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世界を喰らうモノ
38.作戦決行!
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暗い闇の中を動く人影がある。
一人や二人じゃない、十数人の集団だ。
彼らが手にする武器は月光に反射しないように黒く塗られている。
その集団は音もなくとある建物へと近づいていった。
頷きとハンドサインだけで淀みなく数人ごとにチームを組んで滑るように高い塀を乗り越えて敷地の中へと侵入していく。
それは長年訓練を積んできた者の動きだった。
音もなく塀を乗り越えると目の前にそびえる建物へと接近していき…そこでその建物の灯が一斉に点いた。
建物から放たれる魔石の強力な光がその集団を照らし出す。
「!?」
突然のことに面食らって動きを止めた武装集団は地面から這い伸びてきた針金に一瞬で搦め捕られた。
「これで何組目だ?」
俺はあくびを噛み殺しながら外に出た。
針金でがんじがらめにされた侵入者たちはセレンたち護衛隊に確保されている。
ここメッディンに基地を構えてからというもの、フィルド王国とワールフィアの面々が泊まる屋敷と野営地は連日のように侵入者の襲撃を受けていた。
「まさか本当に妨害があるなんてな」
ヘルマの警告で警備を固めておいて本当に良かった。
野営地の方は龍人族の戦士が鉄壁の守りを引いている。
今までに捕まえた侵入者は十人や二十人じゃ効かない。
そのほとんどが傭兵や元傭兵で、尋問をしても街で見知らむ男に依頼を受けた、魔族が憎いからそれに組みする奴らを痛めつけてほしいと言われた、という答えしか返ってこなかった
「まったく、黒幕の連中はこの国を守ろうって気がないのか」
「嫌がらせにしては少し悪質すぎるな」
剣を構えたソラノが近づいてきた。
「ソ、ソラノ、その恰好は…」
文字通りおっとり刀で駆け付けたソラノはネグリジェ姿で、その薄い生地が月光で透けている。
その下には…なにも身につけていない?
「こ…これは!賊が出たというから慌てて出てきたのだ!見るな!」
ソラノは顔を真っ赤にしながら腕で前を隠した。
「しかし今回の奴らも何も吐かぬだろうな」
屋敷から出てきたリンネ姫がため息をついた。
こちらも極薄生地のネグリジェ姿だけどソラノと違って堂々としている。
それはそれで困るんだけど。
「いや、それは大丈夫かもしれないぞ」
しばらく待っていると塀を乗り越えて近づく影があった。
フラムだ。
「見つけたのか?」
俺の言葉にフラムが頷いた。
「頭目が隠れ家に入っていくのを確認した。今は別のメンバーが見張ってる」
針金で連中を縛り上げた時に敢えて隙を作って隊長と思しき人間だけ逃がしたのだ。
そいつを見張っていれば依頼主と連絡を取るかもしれない。
「とりあえず今日はもう寝よう。明日はいよいよ決行なんだしさ」
俺はあくびをしながら振り返った。
明日は遂に砂漠の雨作戦の決行日だ。
◆
翌日は今までと同じようになんの代わり映えもなくやってきた。
しかし街を包む空気は昨日までとは全然違う緊張感と高揚を孕んでいる。
野営地にはドライアド族と龍人族、ベルトラン帝国とフィルド王国の魔導士が立ち並び、その時を今や遅しと待っていた。
「諸君!遂にこの日が来た」
壇上でゼファーが声を張り上げた。
「蝗の群れはここメッディンへと迫りつつある。我が国が忌々しき蝗の群れによって蹂躙されているのは認め難い悲劇である。だが我々はその事実を受け止め、止めるべくここへこうして集ったのだ」
ゼファーの演説が続いていく。
「特に襲撃はないみたいだな」
「流石に今この場ではないだろう。連中にとってもこの蝗害は焦眉の急だ。完全にふいにするということは考えられない」
隣にいるヘルマが前を向きながら小声で答えた。
「だが何らかの妨害はありやもしれない。警戒を怠るわけにはいかないだろう」
「フィルド王国並びにワールフィアのドライアド国と龍人族の諸氏には対岸の火事であるにも関わらずこうして馳せ参じてくれた事に感謝の意を申しあげる。これが過去の確執を乗り越え、再び対話の機会となることを王として望むものである」
ゼファーの言葉に少なくないどよめきが起こった。
ベルトランの王自らがワールフィアと和解する意思があることを認めたのだ。
俺は素早く辺りを見渡した。
列席している貴族や執政官の中には苦い顔をしている者が何人もいる。
当然カエソもその中に含まれていた。
「これは一悶着ありそうだな」
ヘルマが小さく頷いた。
「今、この場に集ってくれた者たち、汝らはヒト族魔族等しく余の誇りである。この時点で既に我々はこの戦いに勝利しているのだ!これから行うことは蝗の掃討でも戦いでもない!これはミネラシア大陸に踏みしめられる新たな一歩なのだ!」
ゼファーの演説が終わると同時に進軍ラッパが吹き鳴らされた。
軍の護衛と共に魔導士が小隊に別れて移動を開始する。
