209 / 298
火神教騒乱
38.ガルバジアへの帰還
しおりを挟む
それからしばらくはウルカンシアで復旧の手助けをしていた。
ゼファーはこの場でやることは済んだとヘルマたちと共にとっとと帰ってしまい、惨状を見過ごせなかった俺は残ることにしたのだ。
主の好きにするがよい、とゼファーは言っていたけど本当に自由にできるとは思ってもいなかった。
俺がこうしたいと言えばそれは一つの異議もなく通っていった。
エリオン王子によると帰る前にゼファーが地方行政官に俺の言葉には完全に従うようにと言い含めていたらしい。
よその国から来た人間にそんな権利を与えていいのかよ、という疑問はあったけど与えられた特権を享受させてもらい、復旧は瞬く間に進んでいった。
そしてガルバジアへ帰る前日、俺たちは火神教本部へとやってきたのだった。
火神教本部は暴動の被害が一番大きく、振動のタイタヌスによって破壊された大聖堂と翼棟は全く復旧が進んでいなかった。
「これを置いては帰れないもんな」
俺は崩れ落ちた壁に手を当てて意識を集中した。
ビデオを逆再生させるように本部が元の姿へと戻っていく。
「す、凄い…テツヤさんは本当に何でもできてしまうんですね」
見ていたエイラが驚いたように目を丸くしている。
「細かい部分は再現しきれてないけどね。その辺はおいおい直していってよ」
「とんでもござらぬ!修復に何年かかるかすらわからず途方に暮れていたところです。これ以上望んではウルカン様から罰を与えられてしまいますわい。なんとお礼を言ったらいいのやら」
カミウス司祭はそう言って胸の前で手を組んだ。
「とりあえずこれで心残りなく帰れるかな」
「あ、あの、テツヤさん…」
帰る準備をしているとエイラがはにかみながら話しかけてきた。
「また、遊びに来てくれますか?何年かかってもいいので…私たちはここをもっともっと良くしていきます。それを見てほしいんです」
「もちろんさ!何か困ったことがあったらいつでも言ってくれよ。飛んでくるからさ」
エイラの頬が薄く朱に染まった。
「嬉しいです。きっと来てくださいね。約束ですよ」
「ああ約束だ!」
俺はエイラやカミウス司祭と別れを告げ、ガルバジアへ向かう帰路へついた。
◆
「此度の主の活躍、誠にご苦労であった。改めて礼を言おう」
ガルバジアに戻った俺たちは謁見の間ではなく王の居室に案内されることになった。
そこで待っていたのはゼファー、ベルトラン十五世とヘルマだけだった。
「主らへの公式な謝儀はまた日を改めて行う予定だが、その前に個人的に礼を言っておきたくてな」
「いいよそんな畏まったのは肩がこっちまう」
「そうはいかん」
ゼファーがテーブルの上の焼き菓子を摘まみながら首を振った。
「今回は火神教滅火派に協力していたウルカンシア地方行政官、力添えをしていた元老院議員を軒並み処分したのだ。その功績者が誰であるのかをはっきりさせねば皆に示しがつかぬ」
そう言いいながら俺たちへ焼き菓子を勧めてきた。
ベルトランは小麦の産地だけあって焼き菓子が凄く美味い。
「…だったら仕方がないけど…そこまで大事になってたのか」
「国家転覆を謀っていたのだから当然だな。総勢十五名の議員、行政官が処刑されたよ。元老院はまるで狩猟期のアナグマのように怯えておるわ」
「そんなにかよ…」
「主にとっては複雑かも知れぬがな。これも国を維持するためには必要なことなのだ。締めるべきところは締めねば国家という家屋はすぐに朽ち倒れてしまう。まあ近頃権力を傘に好き勝手していた元老院には良い薬になっただろう」
ゼファーはそう言って身を乗り出した。
「テツヤ、主には改めて礼を言う。あの地方は元老院の力が強く余と言えどもおいそれと手を出せる場所ではなかった。おかげであの地にはびこる腐敗と圧政を葬ることができた。あの地も今後は住みやすくなっていくだろう」
「止めてくれ、俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。…そういえばイネスはどうしたんだ?悪徳役人がいなくなったらちょっとは報われるのか?」
「あの女はウルカンシアの糧食管理長及び農政長官に任命したよ。あのような者がいればあの地も豊かになっていくだろう」
「そうか…」
俺は胸をなでおろした。
彼女の苦労が報われるのならこんなに喜ばしいことはない。
リンネ姫やアマーリアたちの視線が痛い気もするけどイネスのことはおいおい説明することにしよう。
「今まで火神教が管理していた水利も今後は国で管理する手はずになっている。彼の地の農業もやりやすくなるだろう」
「何から何まであんたの思惑通りって訳だな」
「嫌な言い方をするな。そもそもあの地は火神教の力が大きすぎたのだ」
ゼファーが苦笑した。
「火神教と地方行政官の癒着は余が王となる遥か前から続いていた。元老院も絡んでいたから手を入れようとするたびに横やりが入ってしまってな。どうしたものかと思案していたところにあの誘拐騒ぎが起こったというわけよ。主が巻き込まれたのは余にとって僥倖というしかあるまい」
そう言うとゼファーが改めてこちらを見てきた。
「テツヤ、あの地を治める気はないか?」
