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 見る人が見れば分かるところ。
 そんなのいっぱいあると思う。
 佐々木さんの視線は、私の手の甲にチラリと向けられたのが見えた。
 そこには……シャーペンで突き刺した無数の傷。これも見る人が見れば分かるのだろう。

「……曲作りが本当に好きなんですね」
「好きと仕事は違うけれどね」

 私は、その言葉の続きが知りたくて、バッと顔を上げた。
 好きを仕事には出来ないのか。好きなだけで仕事にはならないのか。

「それは……どうして……」

 呟くように問いかける。
 歌だけでは駄目なのか。
 歌っているだけでは無理なのか。

「あぁ、そういえばそういった事から逃げたんだよね」

 何事もないようにさらりと佐々木さんは言う。きっと彼にとって私の事なんて些細な事というか、関係ない事だからだろう。
 でも、その答えを教えてくれそうで、私は前のめりになった。

「好きな事だけでは生計が立てられないからだよ」
「どうして……」
「好きが嫌いになる事もあるし、仕事として割り切る部分も出てくるから」

 ……分からない。
 全く想像が出来ない。
 呆然としている私に向かって、佐々木さんは嚙み砕いて分かりやすいよう、更に言葉を続けてくれた。
 あくまで自分が、という前置きがあってだけれど。

 一部に受けても万人受けしない。だから生活できるだけの収益には程遠い。
 万人受けするようなものを描いたとしても、それは苦痛で、曲作りから逃げたくなる事も多々あったと。
 仕事と言うならニーズに答えたものを作って、流行を考えて、再生数が上げられる人気曲を作らないといけない。自己満足ならば、そんな事は関係ないと。

 ――それはまさに私も体験している事で。

 そんな中、自分は運が良かったのだと佐々木さんは言った。
 それなりに名前も売れて、生計を立てる事が出来て……。

「人と関わるのが苦手だし、好きな事にだけ没頭する性格だから、生計を立てられるようになったからこそ生きながらえているだけだけど」

 簡単に言うけれど、もし生計を立てられていなかったら……それは真逆な事になるのではないか。
 自分の生にすら執着していない。だけれど、それは凄く共感出来てしまう。
 何故生まれたのかなんて、言い出したらキリのない疑問。だけれど、一度は考えた事があるのではないだろうか。

「……片桐さんは、本当に話せないわけ?」

 いきなり私の話になり、何の事だと首を傾げる。

「母親と。歌という1つだけに拘っていて良いのなら良いけど」

 ハッとする。
 私が知らないだけで歌い手という存在があった事。
 まだ知らない選択肢が多数存在するかもしれない事。
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