召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり

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1巻

1-3

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 名前:はやさき (スワ)
 レベル:53
 HP:5300/5300
 MP:23000/23000
 職業:大聖女
 スキル:柔道・剣道・空手・合気道・情報収集・料理・プレゼン
 魔法:火魔法・風魔法・水魔法・地魔法・光魔法


 大聖女? は?
 脳内では静かに、この世界に来てからのことが駆け巡る。
 うん。無視しよう。見なかったことにしよう。
 女子高生だって同じように大聖女かもしれないし、バグの可能性もあるだろう。
 むしろ53でルークより私の方がレベルが高いというのはどういうことなの?
 平均はいくつ位なのだろうか?
 全く予想がつかない。これをそのまま伝えるのは危険な気がする。


「とりあえずスキルに料理はあるね」
「ふーん」
「ふーんって……それだけ?」
「いや、もうなんか色々と規格外すぎて……あえて聞きたくない」

 ルークは言外に、なんとなく色々と予想できていますよ、と匂わせている。
 詳しく聞かれないことに内心ホッとして、つい聞いてしまった。

「魔法に火と風と水と地ってあるんだけど、これなにができるの?」
「普通は四属性全て使える奴なんて居ないからな⁉ 時間は沢山あるから、とりあえず大抵の基本は教えてくから心しとけ‼」

 光魔法に関しては聖女が関係していそうなので、他のを聞いてみたのだが、それだけでも普通じゃなかったらしく、ルークは項垂れて叫んだ。まぁ教えてくれるなら、こちらとしては有難い。
 こういうのって報告しなきゃいけないの? と、見張りであるルークのことを考えて、念の為に尋ねる。

「んなもん伝えた所で、馬鹿王子が怒り狂うだけだ」

 ルークの返事のあと、御者台から笑い声が聞こえる。
 すぐに「すみません」とフェスの声がしたけれど、フェスの笑い声を聞いたのは初めてだ。その和やかな雰囲気で、無意識に入っていた肩の力が抜けた。
 思えば召喚されてからずっと、緊張し続けて生活していたのかもしれない。

「ふっ……ふふっ……あはははっ!」

 私も思わず声を出して笑う。
 フェスの息を呑む声や、ルークの驚いている顔を見て、そういえばこの世界に来て笑ったのは初めてだなと思い返す。
 悪意の目はとても多かったけれど、さいしょうも……そしてフェスやルークも悪い人じゃない。
 まぁ共通の敵……というか馬鹿王子に苦労しているという点で、意気投合しているような感じがしないでもないけれど。
 私はこの世界で生きていかなくてはいけないのだろう。
 気を引き締めて、新しい世界を知っていこう。

「ルーク! なにか生活が便利になる魔法教えて!」
「どんなんだよ⁉ とりあえず順番だ順番‼」

 まずは自分にできることから始めてみよう。


 一ヶ月と予定していた旅は、私が時間短縮を望んだのに加え、疲労もなくいつも以上に体力があるというフェスのお陰で、二週間ほどで済んだ。
 時折フェスが自分のステータス画面を眺めながら首を傾げているのだろうか、少しだけ頭が揺れている。

「どうしたの?」

 思わず私がそう聞くと、ルークもなんだ? と近づいてきた。

「あ……いえ。少し自分のステータス画面を見ていたのですが……ほぼHPが減っていなくて」
「あー……俺もあまり疲れを感じてないな……あんな馬車なのに」

 そう言ってルークは質素な馬車に視線を向ける。
 確かに揺れは結構あったから、私としても腰やお尻が痛くなってもおかしくはない筈だが、全くそんなことなく辿り着いた。

「いつもと違ったと言えば……」
「……料理くらいじゃね? スキルあるっつってたし」

 ルークもステータス画面を眺めているようだが、正直なところ、私は自分のステータス画面というものを見たのは最近のことだから、比較できるわけでもなく……というか、さり気なく私のせいにされてないだろうか?

「早く家に行きたい」
「それもそうだな」
「そうですね」

 自由に暮らせる家にやっと着いたのだ。話題から逃れる為というのもあるが、私がポツリと呟いた言葉に二人も賛同してくれた。
 着いた辺境の村は森の側にあり、隣国にも近い。
 近くにはそれなりに大きい町もある為、多くの人はそちらに移住しているようで村人は少なく寂れた感じがする。
 私としては、待ち構える田舎の自給自足スローライフを考えるとワクワクした。
 現代社会で完全に自給自足というのは色々と不便そうだと思っていたが、野営を何度も経験しているうちに楽しくすらなってきたのだ。
 ……狩りと獲物をさばくのは任せっきりだけれど。

「うえ⁉」
「これがさいしょうの精一杯だったのでしょうね……」

 ルークが奇声を発した後、フェスの若干ため息混じりの声が聞こえた。
 村から外れた森の近くに木造の平屋建てが見える。

「やった! 掃除が楽!」
「そこかよ⁉」

 ルークが盛大に突っ込むが、城みたいな大きくて天井も高いような建物だと、掃除をどうするんだと言いたい。
 馬鹿王子の邪魔に思わず感謝した。
 実際私が住んでいたのはワンルームだし、ぶっちゃけ家は平屋で十分だと思える。あとは収納する場所さえあれば十分だ。
 まぁ、ルークのような貴族には辛いのか……?
 あれだけ野営していても、住む場所となれば別だよね……と思い哀れんだ目で見つめながら言葉をかけた。

「住めば都と言う言葉が私の世界にはあってね……」
「いや、スワがいいならいい。そんな目で俺を見るな……」
「……あ、掃除の魔法教えて」
「順応するのが早すぎだっつーの‼ 魔法は順番に教えてやるから!」

 そんなやり取りをルークとしていると、フェスは家の中へ入っていく。
 甲冑が邪魔そうに見えるが、本人は気にした様子がない。
 私もフェスに続いて家に入ってみる。
 トイレとバスルームもあって、キッチンが併設されているリビングのような部屋には、机と椅子や収納棚まである。
 あとは四部屋、ベッドが置かれている個室があった。

「家具がある! さいしょう最高!」
「喜んでいただけているようで幸いです」

 フェスがそう言う後ろで、呆れたような目をするルークが見える。
 異世界人云々とかで、もっとちゃんとした場所を用意されるべきとか、そういう意味かもしれないけれど、今日から休める場所があるだけで助かる。

「ここでの生活を考え、今後の予定を立てよう! まず掃除! そして足りないものを町へ買い出しに行こう! 畑も欲しい!」

 超充実したスローライフを夢見ながら、私は今後の計画を立てていく。
 とりあえず簡単にでも掃除した後、夕飯の為に調味料が欲しい!



   第二章 スローライフを満喫します


 さすが魔術師として二番目と言うだけあって、ルークは風・火・水の魔法が使えるらしく、今日はルークが手早く風魔法で掃除をし、水魔法で洗い、ゴミは火魔法で燃やしてくれた。それはもう一瞬といっていいほどで、日本では絶対に見られないような光景に目を輝かせていたら、ルークはやりづらいとボヤいていたが気にしない。
 手早く荷物を運びこんだら、ここから徒歩で一時間ほど行った先にある町へ向かう。
 フェスが馬車を用意しようとしていたが、向こうの世界の仕事では散々歩き回っていたから、一時間くらいなら問題ない。むしろ丁度良い運動だ。
 町へ着くと、商店街のような通りへ入る。商店街といっても、大通りの左右にテントで色々な店が出ているだけ。
 一瞬お祭りのような光景を思い出した。

「調味料はどこだろう」
「多分……あそこですかね? あとは異国人向けのお店とか」
「異国!」

 フェスの説明に少し驚くが、まぁ異国があっても普通だな、と思い直した。
 むしろ異国の料理はどんなのだろう、味はあるのか……機会があるなら是非とも食べてみたい。
 野菜は畑で育てるとしても、当分の間は買っておく必要があるし、肉は狩れば良いし……

「お前……」
「帰ったら狩ってきますね」

 また声に出ていたらしく、ルークは呆れ、フェスは返事をした。
 というか、フェスとルークをこき使っている感じがあるが、もうそこは一緒に暮らすのだから、協力してもらおう。
 調味料のお店につくも、塩や砂糖のような物が並べられているだけだったので、必要最低限だけを買う。

「それだけか?」
「うーん……異国人向けのお店はどこ?」

 ルークが少し驚いていたが、正直あれで料理は……しょうとか発酵している調味料が欲しくなる。この世界に発酵技術というものはないのか。
 そう思いながら足を進めると、細い横道に異国のものを取り揃えた店を見つけた。
 ドアベルを鳴らしながら入ると、そこには所狭しと色々な食材が並べられている。

「お? 珍しい。客か」
「すみません、ここに調味料はありますか?」
「この国の人間が好みそうなものはないがね」

 話を聞くと、どうやら隣国に近い為、旅人や移住してきた人用に売っているそうで、この国の人には受け入れられないと言う。
 国が違えば環境も違うため、そりゃ色々違うだろうと思いながら、調味料の蓋を開ける。

「こ……これは!」
「どうした⁉」

 懐かしい香りが漂った。
 思わず次々と他の蓋も開けて中身を確かめていく。
 しょうはなんとかなるし、塩は別の店で買った。
 ハーブ等もそこら辺に生えている。唐辛子のようなものも探せばきっとどこかにありそうだ。
 そして今、目の前には私が欲していた調味料があったのだ。
 しょう! ! 発酵食品‼

「これ、ください‼ たくさん!」
「たくさん⁉」

 店主が驚く声をあげていたが、それ以上に私は浮かれていた。
 辺境の村万歳! むしろ異国ナイス!
 異世界といえども、文化の発展や食物等は似ているのか、それとも日本人がどこかに召喚でもされたのか。
 周辺国のことも、そのうち調べてみようと胸に決めながら買い漁る。
 購入したものをフェスとルークに持ってもらおうとしたら、ルークが自分の持っている小さな鞄に全部押し込んだ。空間とか容量とか、どう見ても入りきるものじゃない。

「え⁉ なにそれ!」

 声をあげる私にルークは驚きつつも説明してくれた。
 それは魔道具と呼ばれるもので、魔法が使えない人間にも役立つように作られた道具らしい。
 まさしく異世界。どこまでも自分の当たり前が通じない。


「これは……」
「うわっ! すげぇ!」

 目の前に並んだ料理に目を輝かせる二人。
 ニンニクじょうで焼いた肉と、色んな野菜で作った汁だ。
 さすがに出汁まではと思ったが、異国のお店にカツオ節らしきものがあり、自分の強運に歓喜した。
 ここまで来ると米が欲しいと思うが、それはそれで何処かにありそうな気がしてくる。

「異国の料理は味付けが濃いと思っていましたが……これは美味しいですね」

 フェスの言葉に、なるほどと納得してしまった。
 この国ではほぼ味がない料理をしている為、しょうなんて味が濃すぎるのだろう。
 使い方次第だとは思うし、味付けの好みもある。
 私は素材の味を最大限に引き立てるような薄味が好きだったから、受け入れてもらえたのかもしれない。

「そういえば……食材を冷やしたり凍らせたりするものはないの?」

 手を止めることなく食事を進める二人に、ふと思いついたことを聞いてみる。
 フェスが狩った肉を保存する方法がないようなので、全て料理に使うか燻製にするかと言われたのだ。
 塩漬けを提案したが塩の貴重さを説かれた上、今後の生活を考えると却下された。

「先ほどの食材を保存する……という意味ですか?」
「そう、向こうではそういう箱みたいなのがあって、そこに食材を入れていたので……」
「その話、詳しく‼」

 ルークがリスの様に口いっぱいに食べものを頬張りながら、更に目を輝かせ顔をこちらに突き出し言う。

「飲み込んでから喋ろうね」

 ちょっと呆れながらも、冷蔵庫と冷凍庫の存在を話す。
 水魔法があるなら、氷などは作れたりしないのか、鉄のような箱はないのだろうか。
 こちらの世界で存在する鉄資源の話もしたところ、フェスは考えこみ、ルークのテンションは上がりきってしまったようだ。

