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山道

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 翌日、ミアに先導されて、烈は山道をえっほらえっほらと登っていた。その腰には長剣がぶら下がっている。昨日不思議な世界に来たばかりなのに、今日なぜこのようになったのか、烈は己の数奇な運命に苦笑した。

 ここを出る前、ミアは烈に言った。

「さて、烈、これでいいか?」

 その手には鞘に入った長剣が握られている。

「これでいいかとは?」

「使えるのだろう?」

「......」

 烈は沈黙で答えた。その問いには答えたくなかったからだ。

「烈が何を抱えているのかは知らん。だが昨日の話を聞いただろう? あの手の連中は際限を知らん。一度要求を飲めばどんどん求めてくるだろう」

「......かもな」

「昨日は女を求めてきた。近隣の村ではまだ15の娘が襲われたらしい」

 少しだけ烈の胸にさざなみが押し寄せた。少女を傷物にするのはなんとも不愉快であった。

「そのようなことは戦士として、何より同じ女として許せん。だから手を貸してくれ」

「俺は勇者じゃないぞ?」

「かもな。だが戦士だ。目を見ればわかる。一目見た瞬間から伝わってきた。烈は私と同じ抗うことのできるものだと。魂が同じだと。だから来てくれ。私1人では倒せないかもしれんのだ」

 ミアの素直な願いに烈は圧倒された。

(何が同じだ。ミアと俺とでは全然違う)

 ミアの言葉に熱いものが込み上げてくると同時に、過去の罪科による冷たい感情が烈の中でわきおこって、烈の心を締め付ける。

 しばしの沈黙の後、烈は溜息をついて、ミアが持っている剣を受け取った。

「あまり期待するなよ? 俺に実戦の経験なんてないんだから」

「ああ、ありがとう。それでも嬉しいよ」

 ミアの笑顔に烈は頭をかいた。

(断れないな。まったく.....)

 そんなことがあって、2人は山賊の根城に向かってせっせと山を登った。

「なあ、ミア?」

「なんだ?」

「今更こんなことを言うのもあれだが、この地域にも軍がいるだろう? そちらに要請すればよかったんじゃないか?」

「いつもならな。だが今は無理だ」

「なぜ?」

「隣国の情勢が不安定でな。今国内の軍はほとんどが国境沿いに配置されている。ここの領主は臆病な男だ。数少なくなってしまった軍を自分の周りから動かすことはあるまい」

「だが、山賊をそのままにしておけば治安が乱れるだろう?」

「まあな。だが例の山賊たちは商人に手を出さないらしい。狡猾な連中だ」

「それとなんの関係が?」

「この地域の主要な税収は道路沿いの交易から成り立っているからな。領民が多少被害を受けても領主の痛手にはなりにくいというわけだ」

「そんなバカな!?」

「怒るな。まあ特権階級なぞ多かれ少なかれそんなもんさ。欲望の前には大義なぞクソ喰らえという連中の方が多い」

「何かあったのか?」

「.....いいや?」

 ミアが口を噤むと、烈はそれ以上何も聞けなかった。

 そのまましばらく歩くとミアの足が止まった。

「そろそろだな。こっちだ」

「森に入るのか? 相手に地の利を渡すことになりそうだが」

「ああ、だが正面から行けば奇襲になりえん。敵は20人程度いるようだ。ぶつかる前に少しでも数を減らしたい」

「それでこの暗い中、脇道へか.....」

「怖いか?」

「怖いさ。初めて人と切合うには難易度が高い」

「仕方あるまい。機会というものは突然やってくるものだ。出来なければ死ぬ。それだけだ」

 烈はそれも悪くないと思った。こんな自分が誰かの役に立って死ぬなら、少しは罪を軽くできるだろうかと詮無きことを考えた。

「烈」

「どうした?」

「死ぬなよ? 終わったらキスしてやる」

 そう言って、ミアは気配を消して、脇道へと入っていった。

 烈は頭を抱えた。

(まったく、アイツは.....)

 頬が熱くなるのを感じながら、烈も脇道へと入っていった。
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