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しおりを挟む第一章 聖女が二人召喚されました
「わぁああああああ‼」
浮遊感がなくなったかと思ったら、耳が痛くなるほどの歓声が響く。
「……え?」
歓声が鳴り止んだかと思えば、今度は戸惑うような声が聞こえた。
閉じていた目をそっと開けると、目の前には現実とは思えない光景が広がっていた。
中世ヨーロッパを思わせるような石造りの建築に、ひんやりとした冷たい床には魔法陣かと思われる模様が見える。
周囲の人達は、飾りが多く動きにくい、漫画の中でしか見たことのない騎士服やローブを纏っていた。
夢なら醒めてほしい。
到底、現代日本だと思えない光景に、私の頭は静かなパニックと現実逃避を起こしていた。
社畜やブラック企業という言葉が似合うくらい、目まぐるしく毎日働いていた。
一分一秒が惜しい。
そう思う自分が嫌だったわけではない。男ばかりの中でキャリアを積み上げるのは楽しかったし、成果が出れば自分で自分を褒めて喜んだ。
ただ、気が付けば二十八歳になっていて、彼氏もおらず見事に婚期は逃しつつある。
後悔はないとは言わないけれど、仕事が楽しかったので仕方がないと考えていた。
彼氏が居たこともあるが、仕事ばかりで会う時間がなくなり、見事に自然消滅。
正直、会う時間があるなら……寝たい。今も、猛烈に寝たい。
そう思いながらコンビニでいくつか栄養ドリンクや栄養補助食品とお菓子を購入した。
自炊する暇があるなら寝たい。食事するより寝たい。
すでに日付は変わっており、街灯の少ない夜道に人は見当たらない中、カツカツと自分のパンプスの音だけが響く。
普段から企業回りをしている為、いつもパンツスーツに動きやすい踵の低いパンプスだ。
足早に借りているアパートに向かっている、そんな時だった。
いきなり光が現れ、浮遊感に包まれたのは。
……倒れて頭でも打って、今は病院のベッドの上で夢を見ているとか……
そんなことを考えながら足をつねってみるが、痛みはあった。
手にはキチンとコンビニの袋とビジネスバッグが握られている辺り、これが現実の続きだといわんばかりである。
「こ……これは、どういうことだ?」
壁際に十数人ほどの騎士服のようなものを着た人達。私達の周囲にはローブを着た人が数人居る中で、ひときわ豪華なローブを着た人が、いきなり床に手をついた。床に描かれた模様の一つ一つを必死に確認しながら、こちらに視線を向けながら呟く。
「……聖女が……二人? 魔法陣が……? 魔術書の通りに……」
声色的に男性だと思われるだろう。先ほどの人はブツブツなにかを唱えながら、また床を確認している。
周囲の人達も困惑を隠せないようだ。
二人と言っているのは……私達のことだろうか。私の斜め前には制服を着た女の子がいる。
周囲の人が着ているものを考えると、この子は私と同じ境遇なのかもしれない。
先ほどから大きく動くことはないが、自分で自分を抱きしめるように丸まりながら、肩が震えているのが後ろからでも分かる。
「いや! それよりも!」
ローブの人はガバリと顔をあげると、私達二人に視線を向けた。
ローブから赤茶の髪と顔がチラリと見え、その瞳も茶色だと分かる。
へアカラーやカラコンといったものもあるが、コスプレイヤーの類でなければ、ここは日本ではないのだろう。
「いきなり召喚してしまい申し訳ございません。私は魔術師団長で……」
バタンッ!
