外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

文字の大きさ
210 / 298
火神教騒乱

39.ベルトラン十五世の提案

しおりを挟む
「俺がウルカンシアを?」

 ゼファーが頷いた。

「ちょ…」

 立ち上がるリンネ姫をゼファーが手で制した。

「今は余がテツヤに話しているのだ。リンネ姫、そなたの意見は後で聞こう」

 その言葉には帝王の重みがあった。

 それでも尚詰め寄ろうとしていたリンネ姫だったけれど、結局我慢して座り直した。


「知っての通り彼の地はまだまだ問題が多く独立派の気運も高い。同時にまだまだ発展する可能性も秘めている。主があの地を治めるならばそれは他の誰が成すよりも進むだろう。それは彼の地に平和をもたらし、ひいてはこの大陸の安寧にも繋がることになるはずだ」

 俺はゼファーの話を聞き続けた。

「主には彼の地を治めるにふさわしい地位を授ける。元老院議員にも匹敵する地位、そして権利もだ。あの地をどう扱っても構わぬ。主の好きにしていい」

 ゼファーはそこで言葉を切った。

「どうだ、やってみぬか?」




「確かにこれは大した申し出だと思う」

 長い沈黙の後で俺は口を開いた。


「俺の力をそこまで買ってくれているのは素直に嬉しいよ。ウルカンシアには縁もできたし、気にならないと言えば嘘になるしね」

 ゼファーは黙って俺の話を聞いていた。


「それでもやっぱり俺の居場所はフィルド王国なんだ。ここにはかけがえのない仲間もいる。まだまだやりたいこともある。だから申し訳ないけどその誘いは断らせてもらうよ」

 背後でみんなが安堵の吐息を漏らしたのが聞こえる。


「そうか。ならば仕方がないな」

 意外にもあっさりとゼファーは引き下がるとリンネ姫の方を向いた。


「リンネ姫、何か言いたいことがあったのではないか?」

「あ?ああ…いや、言いたいことは特に何もない…ですわ」

 急に話を振られて慌てるリンネ姫を見てゼファーが笑みを浮かべた。


「ならばこちらの話を続けさせてもらおうかな。余は今後フィルド王国との関係を一層深めていこうと思っている。特に農業や魔術、技術の面で協力体制を築いていきたいのだ。そのことについていかが思う?」

「え、そ、それは…喜ばしいことと存じ上げますわ…」

 リンネ姫の言葉を待たずにゼファーが満面の笑みを浮かべた。


「であるか!ならば我が国とそちらとで専門の担当官を立ててより詳しく話を詰めていくことにしようではないか。そちらからは是非ともテツヤを充ててもらいたいのだがいかがかな」

「んな?」

 話が急展開すぎてついていけないぞ。



「どうだ?この協定が結ばれれば貴国は我が国の技術、魔術に今まで以上に触れることができるようになるぞ。更に両国間の交易の関税も下がることになろう。これは両国にとって益になることだと思うが」

「待った待った待った!いきなり担当官と言われても困るぞ。何をやるのかすらわからないってのに」

「なに、大した仕事ではない。ただ単に今までよりも我が国内で自由に動けるようになる程度だと思ってくれ。まあ前から自由にやっていたとは思うがな」

 う、今更それを持ち出すかよ。

 結構物覚えが良いなこの王様は。



「…わかりました」

 しばしの沈黙の後でエリオンが口を開いた。


「おそらく詳しい内容は後程正式に詰めることになると思いますが、我が国としましても願ってもない提案でありますので担当官の件も含めて前向きに進めていきたいと思います」

 うむ、とゼファーは満足そうに頷いた。

「よろしく頼んだぞ。ひとまずは式典までゆっくり休むといい。このガルバジアもまだゆっくり回っていないだろうしな」






「…いいのかよ」

 ゼファーの居室から出て用意された部屋に戻った俺はエリオンに問いただした。

「何がだい?」

「あんな協定を勝手に決めちゃったことだよ。国王の了承を得なくてもいいのか?」

 ああ、それか、とエリオンは肩をすくめた。

「あのくらいなら何でもないよ。正式な話はこれからだからね。それにベルトラン帝国との緊張が和らぐのならフィルド王国としても願ったりさ。陛下もそれを分かったうえで持ち掛けてきたんだろうしね」

「そうなのか?」

「ああ、悔しいがお兄様の言う通りだな」

 リンネ姫が頷いた。


「そもそも最初に言ったテツヤにウルカンシアを任せるというのがはったりだったのだ。本心もあったかも知れぬが、おそらく承諾されるとは思っていなかっただろう。つまり我が国と協定を結んでテツヤを担当官に、というのが本命だったというわけだ」

 なるほど、交渉術でいう所のドア・イン・ザ・フェイスって奴か。


「同時にこちらへの牽制もあったとのだろうな。譲歩してやるからこの要求は呑むように、とな。こちらとしても無下にはできぬし実際願ったりな条件でもあった。まったくいけ好かぬ王だ!」

 リンネ姫はそれでも納得できないというように怒っている。


「まあまあ、フィルド王国にとって良いことなら良いんじゃないのか?」

「あやつがテツヤを自分のもののように思っているのが気に食わんのだ!テツヤは私のものだ!」

 いや、それはそれで違う気もするが…

「そうですよ、リンネ姫」

 アマーリアが口を開いた。

「テツヤは私たちの共有財産ですから」

「そ、その通りです!リンネ姫と言えどもこれは譲れません!」

 ソラノが声を張り上げた。

 その言葉にフラムとキリもうんうんと頷く。

 いや、それも違うんじゃないかな?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...