ドライアドと龍人族もその小隊の中に加わっている。
砂漠の雨作戦が始まった。
一人や二人じゃない、十数人の集団だ。
彼らが手にする武器は月光に反射しないように黒く塗られている。
その集団は音もなくとある建物へと近づいていった。
頷きとハンドサインだけで淀みなく数人ごとにチームを組んで滑るように高い塀を乗り越えて敷地の中へと侵入していく。
それは長年訓練を積んできた者の動きだった。
音もなく塀を乗り越えると目の前にそびえる建物へと接近していき…そこでその建物の灯が一斉に点いた。
建物から放たれる魔石の強力な光がその集団を照らし出す。
「!?」
突然のことに面食らって動きを止めた武装集団は地面から這い伸びてきた針金に一瞬で搦め捕られた。
「これで何組目だ?」
俺はあくびを噛み殺しながら外に出た。
針金でがんじがらめにされた侵入者たちはセレンたち護衛隊に確保されている。
ここメッディンに基地を構えてからというもの、フィルド王国とワールフィアの面々が泊まる屋敷と野営地は連日のように侵入者の襲撃を受けていた。
「まさか本当に妨害があるなんてな」
ヘルマの警告で警備を固めておいて本当に良かった。
野営地の方は龍人族の戦士が鉄壁の守りを引いている。
今までに捕まえた侵入者は十人や二十人じゃ効かない。
そのほとんどが傭兵や元傭兵で、尋問をしても街で見知らむ男に依頼を受けた、魔族が憎いからそれに組みする奴らを痛めつけてほしいと言われた、という答えしか返ってこなかった
「まったく、黒幕の連中はこの国を守ろうって気がないのか」
「嫌がらせにしては少し悪質すぎるな」
剣を構えたソラノが近づいてきた。
「ソ、ソラノ、その恰好は…」
文字通りおっとり刀で駆け付けたソラノはネグリジェ姿で、その薄い生地が月光で透けている。
その下には…なにも身につけていない?
「こ…これは!賊が出たというから慌てて出てきたのだ!見るな!」
ソラノは顔を真っ赤にしながら腕で前を隠した。
「しかし今回の奴らも何も吐かぬだろうな」
屋敷から出てきたリンネ姫がため息をついた。
こちらも極薄生地のネグリジェ姿だけどソラノと違って堂々としている。
それはそれで困るんだけど。
「いや、それは大丈夫かもしれないぞ」
しばらく待っていると塀を乗り越えて近づく影があった。
フラムだ。
「見つけたのか?」
俺の言葉にフラムが頷いた。
「頭目が隠れ家に入っていくのを確認した。今は別のメンバーが見張ってる」
針金で連中を縛り上げた時に敢えて隙を作って隊長と思しき人間だけ逃がしたのだ。
そいつを見張っていれば依頼主と連絡を取るかもしれない。
「とりあえず今日はもう寝よう。明日はいよいよ決行なんだしさ」
俺はあくびをしながら振り返った。
明日は遂に砂漠の雨作戦の決行日だ。
◆
翌日は今までと同じようになんの代わり映えもなくやってきた。
しかし街を包む空気は昨日までとは全然違う緊張感と高揚を孕んでいる。
野営地にはドライアド族と龍人族、ベルトラン帝国とフィルド王国の魔導士が立ち並び、その時を今や遅しと待っていた。
「諸君!遂にこの日が来た」
壇上でゼファーが声を張り上げた。
「蝗の群れはここメッディンへと迫りつつある。我が国が忌々しき蝗の群れによって蹂躙されているのは認め難い悲劇である。だが我々はその事実を受け止め、止めるべくここへこうして集ったのだ」
ゼファーの演説が続いていく。
「特に襲撃はないみたいだな」
「流石に今この場ではないだろう。連中にとってもこの蝗害は焦眉の急だ。完全にふいにするということは考えられない」
隣にいるヘルマが前を向きながら小声で答えた。
「だが何らかの妨害はありやもしれない。警戒を怠るわけにはいかないだろう」
「フィルド王国並びにワールフィアのドライアド国と龍人族の諸氏には対岸の火事であるにも関わらずこうして馳せ参じてくれた事に感謝の意を申しあげる。これが過去の確執を乗り越え、再び対話の機会となることを王として望むものである」
ゼファーの言葉に少なくないどよめきが起こった。
ベルトランの王自らがワールフィアと和解する意思があることを認めたのだ。
俺は素早く辺りを見渡した。
列席している貴族や執政官の中には苦い顔をしている者が何人もいる。
当然カエソもその中に含まれていた。
「これは一悶着ありそうだな」
ヘルマが小さく頷いた。
「今、この場に集ってくれた者たち、汝らはヒト族魔族等しく余の誇りである。この時点で既に我々はこの戦いに勝利しているのだ!これから行うことは蝗の掃討でも戦いでもない!これはミネラシア大陸に踏みしめられる新たな一歩なのだ!」
ゼファーの演説が終わると同時に進軍ラッパが吹き鳴らされた。
軍の護衛と共に魔導士が小隊に別れて移動を開始する。
ドライアドと龍人族もその小隊の中に加わっている。
砂漠の雨作戦が始まった。
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