ローブの人の口から魔術師なんて夢物語のような単語が出てきたところで、大きな音を立てて扉が開いた。
「成功したか⁉ ……ん?」
そこに居たのは金髪碧眼で少し筋肉質な煌びやかな青年で、こちらを向いて難しい顔をした。
「……聖女が二人?」
「そうです、殿下。この度、召喚にて二人現れまして……」
「そんなもの、どちらが聖女か見て分かるだろう」
「さすがに調べてみませんと……前代未聞なことですので……」
私達そっちのけで、魔術師団長は自らが殿下呼びした人と会話をしている。
殿下……それこそ王族に対する敬称だ。つまり、地位の高い人。
上司と部下なんていう上下関係はあれども、身分制度のない国で生まれ育ったため、一体どう接するのが正解なのか分からない。止める魔術師団長を後目に、殿下と呼ばれた人はこちらに歩いてきて女子高生の前で膝を突いた。
「貴女が聖女か?」
先ほど召喚なんて言葉が聞こえたが、聖女は自分が聖女と分かっている上で召喚されるのだろうか? じゃあ、身に覚えのない私はなにかの間違いで巻き込まれただけ?
「聖女? 召喚? では、ここは異世界……? 小説みたい……」
小説って……そういえば本屋で『異世界転生!』なんてタイトルのものを見たなぁ……
じゃあ女子高生に聖女という自覚はないのか? なんて思っていたが、殿下は女子高生の手をしっかり握り締めた。
「おぉ! ではやはり貴女が聖女か‼」
「私が聖女ですか⁉」
「殿下! まだ決まったわけではありません!」
殿下は女子高生の呟くような声を良いように解釈したようで、お互い尋ね合っているような言い方になっている。魔術師団長は、殿下に対して必死に止めるような言葉をかけているが、どうやら殿下の耳には一切届いていないようだ。
そして……
「お前はなんだ」
殿下は私を睨みつけながら、そんな言葉を放った。
「人間」
「見れば分かる! 俺を馬鹿にしているのか!」
あまりの失礼な言い草に少しイラついて、誰でも分かる事実を口にしたら殿下が声を張り上げた。物凄く短気だ。
不敬という言葉があるが、これは不敬に入らないと良いな、なんて思いつつ、まだ現実感を持ててはいない。
思考回路は一応回っているようだが、実際に目の前で繰り広げられている光景は夢のようだ。
「殿下! この方も召喚されてこられた……」
「じゃあ偽物か‼ どうやって紛れ込んだ!」
「殿下!」
なにやら私に対して失礼な言葉をぶん投げているように思えるが、それを魔術師団長は必死に止めている。
「こんな地味で気色悪い色味のやつが聖女な訳ないだろう」
「殿下! ここは慎重に……」
「うるさい! 聖女がババァなわけないだろう!」
暴言を吐く殿下に魔術師団長がなにか進言しようとした。しかし殿下はそれを遮って怒鳴りつける。
というか、今なんつった?
確かに女子高生は髪の毛を染めているのだろう、肩までのピンクブラウンの髪はコテで巻いたように軽くウェーブがかかっている。
……今は綺麗な色でも、髪が伸びたら黒い毛が生えてくると思いますけどね、と思うけれど言わない。
チラリ、とこちらを振り返った女子高生は確かに可愛い顔つきをしていた。
黒いカラコンを入れているのだろう、瞳は大きく、バッサバサな睫毛は今時ならではのマツエクかな。
うん。おしゃれだ。ブレザータイプの制服も可愛いし。
対する私は黒っぽい紺のパンツスーツに黒目で黒髪。汗で崩れてもいいように、軽いナチュラルメイクしかしていない。
ストレートロングの髪は後ろで一つに結んでいるだけで、おしゃれ度はゼロだ。
更に女子高生と十歳は離れているだろう年齢。若さという武器の前では確かに完敗である。
「聖女よ、こちらへ」
魔術師団長達が止める声を聞かず、殿下は女子高生の手を取り立たせると、扉の方へ向かおうとする。
女子高生も目の前の王族にときめいているのか、目の奥がキラキラしてポーッと眺めている。美形の基準がよく分からないけど、まぁ……殿下の見た目は確かに整っている……かな?
