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プロローグ

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珠里しゅりの真っ赤に染まった頬に聖蘭せいらんの小さな手がかかった。

「…初めてだから、優しくしてくれる?」

絡まっていた視線を右下に動かして珠里は聖蘭の視線から隠れようと身を縮こませた。


本当は言わないつもりだった言葉が勝手に口からでて、1番驚いたのは珠里かもしれない。

緊張しすぎて何か言わなければとテンパって失敗した。
言わなければよかった…面倒くさい女だと思われたかもしれない。

ただ自分が元に戻るための実務的なキスものを意識するなと呆れられた?

珠里は恐る恐る、何も言ってくれない聖蘭をそっと仰ぎ見た。


戸惑いに揺れた聖蘭の目が珠里を見て緊張した色を宿す。

「そうか、…やめておくか?」
珠里を気遣った優しい声に、首を横にふる。


聖蘭の目が珠里に穏便にかたる。

言葉はもうなかった。


珠里の存外長いまつ毛が頬に影をつくる。

聖蘭が近寄ってくる気配が目を閉じて居てもわかる。

鼻筋とが先に触れ合い、珠里の唇に聖蘭の唇が触れる。


「…ありがとう、珠里」

掠れた低い声が鼓膜を揺らしてすぐ、珠里の目が見開かれる。
珠里の頬を両手で抱いた手が大きくなっている。
蕩けた視界に、龍蒼の龍眼が大きくブレる。

「本当に、?」
「ああ」
問いかけながら伸ばされた珠里の指先が確かめるように龍蒼の唇に触れる。

「お前のおかげだ」

そう言って龍蒼は珠里を力の限り抱きしめた。



_______

あの時には既に落ちていた。
後に彼はこう語る。

『初恋』
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