ゼファーはこの場でやることは済んだとヘルマたちと共にとっとと帰ってしまい、惨状を見過ごせなかった俺は残ることにしたのだ。
主の好きにするがよい、とゼファーは言っていたけど本当に自由にできるとは思ってもいなかった。
俺がこうしたいと言えばそれは一つの異議もなく通っていった。
エリオン王子によると帰る前にゼファーが地方行政官に俺の言葉には完全に従うようにと言い含めていたらしい。
よその国から来た人間にそんな権利を与えていいのかよ、という疑問はあったけど与えられた特権を享受させてもらい、復旧は瞬く間に進んでいった。
そしてガルバジアへ帰る前日、俺たちは火神教本部へとやってきたのだった。
火神教本部は暴動の被害が一番大きく、振動のタイタヌスによって破壊された大聖堂と翼棟は全く復旧が進んでいなかった。
「これを置いては帰れないもんな」
俺は崩れ落ちた壁に手を当てて意識を集中した。
ビデオを逆再生させるように本部が元の姿へと戻っていく。
「す、凄い…テツヤさんは本当に何でもできてしまうんですね」
見ていたエイラが驚いたように目を丸くしている。
「細かい部分は再現しきれてないけどね。その辺はおいおい直していってよ」
「とんでもござらぬ!修復に何年かかるかすらわからず途方に暮れていたところです。これ以上望んではウルカン様から罰を与えられてしまいますわい。なんとお礼を言ったらいいのやら」
カミウス司祭はそう言って胸の前で手を組んだ。
「とりあえずこれで心残りなく帰れるかな」
「あ、あの、テツヤさん…」
帰る準備をしているとエイラがはにかみながら話しかけてきた。
「また、遊びに来てくれますか?何年かかってもいいので…私たちはここをもっともっと良くしていきます。それを見てほしいんです」
「もちろんさ!何か困ったことがあったらいつでも言ってくれよ。飛んでくるからさ」
エイラの頬が薄く朱に染まった。
「嬉しいです。きっと来てくださいね。約束ですよ」
「ああ約束だ!」
俺はエイラやカミウス司祭と別れを告げ、ガルバジアへ向かう帰路へついた。
◆
「此度の主の活躍、誠にご苦労であった。改めて礼を言おう」
ガルバジアに戻った俺たちは謁見の間ではなく王の居室に案内されることになった。
そこで待っていたのはゼファー、ベルトラン十五世とヘルマだけだった。
「主らへの公式な謝儀はまた日を改めて行う予定だが、その前に個人的に礼を言っておきたくてな」
「いいよそんな畏まったのは肩がこっちまう」
「そうはいかん」
ゼファーがテーブルの上の焼き菓子を摘まみながら首を振った。
「今回は火神教滅火派に協力していたウルカンシア地方行政官、力添えをしていた元老院議員を軒並み処分したのだ。その功績者が誰であるのかをはっきりさせねば皆に示しがつかぬ」
そう言いいながら俺たちへ焼き菓子を勧めてきた。
ベルトランは小麦の産地だけあって焼き菓子が凄く美味い。
「…だったら仕方がないけど…そこまで大事になってたのか」
「国家転覆を謀っていたのだから当然だな。総勢十五名の議員、行政官が処刑されたよ。元老院はまるで狩猟期のアナグマのように怯えておるわ」
「そんなにかよ…」
「主にとっては複雑かも知れぬがな。これも国を維持するためには必要なことなのだ。締めるべきところは締めねば国家という家屋はすぐに朽ち倒れてしまう。まあ近頃権力を傘に好き勝手していた元老院には良い薬になっただろう」
ゼファーはそう言って身を乗り出した。
「テツヤ、主には改めて礼を言う。あの地方は元老院の力が強く余と言えどもおいそれと手を出せる場所ではなかった。おかげであの地にはびこる腐敗と圧政を葬ることができた。あの地も今後は住みやすくなっていくだろう」
「止めてくれ、俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。…そういえばイネスはどうしたんだ?悪徳役人がいなくなったらちょっとは報われるのか?」
「あの女はウルカンシアの糧食管理長及び農政長官に任命したよ。あのような者がいればあの地も豊かになっていくだろう」
「そうか…」
俺は胸をなでおろした。
彼女の苦労が報われるのならこんなに喜ばしいことはない。
リンネ姫やアマーリアたちの視線が痛い気もするけどイネスのことはおいおい説明することにしよう。
「今まで火神教が管理していた水利も今後は国で管理する手はずになっている。彼の地の農業もやりやすくなるだろう」
「何から何まであんたの思惑通りって訳だな」
「嫌な言い方をするな。そもそもあの地は火神教の力が大きすぎたのだ」
ゼファーが苦笑した。
「火神教と地方行政官の癒着は余が王となる遥か前から続いていた。元老院も絡んでいたから手を入れようとするたびに横やりが入ってしまってな。どうしたものかと思案していたところにあの誘拐騒ぎが起こったというわけよ。主が巻き込まれたのは余にとって僥倖というしかあるまい」
そう言うとゼファーが改めてこちらを見てきた。
「テツヤ、あの地を治める気はないか?」
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる