く。

「ああ、こいつらただの山賊にしては装備が整いすぎている。誰か出資している奴がいるんだろう」

「......てめえら、もしや密葬部隊の人間か?」

「密葬部隊?」

 またも烈がミアに疑問の目線を送った。ミアが考え込むように答える。

「確か、バリ王国軍の暗部を一手に担う秘密組織だったか? 密偵、暗殺何でもござれの......本当にいたのか?」

「けっ、知るかよ。てめえらがそうなんじゃねえのか?」

「はっはっは! 戦士だと言っているだろう? というか......」

 ミアはダンガに顔をぐっと近づける。

「こんな大柄の美人がそんなものに似つかわしいと思うか?」

「ぐっ......」

 確かに、ミアは目立ってしょうがない。およそ、密偵などはできないであろう。

「第一にちまちましたのは性に合わん。そういうのはな......そこにいるようなのができるんだ」

 ミアは建物の陰に目線を移した。烈ももちろん気づいていた。気配を巧妙に消し、息をひそめているが、そこに誰かいることを。

「あらら、気づかれてたならしょうがねえや」

 そうして建物の陰から出てきたのは、ダンガに色々聞いてきていた新参者の子分だった。先ほどまでの小物感は嘘のように霧散し、全身黒づくめの服装と相まって、今は闇夜から突如として襲い掛かる、黒豹のような雰囲気を放っている。

「意外と二枚目だな」

「この男を見ての感想はそれなのか?」

「仕方あるまい。見たまんまを言っているのだから」

「それにしたって、もう少し警戒をするべきだろう?」

襲い掛かってくる様子もないからな。無害だ」

「......まあミアがそれでいいならいいが......」

「くっくっくっ、あんたら面白いな」

 二人のやり取りを小麦色の頭をした男が遮った。

「まあいいた。確かに俺の目的はあんたらじゃなくて、そいつなんでな」

「......新参、てめえ、騙してやがったのか」

「女子供にまで手を出すやつより、ましだろう? それより......」

 今度は小麦色の頭の男がダンガに顔を近づける。

「俺の正体は言わなくてもわかるだろう? お前の黒幕と、俺のバックに控えてるやつら、どちらが怖い?」

「ぐっ......」

 ダンガは縛り上げられながら、蛇に睨まれた蛙のようになった。目に見えて冷や汗が吹き出している。

「正直もう大体正体はつかめてるんだ。あと一押しほしいだけ。さあ、黒幕は誰だい?」

 男の絶対に逃がさないという目線に、ダンガは目をそらした。苦悶の声を上げていたが、すぐに観念したかのように声を絞り出した。

「シウバ伯だ......」

「何?」

 今度はミアが少し驚いた。だが烈は当然の如く誰かわからなかった。

「誰だ?」

「ここの領主だ。まさか自分に害は少ないとはいえ、領主自身が黒幕だったは」

「ははぁ、やっぱりな。くだらない話だぜ」

 ミアは小麦頭の男を向いて言った。

「それで、どうするんだ? こいつも、その領主も」

「ま、俺の仲間が今からきてこいつのことは回収するよ。元お頭も安心しな。白状したから少し罪が軽くなるようにしておいてやるよ」

「領主は?」

「そっちも、どうにかするさ」

「どうとは?」

「一番罪が軽くて死刑かな?」

「そうか。なら言うことはないさ。行くぞ、烈」

「おっとっと、待った待った」

 踵を返そうとするミアの前を素早い動きで回り込んで、小麦頭の男は進路を妨害した。

「なんだ?」

「いや、あんたらに興味がわいてね。どうだい? 観光がてら目的地があるなら案内するぜ?」

「......」

「(にこにこ)......」

 ミアの殺気を男は笑って受け流していた。大した胆力である。

「レツ、どうしたらいいと思う?」

 ミアは烈に振り返って聞いた。

「どうと言われてもな......」

 烈は男の顔を見た。相変わらず、考えていることがわからない顔でにこにこと笑っている。

「名前を聞いてもいいか?」

「おっと、俺としたことが! 悪いね。ラングってもんだ。よろしくなレツ!」

 小麦頭の男、ラングは人付き合いのよさそうな顔を浮かべる。

「ああ、俺は烈、立花烈だ」

 烈はミアの方に向き直った。

「いいと思うぞ?」

「ほう? なぜだ? だいぶ怪しいぞ?」

「まあ、腹に一物抱えてそうだけど......悪い奴じゃないんじゃないか? なんとなくだが」

「なんとなくか?」

「ああ、なんとなくだ」

 ミアはちらっとラングを見た。そしての手をラングに差し出した。

「ミア・キャンベルだ。ミアでいい」

「へえ? ずいぶんあの男を信用しているんだな」

「そうだな、昨日今日会った気はしないくらいだ」

「ん? どういうことだ?」

「後で話してやるさ。それより下山しよう。腹が減った」

「オーケー。最高にうまいもんをごちそうしてやる」

「宿屋の鹿肉シチューか?」

「ありゃ? 知ってたのか?」

 とぼけた様子のラングに苦笑しながら、ミアと烈はエベリ山を下ることにした。空はいつの間にか白ばみ、太陽がのぞこうとしていた。
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