なんて思いながら二人を見ていると、扉の前で殿下は立ち止まり私の方を向くと言い放った。
「ババァはとっとと出ていけ」
プツン……と、頭の中でなにかが切れた音がする。
いくら年齢を重ねているとはいえ、訳の分からないまま侮辱されて黙っていられるほど、人間できてはいないし、混乱している頭では怒りの導火線がいつもより短かった。
扉を閉めて出て行った二人に周囲は呆然としたり慌てたりと大忙しな中、私は立ち上がり同じ扉に向かって歩いていく。
「……聖女様? どちらへ?」
魔法陣も気になるのかチラチラと視線を彷徨わせながら、魔術師団長が焦った様子で私へ声をかけた。私はそれに対して怒りから素っ気なく言い放つ。
「ここから出ていく」
「いやいやいや! それは困ります!」
魔術師団長の声が響くと、壁際に立っていた騎士服のようなものを着た身体つきの良い十数人ほどの人達に阻まれる。
「とりあえずお部屋に案内させていただきます。多少手荒になるかもしれませんが」
どこか馬鹿にしたように笑いながら手を伸ばしてきた人の手を取り、そのまま足を掛けて投げ技をきめた。
「……は?」
「邪魔しないでもらえます?」
「団長‼」
なにかの団長らしい人は、床に倒れて呆然とした。そのまま足を進めようとすると、団長はすぐに正気を取り戻し、叫ぶ。
「囲め! 取り押さえろ!」
その声が号令となり、騎士服を着た人達に囲まれる。この人達が武器を持っていなくて助かった。
周囲へ視線をやると扉の側に全身を鎧で纏った……置物のようなものがある。中に人が入っていると少し手ごわいかもしれないなんて思いながら、また前を見据える。
背負い投げ。回し蹴り。四方投げ。
ちょっと人数が多いかな、と感じたが次々と襲い掛かってくる騎士達相手に、その時々に見合った技を繰り出していく。
自分の身は自分で守れるようになりなさいと、両親が兄や弟と共に私を空手道場に入れたのがキッカケで、幼い頃に柔道・空手・合気道・剣道を習ってきたのが功を奏した。
「⁉」
いきなりなにかに足を引っ張られ、身体の軸が一瞬揺れる。
ちゃんと目配りはしていたつもりなのに……そう思って足元を見ると、植物の蔦が私の足に生い茂り、一部が絡みついていた。さらに絡みついていない他の蔦は動いて私の方へ迫ってきていた。
「⁉」
驚いて声が出ないとは、このことだろう。
あっという間に、蔦に手足を拘束されて床に転がされた。
「よくやった!」
「いやー緑魔法もこういう時は役立つよなー」
……魔法? 魔法⁉
非現実的な言葉を聞いて、しまったと思った。
そういえば魔術師団長だと言っていた。つまり、この世界には魔法が存在するのだ。
念頭に置いていなかった魔法の出現により、私は呆気なく捕まった……
彫刻を施された壁や柱のある、派手さも下品さもない、ただただ豪華に感じる部屋に通された。
後ろには見張りのように甲冑を纏った人がいる。先ほど見た鎧は置物ではなかったらしい。
しかし、歩いている姿は規則正しく、立ち姿も微動だにしない為、まるで機械じゃないかと思えてくる。
この世界、科学も発展していたりするのだろうか? 床の石の冷たさから感じるに、床暖房とかはなさそうだけど。
「あのクソガキ……」
目の前に座る宰相と名乗った人は、魔術師団長から話を聞き終えた途端、頭を抱えながら開口一番そう口にした。
宰相と言われる人物は、私より少し年上だろうか。緑の髪に青い瞳をした男性はこめかみに手を当ててため息をついている。
まるでアニメから出てきたような髪や瞳の色だ。もし脱色して染めているのなら、頭皮へのダメージが心配になる。
「とりあえず確認をしたいのですが……この者が言っていることは合っているでしょうか?」
「合ってますね」
こちらの世界に来てから、私の身に起きたことを魔術師団長は宰相に伝えていた。
私がそれに間違いはないと頷くと、宰相は嘘であって欲しかったと現実逃避するような言葉を呟いて、更にため息を吐いた。
