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 翌朝、学院へと行けば、何やら教室の中が騒々しい。
 足を踏み入れてみれば、私の席があるあたりに、人だかりが出来ている。

「……なんだ、これは?」

 人をかき分けて中に入っていったルイスの、訝し気な声が聞こえた。
 ルイスの存在で私も登校しているのを察しただろう数人が、サッと私の席まで道を開けてくれたのだけれど、そこにあったのは机上の花。

「これ……は……」

 花束ではない。花瓶に入っている。
 しかも、菊に似た花だ。

「いじめ……?」
「義姉上、どういう事ですか?」

 ポツリと口から出た言葉に、ルイスが厳しい目つきをして問いかけて来た。
 周囲に居た人達も、どういう事かという表情でこちらを向く。

「え? 席の人が死んだ時、こうやって花を手向けるものでは……?」
「なんだと?!」

 ざわりと教室が一層騒めく。
 中には顔を真っ青に染める令嬢まで出て来る始末だ。
 ……あれ? こちらの世界では、死者は神の元へ行くとされ、こういった風習はなかったような?
 と言う事は……これを行い、その意味を知っているのは、現状では私ともう一人だけだと思うのだけれど……。

「ク……クレトン子爵令嬢が、朝一に教室から出ていくのを見かけましたが……その時には既に、花が飾られて……」

 あ、やっぱり。
 内心、納得した私とは違い、周囲にピリッとした緊迫の空気が走る。

「子爵令嬢が……公爵令嬢に……?」
「こうも無礼が続くとは……」
「例の愛人の子でしょう?」
「今まで平民として生きて来たという」

 ザワザワと、教室内で噂が加速する。いや、噂ではなく事実か。
 引き取られた経緯から入学パーティの遅刻、更には学院内での無礼行為。完全に高位貴族の令息令嬢達がヒロインの敵に回ったようなものだ。

 ――関わらない。

 静かに一致した意見。
 そりゃ争い、面倒ごとの種になりそうなものとは関わり合いになりたくないだろう。家の存続に関わるのだから。

「いや、まぁ遠目から見守れば……そんな敵意を表さなくてもよろしいのではないですか」
「何を言っているのですか!?」
「ミア様! 甘いですわ!」
「集団で何かをすれば、それこそこちらが虐めているようなもの……王太子殿下が通っているのです。何事もなく平穏無事に過ごしましょう」

 私の言葉に、納得は出来ないけれど理解をした皆は散り散りに自分の席へと戻る。
 そう、ここに居ないだけで、攻略対象者達が居るのだ。
 ヒロインと表立って敵対してしまえば、面倒でしかないし、ルイスのルートがどうなるかも分からない。
 ゲームでは学院内で孤立するなんて事はなかったのだから。
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