召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり

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1巻

1-2

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 あれから聖女が二人召喚された件の調査をしているはずだが、経過は一切聞いていないので知らない。
 ただ王子があんな調子なのであれば、女子高生は聖女として丁寧に扱われていることだろう。
 しかし、それはそれ。
 自分の立場が政治的に問題があるとするならば、城で暮らしているほうが安全なのは理解できるが、誰がいじめと悪口満載な場所で暮らせるか、という話である。
 嫌味の一つ……いや、もう拳や蹴りをお見舞いしたいほどだ。
 だが、私がそれをすると頭を悩ませるのはさいしょうである。
 これまでの私への接し方から鑑みると、聖女が二人召喚された謎を解き明かすまでは、さいしょうは召喚された二人それぞれに、それなりの対応をしたかったのだろう。

「では、用意が整うまで、いましばらく……くれぐれも! 大人しくしていてくれ」

 最後が命令形なのが気になるところだったが「できるだけ早く準備はする」と付け足されたさいしょうの言葉に、あともう少しだけ我慢しようと心に決め、退室した。
 翌日、準備ができたとさいしょうから呼び出されフェスと共に中庭へと向かった。

「隠す必要もないので言いますが、これが限界でした。クソガキが邪魔を……否、裏の事情で」
「なるほど、馬鹿王子の介入ですね」

 さいしょうが本音だだもれの言葉を発したので、私もそれに本心で返答した。
 どうやら新しい住居は辺境の村らしく、到着まで一ヶ月かかるらしい。なのに、目の前には質素な馬車が一台あるだけだ。
 私が出ていくのを良しとしないのはさいしょうや魔術師団長だけのようだが、それでもそれなりに準備をしようとしたところを……馬鹿王子が邪魔したのは明らかだ。
 辺境の村まで行くというのに、大した準備をする必要はないということなのだろうか。はたまた野垂れ死ねという意味なのだろうか。
 色々と深読みをしたくなるけれど、気にしては負けだと、浮かんでくる考えを頭の隅へ追いやる。
 まぁ、この程度の準備だからこそ、訴えた次の日に旅立てるというわけか……

「準備に三日ほどはかかるのかと思ってました……」
「私は有能なさいしょうですからね」

 ポツリと呟いた言葉に、さいしょうさんした言葉を返すので、呆れた顔を向ける。有能なのであれば、馬鹿王子に妨害されないでほしい。
 私の呆れ顔に気が付いたのか、さいしょうは少し悔しそうな顔をしながらも、しっかり私の目を見て言葉を放った。

「私は利益になることであれば先を見通して、いくらでも融通を利かせますよ。そして私は賢い人間を好ましく思っています……スワ様、貴女もその中の一人ですよ」

 続けて「ここまでしかできず申し訳ありません」と周囲に聞こえないよう私に向けて言った。
 さいしょうは悪い人ではないのだろうと思う。さいしょうという立場上、色々なしがらみがあるのだろう。
 少ない荷物の中には平民が一年遊んで暮らせるほどのお金もあった。これは国王からの餞別らしい。
 聞けば、やはり私のことも丁寧にもてなす必要があったとのことだった。そういうことなら、自分の息子を教育しなおしてほしい。
 根本的な問題を解決しろ無能、と思わざるをえない。
 国王は身分的に軽々しく姿を見せられないし、頭を下げることができないから代わりにさいしょうが謝罪をすると言う。それは代わりじゃなく、さいしょうが悪かったと周囲にアピールする為の責任転嫁にしかもう見えない。

「この度は大変申し訳ございませんでした」

 周囲に聞こえるような声で、今度は頭を下げるさいしょう
 まるで王族側に非があるということを見せつけているかのようだ。王子にならって私を馬鹿にしていた身分が低い者に対して、牽制の意味もあるのだろう。
 だから中庭という場所を選んだのか。ここならば侍女などの身分が低い者ですら通ったりしている。
 おかげで、顔を真っ青にしたり、うろたえている人達が何人か視界の隅に映る。そいつらに向けて「自分の頭で考えないからだ、馬鹿」と心の中で毒を吐いていると更にさいしょうが言葉を続ける。