「ちょっとそれ俺に作らせて‼ つか、他にもなにか面白いもんあったら教えてくれ‼」

 どうやら魔道具馬鹿というルークの新しい一面を垣間見た気がする。


 村の中心から離れている上に、すぐ側には森。
 土地の区別も特にないので、それなりの畑を作ろうと、ただいまルークに魔術を教えてもらっている。

「いきなり耕すとか無理だろうから、まずは土を動かすところから……」
「こう?」

 土を動かすと言っても、イメージが湧かない。
 とりあえずうねを想像してみると、ゴウッと言う音と共に土がうねり、混ざり、無事でき上がった。

「この規格外ーーーー‼ 普通は魔力じゅんかんとかを覚えてからだぞ⁉」
「お体は大丈夫ですか?」

 ルークは怒っているような口調だがどこか焦っていて、フェスに至っては私の体を心配している。
 初心者がいきなり魔法を繰り出すのは危険な行為だという。

「魔力じゅんかん……?」

 私はその言葉に引っかかりを覚えた。
 体内に巡る温かいものの存在には気がついていたからだ。
 伊達に格闘技系を習ってきたわけではない。集中力も人並み以上だ。
 そして社会人として物事を見極める力や気づきの能力は養われていたのだろう、自分の中の変化には気がついていた。
 身体中を巡るそれを、集め、放出する……そんな感覚。

「お前……まさか……」
「これ……かな?」

 そう言いながら、細く弱く薄く放出するように、土が盛り上がるイメージをすると、先ほどとは違い、土がうねより小さな一つの山となる。
 例えるなら小さなバケツをひっくり返してできた山だ。
 なにかを呟きながら私を見ていたルークがきょうがくに目をみはり、でき上がった小さな山と私を何度も見比べる。

「……魔力じゅんかん……こんな早く使いこなせる奴、初めて見たぞ……」
「へ?」
「そもそも、そんな細かい魔力放出をできる奴なんざ、この国でも片手で数えられるくらいだぞ……?」

 どうやらまたも規格外を叩き出したらしい。
 幼い頃からの訓練と、社畜時代の経験だ。
 ビバ社畜。嬉しくもないが。
 確かにのほほんと暮らしていただけであれば、細かく色んな所に気配りして動くことなんてできなかったと思う。
 社畜も……訓練だったのか……

「とりあえず色々試してみるか」
「ルーク様、それはどうかと思いますが」
「実験、実験!」
「ルーク様!」

 楽しそうに言うルークにフェスが制止の声をあげる。聞いているとどうやらMPの問題があるようだ。
 HPが枯渇すると言うまでもなく命の危機なのだが、MPが枯渇すると衰弱するという。
 なにそれ怖い。
 まぁ、そうなる前に人間の生きる本能が働いて倒れるため、衰弱するのは一握りだという。
 私は能面のような顔になりながらも自分のステータスを開いてMPの数値を確認する。


 22751/23000


 MPの平均はいくつなのだろうか?


 畑を作り終えると、フェスは率先して畑仕事をし、ルークは魔道具作りに勤しんでいる。
 一週間ほどで冷蔵機能のある箱を作ってくれた時は感激したが、まだ永久的な道具としては完成しておらず、度々魔法をかけ直す必要があるらしい。
 それでも嬉しい! これで少しは食材が長持ちするというものだ!
 そして今日は、少し森の中を探索する日。
 色んなハーブが実っている可能性があるので、それを探すのと食料となる肉の狩りだ。
 あと、ステータスの確認も。
 狩りはフェスにだけ任せているが、タイミングによって疲労感が違うらしい。
 私の料理で体力が回復している可能性を確かめるため、ステータスを見ながら散策をするということになった。
 調味料などを小分けにして、外で料理をできるような準備をして出発する。料理スキルの実験だ。

「しっかし、あの変な匂いのする草が美味しいとはな」
「妙な匂いがする異国の調味料も美味しかったですね」
「異国のは発酵させてるから……あ! 果物も欲しい! ふわふわパン作れるかな⁉」

 フェスは普段、探索等の魔法を使って、効率よく動物等を探して狩っていると言う。
 だけど今日はハーブを探す目的もある為、雑談しながら通りやすい場所を選んで突き進む。

「パンって柔らかいのがあるのか⁉」
「少なくとも向こうの世界では柔らかいね」

 と言っても、家で発酵なんてさせたことないけれど。
 でもこの世界で柔らかいパンを食べる為なら、いくらでも試行錯誤しよう。
 色々試してみたいことを頭の中にメモしながら、二時間ほど歩いたところで、ふと横を見ると湖があり、その側に草の群生地があった。
 否、ハーブの群生地だ。宝の山だ!

