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 貴族には面倒な礼儀作法が沢山ある。これも身分というのがある世界だからだろう。
 社会人の役職というのも、それなりに面倒ではあったけれど、昔に比べれば緩くなっている。
 あとから考えてみれば、あの時のヒロインは、完全に礼儀作法がない状態だったので、高位貴族から蔑まれても当たり前なのだ。
 ……ゲームの悪役令嬢であれば、そこから冤罪へと持っていかれるのだろう。
 あれ? もしかして私、将来ルイスに婚約破棄される理由を作れたって事!?
 ならば喜んで悪役令嬢になろう!
 ……でも、ルイスルートって知らないんだよなぁ……。

「……セフィーリオ公爵令嬢。ちょっとよろしいで……」
「いきなり話しかけるなんて無礼にも程がありますし、義姉上は俺と一緒に居るので無理です」

 翌日、考えながら歩いていれば、ヒロインであるマリー・クレトン子爵令嬢が目を潤ませながら私へと声をかけてきたが、ルイスが即一刀両断した。
 うん。あれ? 私の返事は? 意思確認は?

「ルイス……っ!」

 嬉しそうに名を呼ぶヒロインなんて視界に入らないといった様子で、ルイスは私の腰を抱き寄せ、教室へと向かう。
 あれ……? これが出会いイベントになる……のか?
 お互いを認識したのが出会いになるのであれば……あれ?
 何か違うと思いつつも、休憩時間の度にヒロインは上位貴族の教室へとやってきて、ルイスに話しかける。

「ルイス様! 抜け出して城下へ行きませんか?」
「ルイス様! 一緒にお昼を食べませんか?」
「ルイス様! あの……クッキーを作ってきたので、食べて下さい!」

 これが……ルイスルートなのか?
 スチルを拝み、目に焼き付ける為、ジッと観察をしている。けれどルイスは答えるどころか、そこにヒロインは居ないかのようにスルーする。
 勿論、クッキーを貰っても居ない。
 ……ルイスの耳、大丈夫かな?

「ルイス様! 一緒に帰りませんか?」

 放課後にもやってきたヒロインの言葉が耳に入っていない様子のルイスに、補聴器が必要なのかと心配になった。

「……ルイス?」
「何でしょう、義姉上」

 あ、聞こえているようだ。
 ホッと安堵の息を吐けば、ルイスに手を取られて立ち上がる。

「さ、邸へと帰りましょうか」
「え? あの……ルイス?」
「どこか買い物に寄りますか?」
「いや、大丈夫なのだけれど……その……」

 チラリとヒロインの方へ視線を向ければ、目を吊り上がらせている。
 あ、うん。睨まれているなと、やっと実感が湧いたわけだけれど、頭上から舌打ちの声が聞こえた。
 あれ? と考えたのも一瞬で、ヒロインの視界を遮るような形でルイスに連れられ、私は邸へと戻った。
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