「大変申し訳ございませんが、政治的問題から考えて見張りを付けさせていただきます。フェスはそのまま護衛として。そしてもう一人……」

 相変わらず頭までよろいで覆い、姿を見せたことのない甲冑騎士フェスは、私の背後霊であるかのように常に張り付いていて、もう違和感なんてものはない。最初の頃はある意味ホラーのように感じていたのが懐かしい。
 視線を彷徨わせて、もう一人の誰かをさいしょうが探していると、何処からか罵声が聞こえてきた。

「ふざけんな! なんで俺が‼ 離せ‼」

 城の中からオレンジの髪をした魔術師風の高校生くらいの男の子が、両腕を騎士に抱えられて連れてこられるのが見えた。
 何事だ? と思っていると、さいしょうはいつもの光景だと言わんばかりにそのまま和やかに言う。

「あぁ、あちらが魔術師として同行するルーク・ドレスラーしゃくれいそくです」
「くそ‼」

 宰相の隣に立たされたドレスラーしゃくれいそくはとても不機嫌な顔をしている。
 うん、不服なんだろうな。
 いきなり召喚された私としては全く身に覚えのない陰口だが、偽聖女に付いて行くなんて嫌なんだろうな、と思えて同情したくなった瞬間、思わぬ言葉が放たれた。

「あの野郎‼ もっと頭働かせやがれ!」
「あまりこの場で言うと不敬になりますよ」

 さいしょうの言葉で、ドレスラーしゃくれいそくの言葉の矛先が馬鹿王子だと確信する。

「この国って王族は馬鹿の象徴とかなの?」
「スワ様……」

 私の率直な言葉に、さいしょうも顔を覆う。

「権力に媚びたい奴が利用しやすいから、偉い馬鹿は野放しでいいという判断?」
「……俺でもそこまで言えねぇわ……」

 ドレスラーしゃくれいそくと呼ばれ、暴れていた青年は私の言葉に呆然としている。

「いや、あの歩く失礼発言者に気分を害す気持ちは痛いほど理解できるので」
「あー……」

 ドレスラーしゃくれいそくは両腕が騎士から解放されると、頭をポリポリと掻いて、なんともいえない顔をする。

「とある馬鹿のせいで、意味不明な噂ばかりが先行している奴の見張りなんざ嫌でしょうが、私が王城から逃れて自由に暮らす為にもよろしくお願いします」
「おまえもたいがいだな!」

 ドレスラーしゃくれいそくの驚く声と共に、さいしょうの咳払いも聞こえた。不敬だとか言って更に面倒なことになっても嫌だからそろそろ自粛しよう。
 私がそんな決心をしていると、ドレスラーしゃくれいそくはとっとと馬車に乗り込もうとする。

「ルークで良い。俺もスワで良いか? とっとと行くぞ」
「あ、はい。よろしくルーク」

 フェスも続いて御者台に座り、私もさいしょうに「ありがとうございます」と感謝の言葉と共に頭を下げてから、馬車に乗り込んだ。
 辺境の村までは馬車で一ヶ月。
 電車が欲しいと切実に思ったのと同時に、科学が発展している元の世界が懐かしい。


 タンタンタンタンタンタンタンタン。

「……」

 延々と続けられる貧乏ゆすりは、目の前に座るルークから放たれている。
 馬車に乗り込み出発したのは良いが、ルークは未だに不機嫌顔で、窓の外をにらみながら足をせわしなく動かしている。すんなり同行してくれたとは言え、余程馬鹿王子にご立腹している最中だったのだろう。しかし、こちらとしてはうるさくて耳障りだし、一ヶ月もの間、馬車の中でこんな調子になるのは勘弁してほしい。

「馬鹿王子となにがあったの?」
「ん?」
「……足うるさいし……顔が悪い」
「顔が悪い⁉ ……あぁ」

 率直に伝えると驚いたものの、私の意図を理解したようで、貧乏ゆすりを止めて自分の眉間に寄った皺を撫でている。

「一ヶ月暇だし。なにがあったか聞くよ?」
「つまり暇つぶしだな」

 口は悪いけれど悪い人ではなさそうだ。
 すぐに私の言葉の意図に気がつき、それに答えてくれる感じのルークに少し心が落ち着いた。

「……聖女と呼ばれている女のことなんだがな?」
「……はい」

 言いにくそうに口を開いたルークの第一声目で、ほんの少し聞きたくないなという後悔が心をよぎったが、一応私にも関係のある話になるだろうから続きを促す。
 どうやら聖女を召喚した後、この国に聖女の力を留めておきたいからと、それなりに実力と地位があり、見目が良い男を聖女の花婿候補として捧げるらしい。
 馬鹿王子のことを、ふと思い出しつい口に出した。