ちなみに魔術師団長は報告している時からソワソワと忙しない。合間に、魔法陣が……詠唱が……などといった言葉を呟いていた辺り、二人召喚された理由を検証したいんだろうな、と思える。
「……魔術師団長……」
「はい?」
呆れるように宰相が呼ぶと返事はするものの、どこか上の空のようだ。
「……魔法陣の確認を急いでくれ」
「承知いたしました‼」
言われると魔術師団長は満面の笑みで目を輝かせ、一礼し素早く部屋を出ていった。
「……」
「あー……すまない」
また床に這いつくばって魔法陣を眺めるのだろうかと思い、呆然と魔術師団長の後ろ姿を見送った後の沈黙を、宰相が破った。
「どうやらクソガ……いや、殿下が大変失礼をしたようで……。代わりに謝罪する」
「仕えるのも大変そうですね。国としては大丈夫なのでしょうか」
思わずと言った感じで失言を放ちそうになった宰相に対して、率直な意見を言わせてもらった。それに対して宰相は強く頷くと言葉を続けた。
「あんな馬鹿でも王族だからな。むしろ矯正しようとしない国王も問題だが」
「国王も無能ですね」
むしろそれで国として成り立っている方がおかしいと思うけれど、それなりに歴史があれば無能がトップに立っても数年ほどはどうにかできるのだろうか……余程のことがない限りは。先行きが不安でしかない国だなと思う。
宰相は再びため息をつきながら、申し訳なさそうに言い出した。
「勝手な言い分だとは分かっているが、どうかこちらの事情が分かるまでは大人しくしていてほしい」
「それは二人召喚されたとか、この国での聖女とか、そういうのが政治に絡んできたりするという意味でしょうか」
私が発した言葉に宰相の肩がピクリと動き、面白そうに真っ直ぐに私を見る。
「……ほぅ? ……そうだと言ったら?」
「政治が絡むのであれば、色々と面倒なので大人しくはしますよ。こちらの世界に関してはまだなにも知りませんからね」
「ふむ。それは手間が省ける。どうやら話が分かるようだな。私は賢い人間は嫌いではない」
楽しそうに言う宰相だが、言葉の最後に馬鹿は嫌いだが、と呟いたのが聞こえた。
「とりあえず後ろの騎士を護衛につける。あのアホ王子のことがあるしな。私はエベレ・グランキン。侯爵だ。先ほどの魔術師団長はアドラス・ドレスラー子爵。よろしく頼む」
侯爵に子爵……中世ヨーロッパのような階級だなと考えつつ頭の中に叩き込む。そうしていると騎士の方も口を開いた。
「フェスとお呼びください」
護衛なんて必要なのかと思ったが、自分はこの世界を知らないのだから、とりあえず受け入れるとして……自分の名前をそのまま名乗る気にもならない。ならば……
「……スワです。よろしくお願いします」
常日頃使っていたSNSのハンドルネームを名乗る。
……ネット社会では常に偽名だった。この世界では文字だけの関係ではなく声で呼ばれるが……多分そこまで違和感はない筈。
「スワ様! お待ちください‼」
「いやもう無理でしょ」
フェスの声に、私の足が止まることはない。目指すは宰相の執務室。
ここに滞在して一ヶ月。
社畜的な思考からすると、一ヶ月続けられれば次は三ヶ月……そして半年はいけるとなるけれど、そうはいかなかったのだ。
最初の一週間は侍女からの嫌がらせが凄かった。
「貴女のようなお年の方にはこれで十分でしょう」と用意されたのが地味なワンピースのみ。しかしシンプルなほうが好きな私としては色なんてどうでも良かった。
欲を言えばズボンのほうが良かったくらいだ。
辛かったのは水も飲ませてもらえなければ、お風呂も入れず、顔を洗う為に用意された水なんて、手を付けたら痛いほどの冷水だったこと。食事も冷たい野菜くずのスープに硬いパンだけだった。
部屋はかろうじて客室のような感じではあったが、ベッドの中に針が仕込まれていた。