「シソ⁉ あ! ミントやパセリもある!」

 自信がないので鑑定をかけると、見事に使いやすい香草の山である。

「水もあるし、ここらで飯にするか。ステータスの確認もかねつつ」
「私は動物を狩ってきますね」

 そう言ってルークは料理の準備を、フェスは更に森の中へ入っていった。
 そして、ある程度狩りが終わって帰ってきたフェスに私はあるお願いをした。

「フェス! それミンチにして!」
「ミンチ……ですか?」
「細かく刻んだり潰したりするやつ」
「……」
「はぁ⁉」

 無言となったフェスに代わり、ルークが驚いた顔で叫ぶ。
 よろいの下ではフェスもこのくらいリアクションしているのだろうかと想像する。

「いや、肉をそんな風にする意味は⁉」 
「え? そういう使い方しないの?」

 私の返答に、ルークは更に驚いた顔を見せた。この世界に肉をミンチにする技術も考えもないのか……
 そんな私達をよそに、フェスは解体をし始め呟いた。

「料理の効果を見るのに、もう少し体力を減らしたかった所なので、良いかもしれませんね」
「ちょっと俺の魔法も手伝いで使おうか」 

 諦めたような声色のフェスと違い、ルークは本当に実験大好きっ子のようで、フェスと一緒にミンチ製作を始めた。


「凄いですね……」
「これがあの細かくなった肉かよ……」

 目の前に並ぶ料理に驚く二人。
 今回作ったのはシソ巻ハンバーグ。切実に白いご飯が欲しいところだけど、今はまだ硬いパンとサラダを付ける程度だ。

「いっただきまーす」

 更なる食事改革を心に決め、パンにシソ巻ハンバーグを挟んで食べようとしたら、なにか黒い、ふわふわで、もふもふした毛玉のようなものが視界の隅に映った。
 それはゆっくりとこちらに向かってきている。

「え? なに? 猫?」

 私のその言葉に、食事をしていた二人は手を止め、勢いよく私ともふもふの間に立ちふさがる。

「魔物か」
「ちっ」

 剣を抜くフェスと、炎を手の上に出すルーク。
 あれは肉の部分が少なそうだ、というか、もふもふしていて子犬とか子猫を彷彿とさせる黒い物体を、魔物と認識するのは少し悲しい気もする。
 なんせ私は猫とか犬とか兎とか、もふもふした動物が大好きなのだ!
 社畜すぎて世話ができないから飼えなかっただけで。

『……おなかすいた……』
「え?」

 そんなことを考えていると、黒いもふもふは殺気を感じたのか、それ以上近づいて来なくなった代わりに、なにか言葉を発した。

「どうしたんですか?」

 驚いている私にフェスが声をかけてきた瞬間、ルークが火の玉を黒いもふもふに飛ばそうとする。

「ちょっと待ってルーク!」
「どわぁ⁉」

 思わず、魔法を使ってルークの頭上から大量の水をぶっかける。

「お前なぁ⁉ なにすんだ! てか自重しろ少しは‼」
「ごめん、ちょっと焦って……」

 とっにコントのように頭から水をぶっかけるイメージをしたせいか、ずぶ濡れ状態のルークがそこに居た。
 ぶつぶつ文句を言いながら、火と風の魔法で自分を乾かしているルークから視線を外し、黒いもふもふを見つめる。

「ねぇ、おなかすいてるの?」
『え? 声聞こえるの? うん! おなかすいた! 美味しい匂いがしたから来たの。攻撃しないで?』

 なんか、凄く可愛い。
 というか、もふもふが喋ってる!
 癒される! 嬉しすぎる!

「魔物って会話できるのかぁ~」
「いや、できねーから」
「スワ様、魔物の言葉が分かるのですか?」

 魔物と会話ができることに感激していたら、まさかの否定する言葉が二人から放たれた。

「え? できないの? おなかすいたって。攻撃しないでって言ってるよ?」
「はぁ⁉」

 驚きの声をあげるルークに、フェスは直立不動のままだ。
 表情が見えないから、言葉にしてもらわないとなにを考えているのか分からない。

「おいでー」

 とりあえず、意思疎通をはかるべく、黒いもふもふを呼んでみる。
 私の言葉を聞いた黒いもふもふは、素直に私のほうへ寄ってきた。


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