「……馬鹿王子含め、そいつらの選定基準に知能指数は含まれていますか?」
「知能は関係ないからな。地位による職権乱用って知っているか?」
「あー、把握しました」

 ルークの理解が早く、言葉のキャッチボールが続くのは心地いい。地位さえあれば馬鹿王子でも殿でんと呼ばれて敬われているように、聖女の花婿候補をあげる際に、頭の良し悪しはみていないということだ。
 そしてルークは魔術師団長の息子として、国内トップ二の魔術師の為に選ばれた。ちなみに魔術師トップは勿論、魔術師団長だ。
 その花婿候補には、さいしょうの息子や騎士団長の息子、大神官の息子、地位にものを言わせてこうしゃくれいそくも居るらしい。
 女子高生にとっては、見目が良いだけで充分ハーレムだろう。
 女子高生はオトという名前らしい。オトには、つまり聖女には馬鹿王子が筆頭となり尽くしている状態なのだ。
 それに対してルークは聖女召喚で二人現れたことから、まだどちらが本物か確定はしない方が良いと進言していたそうだ。
 魔術師団、有能か。
 しかし王子はそれを全く意に介さず、困惑していた所に、辺境の村へ行く私のお目付け役を言いつけられたそうだ。
 ルークはしゃくれいそくということで、魔術の腕は凄くても地位は低いため、王子が「お前は偽物の相手がお似合いだ! 下級貴族がこの場に居ることもおこがましい」と言い放った……と。
 ルークとしては偽物断定もそうだが、実力だけで選ばれ、勝手に花婿候補にされた上におこがましいと言われたことがなにより腹立たしかったそうで……

「普段から殿でんが馬鹿で多々衝突があったから離れられるのは喜ばしいが、さすがにムカついてな……あれでも第一王子なんだぜ? しかも王太子なんだぜ?」
「……この国、本当に大丈夫なの?」

 息子がそんな感じなのであれば、王太子と定めた父親の方だって同じようなものだろう。
 会ったこともない国王に期待するのは完全に止めた。結局、国王も私が王城に居る間に問題解決をできなかった無能なのだ。一ヵ月もあったのに。


 朝、城を出発して、休憩を入れつつ馬車での行程は進む。
 お昼はこの世界の携帯食なるものを腹に詰め込み、夜は近くの町で宿をとり休むことになった。
 そしてやってきた苦行のお時間。

「はぁ⁉ お前もそれだけなのか⁉」
「……も?」
「オト様も、ということですか?」

 ルークの言葉に引っかかりを覚えると、代弁するかのようにフェスが名前を出した。
 相変わらずフェスはよろいを絶対に脱がず、器用によろいの口元だけ開けて、そこから食事をしている。食事をしている姿を見るのは初めてだが……
 そうか、食事中も脱がないのかと、その徹底ぶりに、ある意味で感心してしまう。

「オトも食べねぇんだよ。一口頂戴って、皆の皿から一口ずつ貰った後から、なんか食事の時間を嫌がるようになってな。この世界の料理が口に合わないのかと、料理人も試行錯誤していたが全く食が進まなくて、料理人の何人かは殿でんに辞めさせられてたぞ」
「うわ、横暴」

 しかしオトちゃんも、か……
 確かに、日本食が恋しくなるとかいうレベルではなく、この世界の料理は味がない……なさすぎる。
 せいぜいあっても塩での味付けだけというのは、しょう等の発酵調味料を好んで使い、食している日本人にとっては口に合わないのも当然か。
 そして出た、女子高生のあるある、一口頂戴。
 自分の料理だけかと思いきや、全ての料理が同じ味で、この世界の食事に絶望したのだろう……。分かる……分かるよ……

「正直言うと……食事は修行どころか苦行」
「そこまでかよ……」
「死なないならば放棄したい」
「そこまでかよ⁉ 食べられない奴も居るんだぞ⁉」
「命の恵みには感謝してます」
「……そっちの世界、どんなんだよ……」

 食べるものがなく息絶えていく人が居る中で、食事を取れるということは有難いことだ。
 死なない為にも食べる……が、如何せん舌が肥えている。

「ん~道具や材料があるなら作れるけど……」
「異世界の料理、気になるな~」
「それならば、明日の夜は食事の用意をお願いしても良いでしょうか?」
「明日?」

 フェスもお願いするほど気になるのかと思いながら、明日の行程を確認する。
 どうやらこの町で携帯食を買って明日の昼に食べ、夜は周囲に町も村もない為、野宿になるのだと言う。

「……大変申し訳ございません。しっかり護衛はさせていただきますので」
「あ、気にしないので大丈夫です」
「そこは気にしろ。仮にも女ならば」

 気にしても状況は変わらないだろう。
 更に旅程を早める為ならば必要最低限以外は町に寄らなくても良いと伝えると、ルークは盛大なため息をついた。


「鑑定‼ これ本当に凄い‼」

 鑑定と唱えると、目の前にウィンドウのようなものが立ち上がり、対象物の識別結果が表示される。しかもご丁寧に日本語で表示してくれるので、自分の魔法感がしっかり出ていて感動する。

「お前……もう使いこなしてるのかよ……」
「うん‼ これ便利な魔法ね!」

 料理の準備のため手持ちの材料を見せてもらったが、調味料が少ない。
 町でお店をまわってみると、しょうに似たものは調味料としてではなく香り付けとして売られていて驚いたが、一応購入した。
 乾燥までさせてあるので助かるとしても、それだけでは心もとない。
 ハーブはないのかと聞いたら知らないと言われた為、では草を見分ける魔法はないのかと尋ねたところ鑑定の魔法をルークに教えてもらった。
 魔法自体そう簡単に使えるものではないとのことで、半信半疑で使ってみたところ、本当に使えて驚いた。
 あまりの便利さと初めての魔法に感動し、目の前にあるウィンドウに触れようとするほどだ。勿論、触れられるわけはなかったが。
 ルークは呆れの眼差しで子どもかよ……と呟いていたが、そこはしっかりスルーさせてもらう。
 魔法がない世界から来た人間が初めて魔法を使うのだ!
 そりゃ驚きもあるけれど、喜びが勝って当然だろう!
 開き直った私は、ハーブを探す為に次々と鑑定を繰り出していく。

「あ、やっぱバジルだ。これはローズマリーね」

 フェスがいのししを狩ってきたので、解体を任せている間にハーブを探し、ついでに食べられるきのこも、いくつかゲットした。
 かき集めた調味料ではせいぜいスープと、トマトやバジルを混ぜ合わせたものが作れる程度だろう。残念なのはチーズがないことだ。
 スープはいのししの骨を洗い、湯引きしたあとに見つけてきた生姜とネギを入れ、煮出しながら取りをする。煮込むのは魔法で火をおこせるルークに任せて、私は食材を一口大に切っていく。
 解体が終わった肉にはローズマリーをつける。しょうくことが難しいので、綺麗にした石で削ってかけて、見つけてきたニンニクもつけて焼いていく。
 取りが終わったスープは煮込む時間が短いから期待していなかったが、この世界のいのししは良い食材なのか、いい感じの味付けとなっていた。それに野菜を放り込んで、塩としょうで味を整えてみることにする。

「なんかすげぇ良い匂いがする……」

 草ばっか! と喚いていたルークは、料理が完成に近づくにつれ喉を鳴らしている。
 表情は分からないが、フェスも気になるようで、普段微動だにしない肩が少し揺らいでいる。
 私も私で、久しぶりに味がある食事‼ と浮かれてしまう。
 近くにある切り株や岩などを椅子代わりにして、買ってきたお椀にスープを注ぐ。
 肉やトマトなどは綺麗な葉っぱをお皿代わりにしてよそった。