ただでさえ疲れた顔をしていたが、更に日に日にやつれていく様子にフェスが気づき、それからは全て彼がやってくれることになった。
……ただの護衛なのに。全身甲冑で重そうなのに、細かく動いてくれる。ついでに宰相へも報告してくれたようで、私に侍女がつくことはなくなり、周囲に警戒せず暮らせるようになった。
……そういえば、フェス=全身甲冑のイメージが定着してしまって、常日頃側にいるのに、その素顔を見たことがない。
それから食事にサラダや果物がつくようになったが、結局不味い。嫌がらせとしか思えないほど、本当に不味い。
味付けがほぼなく、見た目だけの料理なのだ。全員がこういう食事をしているのなら、これがこの世界の料理なのだろう。おかげで食は細り、やつれたままだ。
料理をはじめ、この国のことを知ろうと王城にある図書室へ通っていると……
「偽聖女」「厄介者」「穀潰し」「ババァ」「邪魔者」「気持ち悪い」そんな言葉があちこちから聞こえてくる。悪口なら本人に聞こえないように言えと言いたいが、ババァという言葉から大元は権力も地位も持っている馬鹿王子だというのが分かる。
周囲もそれに乗っているのか、ゴマすりしたいのか。それでマトになるこちらとしては、たまったものではない。
挙句、宰相に理由を含め報告した後、気分転換にと外出許可を取ってきてくれたフェスが、私を城下へ連れ出してくれた時も酷いものだった。
偽聖女は黒目黒髪とまで噂が流れていて、それに当てはまるのが私しか居ない。
……確かにこの世界では、様々な色をした髪や目の人が居るけれど、両方黒というのを私以外見ていない。
……まぁ、一緒に召喚された女子高生も元は同じだろうけど、現時点では髪は染めているようでピンクブラウンだ。
フェスが居るから怪我などすることはないが、街の男達がフェスを邪魔だと言わんばかりに睨みつけるため、明らかな敵意を感じる。その上、屋台でなにか買おうとしても門前払いされるから気分転換どころではない。
そんな状態で、このまま大人しく王城で暮らせと言われてもと、我慢の限界がきた私は周囲の止める声も聞かず、ここまでやってきた。
フェスに宰相と会えるように手配を頼んでいたけれど、なかなか会える予定が立たない。
どうやら馬鹿王子を筆頭に周囲の人間が、偽聖女が宰相と会う必要性はないと勝手に判断をし、会えないよう妨害していたようだ。その為、こうして自ら乗り込んできた。
幸い? なことに、フェスが側にいるおかげか、警備に配置されているだろう人達から手荒な真似をされることなく、宰相の執務室の前に辿り着けた。
「エベレ・グランキン侯爵!」
宰相の執務室に向かって私は大声を張り上げる。
「エベレ・グランキン侯爵! お話があります!」
執務室の扉に立っていた騎士が流石に止めようとしてきたけれど、問答無用で技をかけ投げ飛ばしたところで、扉の中から宰相が顔を出した。
「……スワ様……?」
私の姿を視界に捉えた宰相は、そのまま手で顔を覆って項垂れた後、執務室に通してくれた。促され対面で座ると、私は間髪入れず言う。
「もう城にとどまるのは耐えられないですね」
「……だからと言って先ほどのような……」
「手を出してきたから対応しただけです」
宰相が頭を抱えてため息をつく。
「報告は上がっているでしょう? 私は限界です」
言外に容赦なく手を出すぞということを滲ませると、報告を全て理解しているのか宰相は更に俯いた。
そしてまた周囲に聞こえないような小声で、あのクソガキが……と呟きながら。
「分かりました。城以外で暮らせる場所を用意しましょう」
「城以外で、ある程度安全が保たれて、自由に暮らせる場所であれば何処でもいいです」
「……本当に、スワ様という人は……」
先ほどとは違い、宰相は軽く息をつく。
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