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21.戦争は駄目

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「……どういう事かしら?」
「ありのままを報告しただけです」

 私は自室で、お父様から届いた手紙を握ったまま頭を抱えていた。

 ――リズがロドル王国でどう扱われているのか聞いたロータスが、戦争すると言って聞かない。私も止めるつもりはないので、すぐに帝国へ戻ってきなさい。戻ってきたら即進軍しよう――

 お小言も多いが、お兄様はその分、私を大事にしてくれているのは肌身に感じている。お父様だって我儘な私を突き放しても良いに、命令を下しても良いところを、無理強いもせず許しているのは私を愛しているからだと知っている。
 だから……私は報告をしていなかったのに……。

「……ベル?」
「流石に限度というものが御座いますので。帝国の威信にかけても」
「……本当に?」
「お嬢様をこれ以上蔑ろにするなら滅べば良い」

 ベルも私を信仰しているのかと言う程に溺愛しているのは知っている……知ってはいたが、まさか私の意思に反する事をするとは思わなかった。
 ……そこまで怒りを貯めこんだとも言えるわけだが、そんな事は今まで一度もなかったので知らなかったとも言える。

「戦争となるの、分かっていて報告したって事ね……」

 ベルは静かに頷き、ジェンも激しく首を上下に振っている。
 私も、この事を報告すれば戦争を起こされるな、くらいは思っていた。私への愛は勿論、帝国の名にかけても、本当にこの国はそれだけの事をしすぎているのだ。
 ……あえて……あえて報告していなかったのに……。

「戦争はダメよ……」
「お嬢様……しかし、帝国の威信が」
「私の辺境スローライフはどうなるの!?」
「あ……」
「なるほど……」

 帝国皇女に対する扱いへ戦争は当然だという考えのベルとジェンだったか、拳を机に叩きつけながら放った私の言葉に納得した。
 戦争をすれば、国境沿いは確実に被害を受ける。というか辺境なんてしばらく復旧作業で人が住める状態でもなくなるだろう。ロドル王国とは違う方向にある辺境で住めば問題ないだろうが、そもそも戦争の後は復興作業だ。
 大なり小なり被害は出るし、帝国が勝つのは分かり切っているが、その後ロドル王国側をどうするか。というか、そもそも属国なので、そちらの復興も帝国が行う事になる。
 ……人手も、食料も、多大に必要よね。そんな中で私がのんびりスローライフ生活を送れるわけがない。戦後数年は大変だろう事が目に見えている。勿論、帝国民にだって少なからず影響を与える。

「鬱陶しいくらいに王太子殿下の視界へ入り込んで、婚約破棄を宣言させようかしら」

 戦争されるくらいなら、いっそ嫌がらせを行ってみようと思える。まぁ、まだこんなのは可愛らしいものだ。というか、既に虐めをしていると噂されているのだから、今更ではないか?

「帝国には帰らないわよ」

 既に私の意思をしっかり理解したベルとジェンがしっかり頷く……けれど、納得はしたくないのだろう。

「不敬にも本当、限度がありますけれどね」
「馬鹿は馬鹿のままで馬鹿でしかないから関わりたくないというやつだな」

 学園へ行く準備をしながら、二人はそんな事を言っている。
 ……関わりたくないどころか視界に入れたくないのも理解しているし、何ならこちらから婚約破棄を叩きつけても十分なんだけれど……。私は一生面倒を見てもらい悠々自適な生活をしたいのだ。だからこそ自分から婚約破棄を言い渡されに行こう!
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