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騒動
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食卓に着いた二人は、宿自慢のシチューに舌鼓を打っていた。
「上手い! 鹿の肉汁がしっかりとシチューに溶け込んでいて、それでいて臭みもない! 主人、これは最高だな!」
「あたりめえよう! うちのシチューは首都の一流レストランに出しても遜色ねえや」
宿屋の主人がミアの賛辞を受けてがっはっはと笑っている。その間、烈は無言でシチューを食べていた。心は闇に沈んでいても食べ物は美味いと感じてしまう。我ながら現金な体だと感じていた。
二人がシチューを口に運んでいる間に、夜も深くなってきたのか、村民も続々と宿屋に入って、酒盛りを始めていた。みんな酔っぱらっているのだろう。自然と声も大きくなり、様々な噂話が飛び交っている。
「今年の麦はだめだねえ。先月の雨のせいでどうにも育ちが悪いや」
「隣の村でも山賊が出たらしいぞ? ほら、あのエベリ山を根城にしているという山賊が」
「くわばら、くわばら。この村も時間の問題かね」
「領主は何もしてくれない。税金だけ取って終わりさ」
「ドイエベルンの内紛の影響でこちらにも流れ者が多くなった。治安が悪化している気がするよ」
その瞬間、ミアの気配が変わった気がした。平然とした様子でシチューを食べているが、どこか鋭くなったようだ。
「なんだ?」
ミアの顔を覗き込んでいると、ミアは片方の眉をピクリと上げて、烈に聞いてきた。
「私の顔に何かついているか?」
「いや、なんでもない」
「そうか......」
そう言ってまたシチューを食べ始めた時であった。宿屋の扉が勢いよくばーんっと開かれた。
酒の虜となっていた連中の目が一斉に扉へと向いた。そこにいたのは何とも柄の悪そうな男たちである。その中の一人が店主の案内を待つ間もなく、部屋の中央の席に横柄に座った。他に四人いた男たちも次々と卓に着いた。
「あの、ご注文はいかがいたしましょうか?」
店主はさすがプロである。恐る恐るとはいえ、強面の男たちに注文を聞いた。
「おう。酒と飯と.......あとは女だ。さっさと用意しろ」
「いや、その......手前どもはただの宿屋でして......」
「あん?」
最初に座ったリーダー格の男が店主を睨みつける。
「俺たちが女と言ったら、女だよ。お前、エベリ山賊団の噂は耳に届いていないのか?」
「申し訳ありません。ここ最近は人の出入りも少なく、そのような話は」
だんっと男が卓をたたいた。
「ふざけるなよ手前、この交通の要地にある村で、人の出入りが少ないってことはねえだろう。現にそこにいるじゃねえか......ん?」
男が顎で指示した先には、烈とミアがいた。特に男はミアに目がいったようである。先ほどの睨みつけるような視線はどこへやら、相好を崩して、ミアに近づいてきた。
「いるじゃねえか。丁度いいのが。化粧っ気のないのが玉に瑕だが......おい! ちょっとこっちへ来て酌でもしろい!」
そう言って、男がミアの方をつかんだその瞬間である。
「うぼえええっ!!」
男はきりもみしながら、壁の方へと突っ込んでいった。他の連中は唖然としている。それはそうであろう。自分たちのリーダーが突如すっ飛んでいったのだから。
事件の犯人はミアの右拳であった。男がミアをつかんだその時、ミアは目にもとまらぬ早業で、男の横っ面を裏拳で吹き飛ばしたのだ。烈の鍛え抜かれた動体視力にだけは唯一その光景が見えていた。右手を背面に横薙ぎに振り切ったミアはゆっくりと感情のない目で立ち上がった。
「て! 手前! リーダーに何しやがった」
下っ端の一人がお門違いにも抗議の声を上げた。
「やかましい.......」
「何!?」
「やかましいといったんだ間抜けどもめ。不細工な顔を近づけられただけで鳥肌が立ってしまったではないか。どうしてくれる?」
その瞬間ミアは強烈な殺気を吹き出し始めた。半端に武を嗜んだものなら一発で失神してしまうかもしれない。だが、山賊団の連中は気を向けられることに感度が低いのか、全く気付いた様子はない。むしろ女一人と男一人と見たのか。各々徐々にミアの包囲を狭めていった。
「手前、覚悟しろよ?」
そういって、ミアの正面にいた二人が同時に殴りかかってきた。
「ぬるいな」
「ふげっ!?」
訓練された怪しい仮面8人を返り討ちにしたのである。その辺の山賊なんて屁でもなかった。
烈は我関せずの表情で傍観を決め込んでいると、形勢不利と悟った山賊の一人が烈のことをちらりと見た。
「まずい」
烈が嫌そうな顔をしていると、いかにもチンピラ風の男が烈を人質にしようと寄ってきた。
「ちっ!」
男の手が烈の胸倉に伸びた瞬間、男は空中を舞っていた。
「あれ?」
チンピラ風の男が素っ頓狂な声を上げた。
「ふげっ!!」
そして蛙が潰れたような声を出して、地面にたたきつけられる。烈が相手の勢いを利用して、一本背負いの要領で山賊を失神させたのだ。
それを背面越しにちらっと見て、ミアはにやりと笑った。
「こいつで最後かな?」
そう言って、後ずさる山賊の最後の一人の顔面に鉄拳を見まわった。男の顔はひしゃげて、見るも無残な状態である。
「ふんっ」
ミアはつまらなそうに辺りを見回していった。
「烈、手伝え」
「手伝えって何を?」
「ゴミ掃除だ。こいつら簀巻きにして村の外に捨ててくる。運が良ければ野犬に食われることもなく、無事に帰れるだろうさ」
烈は肩をすくめた。ミアの意思は固いようだ。付き合いは短くても、ミアが折れることはないとはっきりと分かった。
烈とミアがよいせと山賊たちを運ぼうとすると、今まで物陰で見ていた店主がそそっと近寄ってきた。
「お客様、ありがとうございます。しかし、お逃げください」
「逃げる? なぜだ」
ミアが首をかしげる。
「それは、この男たちが山賊の全てではないからです。エベリ山賊団は何人かに分けて、近隣の村々を襲撃します。応援がすぐに呼ばれるでしょう」
「はっはっ心遣い痛み入る。だが心配無用だ。それならその山賊団を今から潰してくるとしよう」
そうしてミアは烈に向かって片目を閉じて笑った。どうやら烈に拒否権はなさそうであった。
「上手い! 鹿の肉汁がしっかりとシチューに溶け込んでいて、それでいて臭みもない! 主人、これは最高だな!」
「あたりめえよう! うちのシチューは首都の一流レストランに出しても遜色ねえや」
宿屋の主人がミアの賛辞を受けてがっはっはと笑っている。その間、烈は無言でシチューを食べていた。心は闇に沈んでいても食べ物は美味いと感じてしまう。我ながら現金な体だと感じていた。
二人がシチューを口に運んでいる間に、夜も深くなってきたのか、村民も続々と宿屋に入って、酒盛りを始めていた。みんな酔っぱらっているのだろう。自然と声も大きくなり、様々な噂話が飛び交っている。
「今年の麦はだめだねえ。先月の雨のせいでどうにも育ちが悪いや」
「隣の村でも山賊が出たらしいぞ? ほら、あのエベリ山を根城にしているという山賊が」
「くわばら、くわばら。この村も時間の問題かね」
「領主は何もしてくれない。税金だけ取って終わりさ」
「ドイエベルンの内紛の影響でこちらにも流れ者が多くなった。治安が悪化している気がするよ」
その瞬間、ミアの気配が変わった気がした。平然とした様子でシチューを食べているが、どこか鋭くなったようだ。
「なんだ?」
ミアの顔を覗き込んでいると、ミアは片方の眉をピクリと上げて、烈に聞いてきた。
「私の顔に何かついているか?」
「いや、なんでもない」
「そうか......」
そう言ってまたシチューを食べ始めた時であった。宿屋の扉が勢いよくばーんっと開かれた。
酒の虜となっていた連中の目が一斉に扉へと向いた。そこにいたのは何とも柄の悪そうな男たちである。その中の一人が店主の案内を待つ間もなく、部屋の中央の席に横柄に座った。他に四人いた男たちも次々と卓に着いた。
「あの、ご注文はいかがいたしましょうか?」
店主はさすがプロである。恐る恐るとはいえ、強面の男たちに注文を聞いた。
