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世界を喰らうモノ
39.砂漠の雨
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移動する蝗の群れに並行するように伸びる運河に沿って魔導士の部隊が散開していく。
二本の運河はいくつもの支流で繋がっていて水の流れは網目のように広がっている。
魔導士とドライアドは五百ほどの小部隊に別れてその網目の中に配置されていく。
その範囲は数百キロにも渡っているため、全部隊が配置についたのは翌日の朝だった。
「全部隊配置につきました」
ベルトラン軍総大将ザファルの言葉にゼファーが頷く。
「これより砂漠の雨作戦を開始する!」
ザファルの言葉が通信用水晶球を通して伝えられ、各所に配置された魔道士たちの詠唱が始まった。
運河の水が霧となって立ち上り、蝗の群れを覆っていく。
俺はその様子を上空から見守っていた。
水魔導士が作り上げた霧は風魔導士によって霧散することなく蝗の群れを包んでいく。
上空から見ると巨大な白いドームができていくようだった。
「凄え…」
思わず声が漏れる。
それはそれほどに幻想的な光景だった。
大陸中を蝕む災厄がその下で蠢いているなんて信じられないくらいだ。
半日ほどかかって霧のドームは蝗の群れを完全に覆いつくした。
「ドライアドがカビを放ち始めたぞ」
耳に付けた水晶球からリンネ姫の声が聞こえてきた。
上空から見ても何も変わったようには見えない。
それでも地上ではみんなが必死になって任務を遂行しているのだろう。
ドライアドによるカビの放出は一日ほどかけて行われ、それから先は勝手に広がっていく手はずになっている。
「これなら問題ないかな」
そう思った時、霧のドームに突然異変が生じた。
真っ白なドームにところどころ穴が開きはじめている。
なんだ?何が起きているんだ?
「リンネ姫、何か変だぞ!」
「どうしたのだ?こちらからは何も…」
「何が起きているのだ?もっとわかりやすく説明しろ!」
ヘルマが割り込んできた。
「霧のドームに穴が開いてるんだ!このままだとその隙間から蝗が逃げ出すぞ!」
「なんだと!?わかった、今すぐ向かうから場所を…」
「いや、それは駄目だ!ヘルマはそのままそこでリンネ姫とゼファーの護衛をしていてくれ!俺が行く!」
陸路を移動していたんじゃ間に合わない。
それにこれはゼファーを襲うための陰謀の可能性だってある。
だったら俺が行くしかない!
俺はドームの穴が開いた部分へ向かってまっすぐ落ちていった。
◆
「こ、これは…?」
地上に降り立った俺はその光景を見て絶句した。
ベルトランの魔導士がドライアドや龍人族を攻撃していたのだ。
いや、一部の、魔導士だ。
その魔導士の攻撃からドライアドたちを守っている魔導士もいる。
「なにやってんだよ!」
俺はその魔導士を即座に拘束した。
「何のつもりでこんな真似をしてるんだ!」
「ふん、魔族に阿るなどヒト族の魔導士としてできるわけがなかろう!」
その魔導士は拘束されながらも全く悪びれる様子を見せずに叫んだ。
「こいつは一体なんなんだ?」
「わかりません、急に詠唱を止めてこちらに攻撃魔法を仕掛けてきたんです」
守備をしていた兵士が怪我をしたドライアドを肩で支えながら説明した。
「てめえ、この作戦を邪魔するつもりで紛れ込んでいたのか!」
「馬鹿め!知ったところでもう遅いわ!」
拘束された魔道士が吠えた。
「我らの同志がこんなふざけた作戦など壊滅させてくれる!」
我らだと?まだこんな奴が他にいるってのか!
俺は大急ぎで上空に舞い上がった。
「クソ!やられた!」
至る所で魔導士、あるいは兵士による反乱が始まっていた。
このタイミングを狙って反逆者を紛れ込ませていたのか!
