双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「私はお父様たちと楽しくお食事をして劇団に行くところなんだけど、どうして死んだはずのお姉様がここにいるのかしら?」

シャルルの冷たい言葉が、まるで刃のようにミシャルの胸に突き刺さった。
先程まで溢れるように満たされていた喜びが、一瞬で消し飛んでいくようだった。
過去の惨めだった自分――気配を消し、誰にも迷惑をかけないようにしていた日々が、鮮明に蘇ってくる。
シャルルの言葉が、鋭い針のようにミシャルの胸に刺さる。
彼女の声には遠慮や優しさなど一切なく、かつて自分が家で感じていた惨めな思いが蘇ってくるようだった。
幸せを感じかけていた自分が、ほんの数言で薄れていくのを感じ、ミシャルの手は震えていた。

クロディクスはすぐに状況を理解するとミシャルの身体を肩ごと抱きしめるようにしてシャルルと対峙した。
そこでようやく、シャルルの視線がミシャルの隣に立つクロディクスに向いた。

ミシャルはクロディクスの身体が光を放つのを感じた。
それは他の人も同じだったらしい。
先程まで、ミシャル達を見る人はいなかった街の人々が皆クロディクスを見ている。

最初は驚いたようだったが、シャルルはミシャルに向けていた冷たい表情を決してクロディクスにわかりやすく甘い声をだした。

「まあ、素敵な方と一緒だったなんて……私、ミシャルお姉様の妹のシャルルと申します」

シャルルはそう言うと、クロディクスに近づき、媚びるような視線を送りながら、自分の美しさをアピールするかのように振る舞った。
シャルルはミシャルの目から見ても特別美しかった。
一見瓜二つではあるものの、よく見るとシャルルは爪の先から全てを磨き上げていた。
ミシャルの痛みだらけの肩までの髪とは違い、腰まで伸びるウェーブがかった髪は太陽の光を受けて一層ひかっていて、シャルルが動くたびに甘い香りがする。

「お姉様を助けて頂きありがとうございます」

シャルルは甘えた声で、まるでミシャルをいない者のようにしてクロディクスの身体に自分の身体を近付ける。彼女の態度は一切遠慮なくクロディクスが何も言わない事に気をよくしたのかより一層甘い声でクロディクスに話しかけ、さりげなく自分の魅力を強調する仕草を見せつける。そして、まるでミシャルの存在を否定するかのように続けた。

「ミシャルお姉様を助けて下さったお礼にぜひ、一緒にお食事でもいかがですか?」

その言葉に、ミシャルの心は再びズタズタに引き裂かれたような気持ちになった。
自分はシャルルにかなわない――その言葉が、シャルルの一挙一動によって痛烈に突きつけられ、すがるようにして見上げたクロディクスが穏やかな笑顔を浮かべて居るのを見てミシャルはその場にいたたまれなくなり、絶望的な気持ちに支配されたと同時にミシャルはその場から逃げる様に走り出していた。
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