「おう。酒と飯と.......あとは女だ。さっさと用意しろ」
「いや、その......手前どもはただの宿屋でして......」
「あん?」
最初に座ったリーダー格の男が店主を睨みつける。
「俺たちが女と言ったら、女だよ。お前、エベリ山賊団の噂は耳に届いていないのか?」
「申し訳ありません。ここ最近は人の出入りも少なく、そのような話は」
だんっと男が卓をたたいた。
「ふざけるなよ手前、この交通の要地にある村で、人の出入りが少ないってことはねえだろう。現にそこにいるじゃねえか......ん?」
男が顎で指示した先には、烈とミアがいた。特に男はミアに目がいったようである。先ほどの睨みつけるような視線はどこへやら、相好を崩して、ミアに近づいてきた。
「いるじゃねえか。丁度いいのが。化粧っ気のないのが玉に瑕だが......おい! ちょっとこっちへ来て酌でもしろい!」
そう言って、男がミアの方をつかんだその瞬間である。
「うぼえええっ!!」
男はきりもみしながら、壁の方へと突っ込んでいった。他の連中は唖然としている。それはそうであろう。自分たちのリーダーが突如すっ飛んでいったのだから。
事件の犯人はミアの右拳であった。男がミアをつかんだその時、ミアは目にもとまらぬ早業で、男の横っ面を裏拳で吹き飛ばしたのだ。烈の鍛え抜かれた動体視力にだけは唯一その光景が見えていた。右手を背面に横薙ぎに振り切ったミアはゆっくりと感情のない目で立ち上がった。
「て! 手前! リーダーに何しやがった」
下っ端の一人がお門違いにも抗議の声を上げた。
「やかましい.......」
「何!?」
「やかましいといったんだ間抜けどもめ。不細工な顔を近づけられただけで鳥肌が立ってしまったではないか。どうしてくれる?」
その瞬間ミアは強烈な殺気を吹き出し始めた。半端に武を嗜んだものなら一発で失神してしまうかもしれない。だが、山賊団の連中は気を向けられることに感度が低いのか、全く気付いた様子はない。むしろ女一人と男一人と見たのか。各々徐々にミアの包囲を狭めていった。
「手前、覚悟しろよ?」
そういって、ミアの正面にいた二人が同時に殴りかかってきた。
「ぬるいな」
「ふげっ!?」
訓練された怪しい仮面8人を返り討ちにしたのである。その辺の山賊なんて屁でもなかった。
烈は我関せずの表情で傍観を決め込んでいると、形勢不利と悟った山賊の一人が烈のことをちらりと見た。
「まずい」
烈が嫌そうな顔をしていると、いかにもチンピラ風の男が烈を人質にしようと寄ってきた。
「ちっ!」
男の手が烈の胸倉に伸びた瞬間、男は空中を舞っていた。
「あれ?」
チンピラ風の男が素っ頓狂な声を上げた。
「ふげっ!!」
そして蛙が潰れたような声を出して、地面にたたきつけられる。烈が相手の勢いを利用して、一本背負いの要領で山賊を失神させたのだ。
それを背面越しにちらっと見て、ミアはにやりと笑った。
「こいつで最後かな?」
そう言って、後ずさる山賊の最後の一人の顔面に鉄拳を見まわった。男の顔はひしゃげて、見るも無残な状態である。
「ふんっ」
ミアはつまらなそうに辺りを見回していった。
「烈、手伝え」
「手伝えって何を?」
「ゴミ掃除だ。こいつら簀巻きにして村の外に捨ててくる。運が良ければ野犬に食われることもなく、無事に帰れるだろうさ」
烈は肩をすくめた。ミアの意思は固いようだ。付き合いは短くても、ミアが折れることはないとはっきりと分かった。
烈とミアがよいせと山賊たちを運ぼうとすると、今まで物陰で見ていた店主がそそっと近寄ってきた。
「お客様、ありがとうございます。しかし、お逃げください」
「逃げる? なぜだ」
ミアが首をかしげる。
「それは、この男たちが山賊の全てではないからです。エベリ山賊団は何人かに分けて、近隣の村々を襲撃します。応援がすぐに呼ばれるでしょう」
「はっはっ心遣い痛み入る。だが心配無用だ。それならその山賊団を今から潰してくるとしよう」
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