一つ一つの争いは小規模だけど魔導士やドライアドが作戦に集中できなくなっているためにほころびが出始めている。
霧で出来たドームが徐々に崩壊しつつあった。
このままだと蝗が脱出してしまう!
「テツヤ、大変なことが起きたぞ!」
その時耳元でリンネ姫の叫び声が響いた。
言わなくても何のことだかわかる。
「こっちも確認している!あいつら、すぐに対応できない距離まで離れるのを狙ってやがったんだ!」
数百キロに渡る範囲をカバーしようとするとどうしても一部隊毎の間隔がかなり広くなってしまう。
それを狙って魔導士や兵士に反乱を起こさせてこの作戦に穴を作るつもりなのだ。
冗談じゃない!今更そんなことでこの作戦を邪魔されてたまるか!
とはいえこれだけの距離だと一か所一か所回って鎮圧していく暇はない。
「どうする?」
「一か八か、やってみるしかない!」
「テツヤ、何をする気なのだ?まさか…!」
リンネ姫の通信を半ば強引に切って俺はドームの中心に降り立った。
見上げると霧のドームが薄れてきて、蝗の群れの隙間から青空が見えかけている。
躊躇している時間はない!
俺は首に付けられていた封魔環を無理やりちぎり取った。
地面に手を当てて周囲をスキャンするために一気に魔力を開放させる。
その範囲は半径三百キロ!
体内からあふれ出す膨大な魔力の奔流に意識を持っていかれそうになるのを必死で堪えながらスキャンを続けた。
地面を通して戦いを仕掛ける魔導士と兵士の位置を捉えていく。
反乱を起こした者の数は魔導士と兵士を合わせておおよそ千名、半径三百キロの中に散らばっている。
これだけの数と範囲だと拘束するなんて細かな技は使っていられない!
「うおおおおおおおおっ!!!!」
絶叫と共に反乱者の足下を沈下させた。
その深さはざっと十メートル、一人でよじ登るのは不可能な深さだ。
「ざまあ…みろ…」
全員を行動不能にしたのを確かめたのと倒れ込んだ俺の顔が地面にめり込んだのはほぼ同時だった。
二本の運河はいくつもの支流で繋がっていて水の流れは網目のように広がっている。
魔導士とドライアドは五百ほどの小部隊に別れてその網目の中に配置されていく。
その範囲は数百キロにも渡っているため、全部隊が配置についたのは翌日の朝だった。
「全部隊配置につきました」
ベルトラン軍総大将ザファルの言葉にゼファーが頷く。
「これより砂漠の雨作戦を開始する!」
ザファルの言葉が通信用水晶球を通して伝えられ、各所に配置された魔道士たちの詠唱が始まった。
運河の水が霧となって立ち上り、蝗の群れを覆っていく。
俺はその様子を上空から見守っていた。
水魔導士が作り上げた霧は風魔導士によって霧散することなく蝗の群れを包んでいく。
上空から見ると巨大な白いドームができていくようだった。
「凄え…」
思わず声が漏れる。
それはそれほどに幻想的な光景だった。
大陸中を蝕む災厄がその下で蠢いているなんて信じられないくらいだ。
半日ほどかかって霧のドームは蝗の群れを完全に覆いつくした。
「ドライアドがカビを放ち始めたぞ」
耳に付けた水晶球からリンネ姫の声が聞こえてきた。
上空から見ても何も変わったようには見えない。
それでも地上ではみんなが必死になって任務を遂行しているのだろう。
ドライアドによるカビの放出は一日ほどかけて行われ、それから先は勝手に広がっていく手はずになっている。
「これなら問題ないかな」
そう思った時、霧のドームに突然異変が生じた。
真っ白なドームにところどころ穴が開きはじめている。
なんだ?何が起きているんだ?
「リンネ姫、何か変だぞ!」
「どうしたのだ?こちらからは何も…」
「何が起きているのだ?もっとわかりやすく説明しろ!」
ヘルマが割り込んできた。
「霧のドームに穴が開いてるんだ!このままだとその隙間から蝗が逃げ出すぞ!」
「なんだと!?わかった、今すぐ向かうから場所を…」
「いや、それは駄目だ!ヘルマはそのままそこでリンネ姫とゼファーの護衛をしていてくれ!俺が行く!」
陸路を移動していたんじゃ間に合わない。
それにこれはゼファーを襲うための陰謀の可能性だってある。
だったら俺が行くしかない!
俺はドームの穴が開いた部分へ向かってまっすぐ落ちていった。
◆
「こ、これは…?」
地上に降り立った俺はその光景を見て絶句した。
ベルトランの魔導士がドライアドや龍人族を攻撃していたのだ。
いや、一部の、魔導士だ。
その魔導士の攻撃からドライアドたちを守っている魔導士もいる。
「なにやってんだよ!」
俺はその魔導士を即座に拘束した。
「何のつもりでこんな真似をしてるんだ!」
「ふん、魔族に阿るなどヒト族の魔導士としてできるわけがなかろう!」
その魔導士は拘束されながらも全く悪びれる様子を見せずに叫んだ。
「こいつは一体なんなんだ?」
「わかりません、急に詠唱を止めてこちらに攻撃魔法を仕掛けてきたんです」
守備をしていた兵士が怪我をしたドライアドを肩で支えながら説明した。
「てめえ、この作戦を邪魔するつもりで紛れ込んでいたのか!」
「馬鹿め!知ったところでもう遅いわ!」
拘束された魔道士が吠えた。
「我らの同志がこんなふざけた作戦など壊滅させてくれる!」
我らだと?まだこんな奴が他にいるってのか!
俺は大急ぎで上空に舞い上がった。
「クソ!やられた!」
至る所で魔導士、あるいは兵士による反乱が始まっていた。
このタイミングを狙って反逆者を紛れ込ませていたのか!
一つ一つの争いは小規模だけど魔導士やドライアドが作戦に集中できなくなっているためにほころびが出始めている。
霧で出来たドームが徐々に崩壊しつつあった。
このままだと蝗が脱出してしまう!
「テツヤ、大変なことが起きたぞ!」
その時耳元でリンネ姫の叫び声が響いた。
言わなくても何のことだかわかる。
「こっちも確認している!あいつら、すぐに対応できない距離まで離れるのを狙ってやがったんだ!」
数百キロに渡る範囲をカバーしようとするとどうしても一部隊毎の間隔がかなり広くなってしまう。
それを狙って魔導士や兵士に反乱を起こさせてこの作戦に穴を作るつもりなのだ。
冗談じゃない!今更そんなことでこの作戦を邪魔されてたまるか!
とはいえこれだけの距離だと一か所一か所回って鎮圧していく暇はない。
「どうする?」
「一か八か、やってみるしかない!」
「テツヤ、何をする気なのだ?まさか…!」
リンネ姫の通信を半ば強引に切って俺はドームの中心に降り立った。
見上げると霧のドームが薄れてきて、蝗の群れの隙間から青空が見えかけている。
躊躇している時間はない!
俺は首に付けられていた封魔環を無理やりちぎり取った。
地面に手を当てて周囲をスキャンするために一気に魔力を開放させる。
その範囲は半径三百キロ!
体内からあふれ出す膨大な魔力の奔流に意識を持っていかれそうになるのを必死で堪えながらスキャンを続けた。
地面を通して戦いを仕掛ける魔導士と兵士の位置を捉えていく。
反乱を起こした者の数は魔導士と兵士を合わせておおよそ千名、半径三百キロの中に散らばっている。
これだけの数と範囲だと拘束するなんて細かな技は使っていられない!
「うおおおおおおおおっ!!!!」
絶叫と共に反乱者の足下を沈下させた。
その深さはざっと十メートル、一人でよじ登るのは不可能な深さだ。
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