「いっただきまーす!」

 一口、口に含むと感激する。
 久しぶりに味のある食事!
 色んな食材が生えていたことが功を奏したのもあるし、今までの味がなさすぎた食事を考えると幸せでしかない。
 ルークに至っては草が……なんて言いながらも手を止めることなく料理を口に運び、フェスも無言で食べ進めている。

「……これが向こうの料理だったら、そりゃこっちの料理は口に合わないよな」
「食材の味を損なわず、それでいて他の食材がお互いを引き立てあっている」
「うん……調味料がもっと揃えば更に良いんだけどね……」

 これが向こうの味だと思われてもなぁ、と思い少しだけ訂正するも、どうやら喜んでもらえたようで私の心も喜びで温かくなる。


 一夜明け、野営の片付けをした私達は、再び辺境の村へ向かって出発しようとして馬車へ乗り込んだ。

「なにか力がみなぎってくるようですね」

 そう言ってフェスが張り切って馬をひく。 
 野営にしてはしっかり疲れが取れたとルークが言いながら、馬車の中で魔法講義を始めた。

「料理になにか魔法をかけたのか? スワ自体を鑑定して良いか?」
「どうぞ?」
「……嫌がらねぇんだな」

 どうやら人に対して鑑定をするのは相手の全てを暴く行為に等しいため、嫌がられるのが当たり前だという。
 と言っても私は魔法のことがなにも分からないから、嫌がる理由もないと言ったら、ルークは納得していた。
 そもそも聖女が二人いる時点で、魔術師団長が鑑定をかけることを進言したが、それに対しあの馬鹿王子がオトにそんなことができるか! と猛反対したという。
 宰相も一緒になってなんとか鑑定をさせてもらおうとしたが、相変わらずの頑固さで一切話を聞かなかったらしい。じゃあ私のほうの鑑定を……と申し出たが、あんな偽物を構ってどうする! と邪魔ばかりされていたようだ。
 うん。もう簡単に予想できる。
 実際会ったのは暴言を吐かれた時の一回だけだけど、聞けば聞くほど問題しかないな、あの馬鹿王子は。
 意外と苦労していたのねさいしょう……一ヶ月で我慢の限界だと言って出てきたけれど、申し訳なかったかな……

「いや、出てきて正解だと思うぞ」
「……声に出してた?」
「一応、不敬になるから王子の話を外でする時は気をつけろよ?」

 無意識で声に出していたらしい私に対して、ルークは注意するよう言ってくれた。

「じゃ、鑑定……ん?」
「ん?」

 いきなりルークが難しい顔をして私にジッと視線を向ける。

「……鑑定」
「?」
「……お前、なんなの?」
「どういう意味?」
「鑑定ができないんだけど?」
「異世界人は鑑定できないとか?」
「聞いたことないぞ、そんなこと」

 ルークは腕と足を組んで、なにかを考えているようだ。
 更に詳しく鑑定という魔法について聞いてみると、鑑定の魔法は各々のレベルにより差が生じるらしく、当たり前のことながら弱者が強者に鑑定をかけることができない……つまり、自分よりレベルが低い者のみを鑑定できてしまうらしい。
 鑑定ができないということは、私の方がルークよりレベルが高いのではないかということが予想される。
 人間にレベルがあるとか、どれだけRPGな世界なんだと思ってしまうし、それはそれで色々問題も起こりやすそうだ。
 というか、実際に鑑定で問題は起こっているとルークは言う。

「もういっそ自分でステータス見てもらったほうが良さそう。意外とそれもすんなり使えたりして」
「ステータス? おぉ!」

 半信半疑で唱えてみると、またもいきなり目の前に現れたウィンドウに驚かされる。
 いやだって、本当に出ると思わなかったんだもん!

「……ほんと、なんなのお前⁉」

 両手で頭を抱えてルークが俯く。本来そう簡単に魔法は使えないらしいから、魔術師としては色々と思うことがあるのかもしれない。
 そんなルークをよそに目の前に出てきたウィンドウを見ると、そこには見たくもない文字があり、思わず首をかしげた。

「……なんだよ? なにがあった?」
「……いえ別に」

 首を傾げたまま無言の私にルークは怪訝な目を向けるが、私はウィンドウから視線を逸らせない。だってそこには……


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